一歩からの
さて就活だとドアを開き一歩目を踏み出し、振り返り戸締まりをと考える前
「は」
たった一音しか発せられぬ程の異常が迫る。
赤、真紅
炎としても見たことのないほど鮮やかな赤が視界全てを支配し
パァン!!という爆破音と破裂音が合わさったような少し間抜け聴こえる音、だが威力は激烈だった。
(テロ?俺の部屋ピンポイントで?痛い何だココどこ)
判然としない意識で思い出す。
自分の部屋のガラスを突き破り、平行に吹き飛び隣のマンションの壁に激突し、そのままズリ落ちて項垂れるように倒れている。
というのが三南の現状だ。
(事故じゃない、なら警察いや誰か通報してる痛いガス爆発じゃない痛いだれも通りかからない痛い)
痛みで考えが纏まらない、支離滅裂な思考に更に混乱をもたらす者が来る。
「∆∇∑∈‼」
「∆∇∑∈∂∧‥‥∬∞∋∌∂∀∧」
三南が遺憾ながら平行に飛んだ為に引っ掛からなかったフェンスの上からエルフらしき人が何かを話している。
そうエルフだ。
長い耳に金髪に緑衣に杖、男性のエルフ2人が話すというより年重のエルフに若いエルフが叫ぶ様に訴え、ソレを年重のエルフが宥めているように見える。
(意味も訳も何もかも分からないが……若い方の目は復讐の目だ。蔑みも嘲りも無いなら理由があるはず)
自分を無視して言い争う2人だが、時折怒りを叩きつけるように三南睨む若いエルフに復讐を、報復を感じた。
彼らには何か理由がある。
経験則で導き出した勘だが、三南は間違っていないと確信していた。
ならば後は立ち上がり話し合うだけだ、足に腰に全身に力を込めて立ち上がる。
(理由ありの暴力なら話し合える……筈だ)
取り敢えず保険として両手を頭の後ろに組み、よろめきながら3歩ほど進んで地面に膝を付く。
当たり前だが自分を軽々数十メートルブッ飛ばせる相手に真正面から交渉などできないのだ。