卵
気安く話せる龍神改めキリュウへの三南の相談は戦闘力の確保。
現在はひたすら固く、引くほど回復力が高いだけの三南は頑丈な肉盾にしかならない。
「つまり存在力の覚醒をしたいって事か?」
「そうなるな。 聞く限りでも魔法は攻撃防御に罠に圧縮と中々に万能みたいだからな、是非とも習得したい。」
そう、三南だって男の子なのだ。
未知のエネルギーを変換して憧れの魔法を使う切っ掛けが欲しい。
さらに三南はオタクなので両手から波動を出したいし、黒い炎の龍など実現できたら狂喜乱舞するだろう。
流石に一応のリーダー的な立ち位置を鑑みて内心に留めるだろうが、やってみたい事に変わりは無い。
「あぁー じゃあ交換条件って訳でも無いが、オレの火種を赦してくれ」
「火種? エルフの神樹と魔王自身の宝玉みたいなものか? 龍神っていうキリュウ自身が火種じゃないと?」
「あぁ、実のところ偽神の狙いはコイツが本命だとオレは睨んでる。」
そう言って胸の部分を発光させて現れたのは丸い岩のような質感の玉。
「次代の龍神の卵。あっちの世界の人間って名乗ってた異人の総数は約110億人、この卵を狙ってきたのが60億人だ。 それも異常に強化されてたんだよ、全身の筋肉が膨れ上がっててな。10人程度の少数で眷属達に縄を括り付けて地面に引き落とし、龍に効果のある毒で殺しまくってやがった。」
「総戦力の半分以上か……確かに本命と言える数だな」
「眷属は8割殺されて5000しか残って無かった上に偽神のクソの操る異人の脅威になる3000がオレ達の全軍だ、残りは老体に子供……避難させてた奴らだが」
「異人の糧として残したんだろう。 殺しやすく力を回収しやすいからな……異常強化の筋肉ダルマは龍を地面に落とした後どうなった?」
「察しがいいな、内部から爆発したみてぇに死んだらしい。他人の存在力を無理矢理詰め込んだ結果だろうな、筋力を上げるなんて単純な力も他人である偽神から注ぎ込まれれば自爆するわな」
「シュエンが言ってた緻密な制御無しに叩き込んだ訳か……卵の件は赦すし守る、約束通り覚醒の方は頼むぞ」
「おう、全力を尽くすぜ。」
キリュウの今までの戦いの被害と生きている仲間と取り残され死んでいく仲間。偽神の思惑の予測と異人の異常強化の概要、様々な事を話したが計画に変更は無い。
次代の龍神の卵を守る代わりに三南の存在力を覚醒させる手伝いをする、決まった事はこれだけだ。