火種
三南はエルフが重要な何かを意図的に秘匿している事に気付いた。
頭脳を働かせながらシュエンに目線で続けろと訴える。少し鋭くなった視線に困惑しながら話しの締めを始める
「私達は龍神の提案通りに異人の王族を追いかけ、追い詰めたと思った瞬間に再び包囲するように異人の軍団が現れ、密集陣形を取り大魔法で焼き払う準備を始めた次の瞬間には、この世界に転移されていました。」
「民は放置した形になったんですか? 保護したと言いましたが、別世界に転移させられたらもう時間の問題です。神樹とやらも千年や万年あれば突破が不可能な筈は無い………なのに貴方達は殺された仲間を想えど元の世界に帰ろうとしていない。 方法自体は探しているのかも知れないが、全く必死さが無い。」
そう、エルフ達は仲間思いだと会話の端々から伝わって来たのに三南に帰還方法が無いかダメ元で訊ねる事も無く、子供達の話であれだけ感情的になっていたのに残してきた民達は保護したの一言で終わっている。
「正直に言って下さい。 情報が足りないと1秒後に偽神が現れる可能性が否定できません。偽神は明らかにエルフ関係の何かを欲しがっている、予想はつきますが予想通りなら貴方達が落ち着いている理由がわからない」
神樹。コレが確実に関わっていると核心している三南がシュエンに情報開示を迫る。
「王に確認を」
「いや王は」
「だが神樹」
「馬鹿が黙れ」
シュエンが後ろを向いて王に確認をと言った後、今まで頑なに黙っていたエルフ達が話し始める。
隠し事がありますと言っているようなものだ。
三南はゆっくりと水を全て飲み干し置いてあった2リットルペットボトルからコップに注ぎ、ついでにシュエンのコップにも注いてあげてソファに体を預けて不動の意思を見せる。
何時間でも座ったままでいてやる、取り敢えず水があれば半日は付き合ってやれる。
だから諦めて話せ
と腕を組み表情と態度で語っていた。
「姫様」
「そうですね………決定的な決裂になるかもしれませんが、質問には答えると言いました。 言うしかありません」
「いつまでも隠し通せるものではありません」
「姫様。ご英断ですわ」
どうやら仲間内の会話は終わったようだと腕組みを解いて膝に手を置き、此方に向き直るシュエンと目を合わせる。
「私達の民はここに居ります。」
民族衣装の懐から出した袋、銀糸なのか黒い布に煌めく不可解な模様が描かれている袋。
全体で50センチ四方ほどの袋を広げて開け口に手を入れて取り出したのは20センチ程の球体。
「あぁ〜………そういうアレか……ファンタジーだもんな、そっちの世界」
見た目だけなら水族館で売っている硝子の球体のアレだが、神々しさと入っているものが違った。
木、樹木と眠ったエルフが所狭しと並んでいた。
「つまりアンタ達はこの世界に」
荒くなった本来の口調の詰問しながらシュエンを睨み付ける三南に、本当に申し訳無さそうにシュエンは答える。
「はい。民と神樹はここに居ます。 故に私達はこの世界に火種を持ち込んだ事になりました。 まことに申し訳ありません」
深々と頭を下げるシュエンと今日最大の溜息を吐く三南。
一応シュエンの世界の話しは粗方終わり次は三南が今いる世界の話しをというのが予定だったのだが、最後の特大の火種で微妙な雰囲気のまま10数分誰も言葉を発する事は無かった。