卑族
「愚かながら生命の理すら捻じ曲げた種族、今は正確には種族名は伝わっておらず『卑族』と呼ばれています。」
「人格の伴わない天才種族って事か」
昔話のような曖昧さだがシュエンはエルフでも若手に見える。事実として彼女にとっては伝え聞いた昔話なのだろう。
「ええ、認めたくはありませんが卑族は天才でした。星の祝福に目をつけ、寿命が長く出生率が低い自分達やエルフ、逆に寿命が短く出生率の高いゴブリンを攫い、調べ尽くして導き出しました。 自分達が力を手に入れる方策を、夥しい数の犠牲を生んだ悍ましい結論を。」
「………………」
想像がついた三南だが事実と想像が違えば認識に差異が生まれる。故に目で続けるように促す。
「長命種には多く短命種には少なく授けられる存在力を更に多く手に入れる為には、他種族から存在力奪う尖兵である人間と存在力を貯めておく偽神を造ればいいと結論付け、自種族である卑族10万にゴブリンを大凡200万そしてエルフを1万人犠牲にして本当に造り上げてしまったのです。」
「ソレが異人とクソ神……確認しますが異人は短命で繁殖力が強く、存在力が0の代わりに存在力を溜め込む機能を……ん? 違和感がある」
「三南さんの違和感は恐らく釣り合いが取れていないという矛盾から来るものでしょう。 長命種を下地にして寿命を削り代わりに繁殖力を、星の祝福から切り離し恩恵を受けない代わりに存在力を奪い取り溜め込む力を、そして三南さんが疑問に思った貯めた力を偽神という特定の存在に届ける方法の代償は『感情』です。」
優秀なマッドサイエンティストや天才的な強欲の化身と表現されるような卑族。
彼等彼女らは同族も異種族も何もかも利用して便利な道具が欲しかった、当然ながら道具に感情はいらない。どころか邪魔な部分を消して必要な機能を生み出せたのだから卑族にとっては一挙両得だったのだろう。
「そして卑族は研究を続ける期間に当然ながら他種族から滅多打ちにされていた、ですが間に合ってしまいました。」
「卑族は異人を大量に繁殖させて片っ端から戦わせた。感情が無いから恐れない、数が多いから一人に対して複数で襲い掛かれる。 そして卑族からすれば異人は戦って死んでも増やせばいい、他種族を殺して死ねば卑族の戦力は増して大喜びと。」
取り敢えず半分を出撃させて他種族から存在力を回収、戦力を存在力で強化して最低限の男を残して出撃させ膠着状態を生み出し時間を稼ぎ数を増やす。
後は繰り返すだけだ。
「もはや傍観する種族は居ませんでした。最終的に龍神が卑族を滅ぼしました。 龍神は星の子に攻撃をすれば自己が削れ死に至る存在なので決死の覚悟で殺し周り、先代の龍神が息絶えるのと引き換えに卑族の全てと異人の8割を殺し尽くしたと聞いています。」
「……あー………はい。」
もはや質の悪い人間大の寄生虫の話しを聞いたような嫌な気分を表した表情で、文字通りなんとも言えない状態になった三南。
水を一口飲み、コレはまだ始まりで前提の話なんだよなと遠い目で天井を見上げる。