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16/16

16,壮大なマッチポンプが判明します。


「……ああ、決着がついたみたいね」


 白亜の龍の残骸が降り注ぐ中、佇んでJOKERを見上げている未来アーリエンデ。

 その顔に浮かんでいるのは――何か憑き物が落ちたか、やるべき事をすべてやり遂げたかのような表情だった。


「正気に戻ったみたいね、未来の私」

「未来アーちゃん! 大丈夫か!?」

「ええ、おかげさまでね。随分と激しく助けてくれたみたいじゃない」


 ゴキッゴキッと首を鳴らして、未来アーリエンデは苦笑した。


「騒がせてごめんね。そして、私の馬鹿げた行動に付き合ってくれてありがとう」


 その言葉を合図にするように、未来アーリエンデの体が静かに透け始めた!!

 どんどんと、透けて、消えていく!!


「なッ、未来アーちゃんが消え……!?」

「多分、未来に帰るんでしょ。もうこの時代にいる意味は無いもの」

「その通り。やるべき事は全部やった。その結果を見届けた。余韻とか風情とか、そう言うのあんまり重要視しないタイプなのは知っているでしょう? 用が済んだのなら、さっさと帰らせてもらうわ」

「待ってくれ、未来アーちゃん! 俺はまだ、キミに寄り添えていない!! キミに寄り添って、その苦しみを理解して、そして涙を拭って泣き止むまで側にいる!! それが幼馴染である俺の――いや、夫である俺のやるべき事だ!!」

「大丈夫」


 未来アーリエンデが浮かべたのは、まるで太陽が弾けるような純粋な笑顔。


「ジョー。あなたは、何も変わっていないから」


 ……それを最後に、未来アーリエンデは完全に消えてしまった。


「未来アーちゃん……」

「……妙ね」

「……? 何がだ?」

「私にしては、往生際が良すぎるわ」


 万策が尽きたにしても……ジョウのいない未来へ帰ると言うのに、あんなにあっさりとしていられるか?

 アーリエンデは違和感を覚えた。


 と、ここで特設謹慎部屋(スペシャル☆プリズン)の扉が開く。

 入って来たのは、ロリコン補佐官あらためコンロイ補佐官。未来アーリエンデから自身が未来でやらかしているっぽいを聞かされグロッキーになっていたはずだが、復活したようだ。


「って、うぉ!? JOKERが変身している!?」

「あら、目が覚めたのね。コンロイ補佐官」

「何でJOKERから室長の声が!? 現在の方ですか!? 未来の方は!?」

「帰ったわよ」

「えぇ!? くそう! 未来の僕についてどうにか詳しく聞き出して、未来を変えてやろうと思ったのに!!」

「いや、タイムパラドックスが起きるから話せないって言われたでしょ、諦めて――」


 ふと、アーリエンデは気付く。


 ――『タイムパラドックスが起きるとマズいから』


 未来アーリエンデは、確かにそう言った。

 ……何がマズい?

 普通に考えたなら、未来の消滅。未来アーリエンデが元の時代に帰れなくなる事だろう。

 だが、果たしてアーリエンデが「ジョウのいない時代に帰れない事」に不都合を感じるだろうか?

 そもそも、未来アーリエンデが現在アーリエンデを殺そうとした時点で、タイムパラドックスの発生は確定的だろう。どうして、あの場面だけタイムパラドックスを忌避した?


「……まさか」


 未来アーリエンデとの戦いは――正史?

 未来アーリエンデは今日この出来事が起きた「未来アーリエンデとの戦いに勝利したアーリエンデの五年後の存在」と言う事か?

 だとしたら、このまま行くとこの五年以内にジョウの身に【何か】が――


(いや、違う。それなら私はむしろ率先してタイムパラドックスを発生させに行くはず。この私が、ジョウのいない未来を容認するなんて有り得ない)


 それらの事から導き出される答えは――


「……ああ、そう言う事。マジか私」


 嘘だと言って欲しい。有り得ないと言いたい。

 だが、自分で自分に追い打ちをかけるように、アーリエンデは思い出してしまう。


 ……未来アーリエンデは「未来でジョーに【何か】あった」だとか「未来にはジョーがいない」だなんて、一言たりとも言っていない。すべてアーリエンデの仮説であり、未来アーリエンデはそれを明確に否定も肯定もしていない!!


 つまり。


「ん? どうしたんだアーちゃん。さっきから独りごちって」

「………………ジョー。その、ごめん。ほんとごめん」

「どうしたんだ!? アーちゃんが素直に謝るって相当だぞ!? 一体何が!?」

「ごめん、今は詳細を語るのもちょっとしんどい」

「マジでどうしたんだアーちゃァん!?」



   ◆



 ――五年後。


「おぇッ」


 実にSFっぽい巨大カプセル【最大で五年前まで遡る事ができる時間逆行専用タイムマシン】から出た途端、アーリエンデは口からあるものを吐き出した。

 それは掌に包み込めそうなほど小さな――白亜の龍。アーリエンデの胃液まみれである。


『まったく……トんだ茶番に付き合わせてくれたな』


 まるで風呂上りの犬のようにプルプルっと身震いをして、白亜の龍は胃液を振り払う。


『イブロア銀河帝国の霊獣将軍である我を、こんな運用……正気ではない。これだから地球人種は』

「復活させてあげた上に、毎日ドラ焼きまで食べさせてあげているんだから、少しくらい役に立ってくれても良いでしょう?」

『……ふん。まぁ良い。約束は守れよ。今日のドラ焼きは三つだ』

「はいはい。ジャパンからとびきりの奴を取り寄せてあるわ。ピィちゃんと一緒に食べなさい」

『魔女の小娘は今日も来るのか。このところは毎日だな』

「仲良しでしょ」

『ほざけ。ただのドラ焼き愛好仲間だ』

「それを仲良しって言うのよ」

『絶対に認めんし』

「こんだけ地球に染まっておいて相変わらず堅くなねぇ……」

『矜持と言うものだ。覚えておけ劣等種』

「はいはい、ご立派ご立派」


 ミニミニした白亜の龍を肩に乗せ、アーリエンデは部屋を出た。

 階段を登ると、自宅の一階に出る。途端、ある人物と鉢合わせた。

 まだ首も座っていない我が子を大事そうに抱きかかえ、あやしながらウロウロしていた男。


 その男の名はジョウ・ジョレーク、三〇歳。


「おや、アーちゃん。出かけると言っていたが、地下研究室に行っていたのか。それにハックも。ピィちゃんならもう来てお前を待っているぞ?」

『む、そうか。やれやれ、では出向いてやるとしよう。ドラ焼きパーティの始まりを告げる』


 白亜の龍ことハックは小さな翼をパタパタさせてアーリエンデの肩から飛び立ち、リビングの方へと向かって行った。その後ろ姿を見送り、アーリエンデは苦笑する。


「……過去の私も言っていたけど、本当、俗っぽくなったわよねぇ」

「過去?」

「何でもないわ」


 軽やかに笑って済ませて、アーリエンデはジョウが抱く我が子の顔を覗き込む。

 名をアンジェリーナ・ジョレーク。まだアーリエンデとジョウのどちらに似るか分からない、安らかな娘の寝顔だ。


「……む!? アーちゃん、ちょっと待て。白衣に血が!?」

「ああ、大丈夫よ。これフェイク鼻血だから」

「フェイク鼻血って何だ!?」

「女にはね、『すごい勢いで鼻血を噴いて気絶したフリ』をしなきゃいけない時があるのよ」

「初耳過ぎる!! 本当にアーちゃんは俺の知らない事をよく知っているな……」

「あ、そう言えばジョー。あなた最近、ちょっとお腹がたるんできたんじゃない? 五年前のあなたは昨夜のあなたより腹筋がキレていたわよ?」

「む……やはりそう感じるか……? 実は俺も運動不足を感じていて……ん? と言うか何故、比較対象が五年前……?」

「ここまでヒントを与えてもピンと来ない辺り、あなたは本当に馬鹿よね」


 ――要するに、最初から最後まで、徹頭徹尾マッチポンプだ。

 アーリエンデは今現在、「ジョウと結婚して幸せな家庭を築く未来」を作るため、過去に行って演技をしてきた。かつて自分が身を以て体験した【未来アーリエンデ襲撃事変】を再現するために。


 それはつまり、ジョウの未来をアーリエンデの都合で捻じ曲げる事にもなる。

 多少の躊躇いはあったが――まぁ、アーリエンデが間違いを犯したら抱き締めてでも止める、永遠に抱き締め続けると宣った男だ。その覚悟に甘えさせてもらう。


「さて、と。用事も済んだし、州知事選挙の最終討論会でも傍聴しに行ってくるわ」

「ああ、俺も行きたかったが……アンを見ていよう。コンロイさんに応援していると伝えてくれ」

「はいはーい」


 アーリエンデは極薄スマホを取り出して、州知事選挙最終討論会の会場案内付き画像ファイルを表示する。


 ――州知事最有力候補、ロドリアス・コンロイ。

 元はアーリエンデの部下、宇宙開拓機構NUME(ヌメ)カンパニーの地球外性脅威対策室・室長補佐。

 今や、「子供たちの未来が宇宙の未来」をスローガンに「育児支援施策の拡充」と「児童ポルノ法違反の最高刑を死刑にする」を二大公約に活動している政治家様だ。


「本当、ここまでガチだったとはねぇ……」


 かつてロリコンロリコンと揶揄していたのが本当に申し訳無い。

 自己申告通り、彼は光のロリコンだったのだ。

 子供のための施策に心血を注いでくれる政治家――親になった者として、足を向けては眠れない存在である。なのでせめてもの贖罪に、アーリエンデは彼の政治活動を可能な限り応援しているのだ。討論会の傍聴もその一環。


「……ん?」


 不意に、スマホの画面に通知が。


 ――緊急災害速報!


「……ッ!」

「アーちゃん!」


 おそらく速報の着信音を聞いて即座に動いたのだろう。

 ジョウは既にアンジェリーナをリビングのベビーベッドに移したのか、手空きになっていた。


「アンはピィちゃんとハックにお願いしてきた。それで、速報の内容は?」

「イブロア銀河帝国兵団――ハロニア星人の宿敵で、ハックが元々所属していた異星人の帝国軍隊ね。ハックが率いていたのは尖兵部隊で、どうやら規模的に今回が本隊みたい」

「……強敵、と言う事だな」

「ええ、そうね。遺書でも用意しておく?」

「縁起でもない冗談だな」


 ジョウは不敵に笑って、確信を以て宣言する。


「俺たちは死なない。絶対にな」









 ハロー、ママ。お元気ですか?

 金星ヴィーナスの生活にはもう慣れた?


 アポロ計画は次で一三〇号だそうね。

 もう水星マーキュリーへの開拓民移住が始まっているんだっけ?

 思っていたよりも世界が回る速度は速くて、びっくりするわね。


 あ、私は元気よ。

 地球は毎日のように変な連中の攻撃を受けているけど。

 おかげで地球外性脅威対策室の室長として、私は毎日ドタバタ。


 でもまぁ、まだまだ遺書は必要無いみたい。


 うちの馬鹿野郎いわく、私たちは絶対に死なないスーパーヒーローだから。


 送信者:アーリエンデ・ジョレーク。


ご愛読いただきありがとうございました!!


これにて変身したら死ぬのにすぐ変身しようとするジョーの御話は完結となります。

またどこかで私の作品を手に取っていただく機会がございましたら、「あ、あの作品の人か」と本作を読み返していただいたりとかしちゃったりしていただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いやー、よかった面白かった。 ハッピーなハッピーエンドだった!
[一言] ロボットに乗りたがっていたJOKERとは違うJOKERでしたが堪能させて頂きました! 壮大なマッチポンプの末の結婚ですが、正史に導いた最初のアーリエンデは何処から来たのか? ……と問うのは野…
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