魔王襲来
「会談中失礼します! 我々が来た転移地点から魔王様と魔族が出現! 我々同様の強制転移かと! 数500!」
険悪ではないが滞り止まっていた益体のない時間を外からの報告が切り裂くように飛び込んで来た。
「魔王のみ通してくれ、休むも食べるも全ての建物を使って自由にしていい。扉や窓の破壊も許可する。」
「え、はい………姫様?」
「三南さんの言う通りにして下さい。他の皆にも三南さんの発言は私および王の言葉として受け取りなさい。」
「………了解しました! 直ぐに魔王様を連れて参ります。少々お待ちを」
兵士は数秒悩んだが命令に従うことが最優先、現状の自分達の主が命令したことなので従う事が兵士として正しいのだと言い聞かせて部屋を飛び出す。
「一応ありがとうと言っておく、俺が最後の人類ならエルフに世界を譲って死ぬまで生きるつもりだったが、もう遠慮は無しだ。 俺達は一緒にクソ神を殺すかクソ神に殺されるかの2択になった。 シュエンも敬語はいらない、一蓮托生の仲になったんだから」
「いいえ、私は元々がこの口調なので。 三南さんは遠慮無く普通に話してください。 言っては何ですが今までの違和感が無くなって身近に感じられます」
「了解。 とりあえず俺の予想だけ伝えておくぞ、多分火種はまだ増えるから気に病みすぎるなよ」
最早取り繕うのも面倒になった三南が現実を語って聞かせるように、シュエンが皆で一緒に死ぬか元凶を倒すかしかないのだと理解している事を確認する。
シュエンも当たり前のように頷き肯定を示す。
三南の予想には首を傾げていたが
「魔王アナ来たよ」
魔王の胸に輝く宝玉を見て理解した。
「魔王の宝玉とは身体の一部だったのですね、祭壇に飾られるような大きな物だと思っていました。」
伝え聞いていたのはエルフの守る神樹、龍神が司る龍核、魔王の持つ宝玉という言い伝えのみ。実際に2人は初対面である。
「宝玉とは神樹とは龍神とは何なのか俺も、多分シュエンも詳しく知らなくてな……知ってるか?」
三南もシュエンの反応と自分の感覚からして完全に火種を持ち込んだ相手なので遠慮無しだ。
シュエンは呼び名から姫様、アナも女性だが魔王なので神樹や龍神に自分の持つ宝玉の事を知っている可能性は高いと考えて問うてみる。
「いきなりだね、知ってるよ。話す?」
魔王アナは言動がどことなく子供っぽい。
見た目は完全に大人で白の長髪に褐色の肌で美人と躊躇いなく言える美貌に、ドレスのような服の前をきっちり閉じれば宝玉を隠せるだろう突き出た胸。
その美人が相応の声質で、しかし子供っぽいトーンと動きで対応されるとギャップで混乱する。
混乱するが混乱している場合ではないと気合いを入れ直した三南が改めて頼み込む。
「今後の対策に必要なんだ。教えてくれ」
「いいよ! 別に隠してない、でも昔の事だからアナも曖昧」
「それでもいい、頼めるか?」
「うん!」
とんとん拍子で話が進む。
アナが素直過ぎるのだ、誰か保護者がいないと危ないかもしれないと思い始めた三南だが好都合なのでよしとする。