星権と絶望
アナは歌うように語った。
歌うようにというか本当に歌として覚えていたらしく所々変に間延びした歌詞は分かりにくかったが要点は押さえており、三南は概要を理解できた。
(エイリアン的な奴らが攻めて来て光の柱、つまりビームを撃ってきたが神樹が全てを防いだ。その上非戦闘員の避難場所も用意したと)
神樹は守護において星の全てを覆うバリアを張れる上に内部に絶対安全地帯を大陸一つ分は作れるという防御特化の星権を持つ。
アナの歌を聞きながら頭の中で情報を纏める。
(龍神は数百の眷属を率いて神樹の護りの外で浮かぶ鉄塊、多分宇宙船を次々破壊して周った。 星権全開だと身の丈の十倍の炎弾を際限なく撃ちまくれる、龍神が10メートルだとしたら100メートル単位の炎弾が間断なくか)
外敵はビームといい宇宙船といい科学的なエイリアンだったのだろうが、宇宙で酸素が無い筈なのに燃え続けて襲い掛かってくる炎弾にさぞ困惑しただろう。
龍神はシュエンに聞いた通りに分かりやすく攻撃特化の星権を振るう。
(そして魔王の宝玉は指揮と情報共有だな、タイムラグ無しに相手の得意分野で殺された仲間の情報を伝えて同じ轍を踏ませない。非戦闘員は速やかに神樹の安全地帯に誘導。神樹がバリアを張る前に侵入した捨て駒部隊とはいえ、自被害数百人に対して相手は全滅で大凡20万を殺し尽くせた訳か)
「我らは外敵に勝利した〜そして未来でも我らは勝利するだろ〜3つの星権がある限り〜」
長々と歌っていたアナに拍手を贈り、星権の概要を掴めた事に感謝する。
「ありがとう参考になった。 アナは歌も上手いんだな、綺麗な歌声だったぞ。」
「役に立ったならいい! 褒められると嬉しいからもっと褒めていいよ!」
「はいはい、綺麗だし可愛いし美しいよアナ」
三南がテキトーに褒めると満足そうにむふーと息を吐き満面の笑顔で三南の手を握り、意味も無く上下させ満足したら何時の間にか追加されていたソファーに座り、部下が用意したと思われるジュースを美味しそうに飲む。
「なあシュエン、アナって何歳なんだ? いくら何でも言動が幼すぎるぞ」
「確か先代の宝玉が消えて星権が継承されたのが5年前です。次代の宝玉を持つ者は自然と現在の宝玉を持つ者と出会う運命にあるとか」
「……面倒だな、直接聞こう。」
女性に年齢を聞くのは失礼だと思い、周りから情報を集めて間接的に知って終わろうとしたが、思った以上に面倒だったのでデリカシーなど知るかと突撃を敢行する。
「アナって何歳なんだ?」
「8歳!」
三南とシュエン、ついでにエルフ全員の思考が止まった。情報を受け入れる事を脳が拒んでいる。
三南は容赦なく情報受け入れを拒否ののち放棄し、次に来るであろう客に関する事に考えを巡らせる。
考えたら負けなのだ。
「恐らく次は龍神が来る。クソ神というか偽神が龍神をお前達の星に居座らせて良い事なんて一つも無いからな」
龍神は異人を絶滅させると決意した。ならば各地を飛び回り、目についた集団を殺し尽くすだろう。
折角攫った地球の60億人すら見つかれば根だやされる。偽神にとっては害悪でしかない。
「龍爺もな、1ヶ月ぐらいアナと頑張ったから疲れてるかも?」
今度こそ三南の思考が理解を拒んだ。
「いっ……かげ…つ?」
背筋が凍るような感覚、冷や汗が際限なく溢れ出る。
そんな状態でも考える、考えてしまった。
地球と異世界の時間の流れが違う。
意味する事は、地球人類を取り戻せる可能性が0になったという事実。
もう三南の会いたい人間とは会えないという現実。
目の間が暗くなる。三南とて可能性としてはあり得ないと言っても、心の何処かで一縷の望みは持っていたのだ。
ソレが断ち切られた。
三南は意識を失いテーブルに向かって倒れ込み動かなくなった。