始まり
「そんな……嘘だろ」
世界が変わった。
というよりは人類が居なくなった世界の次の日の朝、三南は涙を流しながら小さな5つの金具を握り締めていた。
「爺ちゃんゴメン、大切なっ」
祖父から貰った御守り。知らない模様が刻みこまれていた世界で一つの手作りの御守りが、壁や天井に付ける為の金具を遺して消失していた。
三南と同じ肌の色、だが時代を考えれば三南と比較にならない程に苦労したであろう祖父の形見を無くした後悔に打ちひしがれる。
実際問題三南は祖父が居なければ真っ当に生きる等という選択を選ばなかった。
イジメてきた奴らに復讐しただろう、何もしなかった教師に復讐しただろう、そして実質長男長女しか子供と認識していない両親に最も苛烈な復讐をしたに違いない。
だが三南は両親は祖父の子だから両親を赦した。
祖父が誇れるような人間になれるように自分の得意分野を探し、真っ当に真面目に真剣に生きた。
その仕事も裏切りによって失ったが仕方ないと諦めている。
「似たようなの……いや爺ちゃんに失礼だよな」
金具だけになったモノを机の引き出しに大切に仕舞い込み、類似品を買うという案を却下する。
思い出を踏みにじる結果になると三南は悟っていた。
そして三南は朝食をゼリー飲料で一瞬で済ませて顔を洗い身嗜みを整え、スーツに着替える。
「まぁ技術もあるし直ぐに見つかるだろ」
新たな職を探しに三南は一歩を踏み出す。
ガチャ
ドアノブを回し、ドアを押し出し外界への最初の一歩を踏み出す。
それが始まり。
三南という男の波瀾万丈の人生への第一歩だ。