覚醒
「話逸れたな、数値は参考程度ってのと覚醒しても器がデカくなる訳じゃねぇって事を覚えときゃいい」
「つまり100与えられようと器が1なら99は垂れ流しって事か?」
「まぁ三南は過去に例が無いぐらい存在力を叩き込まれてる、少し器が拡張しても可笑しくないが……倍がせいぜいだろうな」
「俺自身の器は問題じゃ無い。 溢れた存在力が皆に向かうか垂れ流されたままかの問題だ」
三南は最初から自分が無双して敵を倒すなど考えていない、そもそも人1人殺して精神に問題が発生するのが人間であり三南も例外ではない。
力がある足手まといは味方を苛つかせる原因になる、三南も分け与える力が無かったら覚醒など求めなかっただろう。
力への憧れはあるので絶対にとは言えないのが人間だが、その場合は端っこに引っ込むので仕方無いと赦してもらうしかない。
「そればっかりは覚醒させねぇと分からん、って事で」
「ああ、頼む」
真剣な表情で自分の後ろに回り両肩に手を置くキリュウに、三南は目を瞑って静かに全てを任せる。
もはや三南は祈る事以外出来ない。
感情で存在力が移動する能力が器から溢れたモノにも適用される事を
世界が揺れた。
「グッオォ」
キリュウのうめき声が聞こえるが三南は気付かない、世界が揺れたと思えば視界がクリーンになったような色彩が強まったような不思議な感覚に戸惑っていたから。
「……どうだキリュウ! 力はお前に移ってるか?!」
最初に確認するのは最も重要な事、聞いた中で最大の器を持つキリュウに存在力を過不足無く供給出来れば最高。
可能性として上から確認していく方がいいと無意識に三南は判断した。本当なら下から確認するのが過去から今までの癖であり、自分に期待しても裏切られ続けた三南の処世術。
だが、覚醒時の全能感とも言える感覚が三南に少しだけ自信を与えた。
「あぁ満タンだぜ、アッチで随分と消費したが溢れたぐらいだ」
最大の器すら溢れさせた存在力、人類の総力のような物だから当然といえば当然だが三南は自分の欠陥をこそ心配していた。
「良かった。 俺でも出来たか」
三南はキリュウの話を理解して量に疑問など無かった、ただ自分に出来る訳が無いという根底にこびりつく諦めが三南を不安にさせていた。
「……お前だからできたんだよ馬鹿野郎が!」
「痛って! 何すんだキリュウ!」
その後ろ向きの自信を理解できず、できなかったが何となくムカついたので三南の後頭部を引っ叩く。
いきなり叩かれた三南は抗議の声を上げるがキリュウは無視した、その方が良いという勘に従い転移陣へと逃げるように足速に去る。
そして横暴なキリュウを引っ叩く為に三南も追いかけるように転移陣に向かって走り出す。
向かった先で口喧嘩に発展し、仲直りまで一通りこなした三南の顔には今までに無い屈託の無い笑顔が浮かんでいた。




