15,ラスボスを倒します。
「ジョー、さっさと終わらせるわよ! 戦いの規模が大きくなるとマズいわ!」
広大な空間と山林ビバリウムのせいで忘れそうになるが、現在地はNUMEカンパニー本社ビルの地下深くにある特設謹慎部屋! ジョウを監禁するため――つまりJOKERが暴れても大丈夫くらいの想定で設計された広さと強度を持つ部屋だが……JOKERと白亜の龍が内部で全力衝突する事はさすがに想定していない!!
つまり、白亜の龍が全盛のパワーを取り戻す前に片を付ける必要がある!!
「合点承知だアーちゃん!! 手早く勝つ!! 俺たちならやれるさ!!」
『図に乗るなよ混ざり物! かつて我が貴様に敗北を喫した理由はただひとつ、我の慢心!!』
であれば!! と白亜の龍が開眼!!
黄金の眼球には無数の碧い瞳が浮かんでいる!!
『敗北の苦渋に浸り、慢心を捨てた我に――貴様が敵う道理は無ァァい!!』
白銀の翼が瞬き、放たれるのは白銀の羽礫!!
「来たわよ、ジョー!」
「防御をする!!」
JOKERが右手を突き出すと、紅蓮の光が収束し、壁を形成!!
白銀の羽礫を弾く――が、
「くッ……問題無く防げてはいるが、凄まじいラッシュだ……!」
「これじゃあ、盾を解除して接近できない……! 成程ね、時間稼ぎをしようって訳!」
『肯定だ混ざり物。慢心は捨てたと言った。我が完全解放され全盛を取り戻すまで、貴様は一歩も近寄らせはしないぞ!』
JOKERは、全身から放出する紅蓮の光を武器にする!
紅蓮の光はとても強烈だが……JOKERから離れると急激に減衰し、遠距離攻撃への転用はほぼ不可能と言う性質を持つ!! つまりJOKERは基本的に接近戦しかできない!
五年前に交戦した白亜の龍は当然、それを承知しているのだ!!
「どうする、アーちゃん!?」
「あんた本当に馬鹿ね、こういう時のための発明品が『いる』でしょうが!!」
「『ある』ではなく『いる』……? ああ、そうか! あの二人か!!」
「その二人よ!」
JOKERが肩越しに振り返る。そこには、呆然とフリーズする一人の幼女と巨大イノシシ。
未来アーリエンデが突然でっかいドラゴンに変身したと思ったら、現在アーリエンデとジョウが合体して巨人になって、ドラゴンと戦い始めた――そんなあまりにも唐突な展開で、完全に固まってしまったピィちゃんとワボさんである。
「ピィちゃん、お願い! 空間移動の魔法でお家からあの双子を連れてきて!!」
「え、あ、うん! ピィわかった!!」
ピィちゃんはとりあえず、現状の理解を保留! わちゃわちゃ騒いでもアーねぇちゃんを煩わせるだけ。今はとにかくアーねぇちゃんの言う通りにしとこう――そう判断して脳を再起動した!! 判断が速い、賢い子!!
そして言われた通り、空間移動の魔法を発動!!
空間を裂いて自宅マンションの一室に繋げ、そこにいる二人を呼んだ!!
「ナックルにぃちゃん、バレット! ちょっとこっち来て!」
「ん? どうしたんだいピィちゃん――って、うお!? 何この状況!?」
白髪にワンポイントの赤メッシュ、カジュアルな服をオシャンティーに着こなすイケメンお兄ちゃん!!
その名はナックル・ブースト!!
「あの、アタシ締め切りが近いからできれば手短に――って、JOKERさんが変身している? あっちはデータで見た白亜の龍!? マジでどういう状況ですかこれ……!?」
白髪にワンポイントの青メッシュ、よれよれのジャージ姿が染み着いた残念美人の妹ちゃん!!
その名はバレット・ブースト!!
二人は高性能AI搭載型アンドロイド!
アーリエンデが開発した【JOKERが苦手な遠距離攻撃手段を補いつつ必殺パンチも強化してしまう自律稼働式サポートメカ兄妹(双子仕様)】である!!
「説明は後でするわ! まずはバレット、来なさい!!」
「えぇ……? 何でJOKERさんからマスター・アーリエンデの声が……?」
「状況はまったく呑み込めないけれど……昨日いきなりメンテナンスされたのと関係があるのかな……?」
以前、二人はJOKER制圧作戦に投入される際、変身前のジョウに装着できるように調整された。だが昨日、アーリエンデはペアリング完成を機に二人を元通り変身後が使用できるように調整し直していたのだ!! まさか昨日の今日で使う事になるとは思っていなかったが……行動の速さが功を奏した!!
「とりあえずだ、バレット。説明する時間を惜しむくらい事が切迫しているようだし、ひとまず言われた通りにしよう!」
「はい。じゃあ――」
バレットは頷くと腰を深く落として――大跳躍!!
引き籠りのクソニート同人作家でも、そこはサポートメカの身体能力!!
JOKERの左腕にピタァッとしがみついた!!
「ユニゾンコマンド【バレット・ブースト】――エンゲージ」
青い閃光が、JOKERの左腕を包み込み成形――顕現したのは、青く輝く巨大な腕!! 手首から先がガトリング砲になっている!!
これがバレット・ブースト本来の姿! JOKER左腕部装着型武装!!
接近戦しかできないJOKERの遠距離攻撃手段として開発された発明品!!
「おお、これがバレットさんのユニゾン状態か!!」
「ようやく本来の運用ができるわね」
「それじゃあマスター、JOKERさん。あとはお好きにどうぞ!」
「「バレット・ブースト、攻撃開始!!」」
赤い光の盾からバレット・ブーストの砲身を出し、発砲開始!!
さながら小さな雷撃――青白い光の弾丸が秒間一八〇発ばらまかれ、白亜の龍へと襲い掛かる!!
『な、なにぃぃいうおおおおおおお!?!?』
青い弾丸の雨が白銀の羽礫を次々に撃ち墜とし、押し切り、そして白亜の龍の翼を食い破った!!
発射口であった翼を潰され、羽礫の猛攻が止む!!
『げぇ!? しまったァ!?』
「よし、これで盾を解除して進めるぞ!!」
「一気に決めに行くわよ、ナックル!!」
「ああ、ついに僕の出番と言う訳だ!!」
妹に続き、ナックルお兄ちゃんも大跳躍! JOKERの右腕にがしっと跳びつく!!
「ユニゾンコマンド【ナックル・ブースト】――エンゲージ!!」
赤い閃光、顕現するは赤く輝く巨大な腕!
赤い事とゴツい事以外、形状に特筆点は無い。
シンプルに巨大な拳でぶん殴るための武装!!
JOKERの必殺パンチをより強くする――それがJOKER右腕部装着型武装、ナックル・ブーストの役割なのだ!!
「行くわよ、ジョー!」
「ああ! この一撃で、白亜の龍を倒す!!」
JOKER、吶喊!!
白亜の龍に再び必殺パンチを喰らわせるため、前へ!!
『ぎっ……おのれ混ざり物が!! どんどん混ざり混ざって気色悪いぞ!!』
白亜の龍が大きく開いた口腔に、まばゆい白光が逆巻く!!
あれは五年前、JOKERを仕留めんと放った白亜の龍の最大技――白いブレス!!
暴力的なまでに煌めいて、すべてを蹂躙し、破壊し、無へと還してしまう脅威の一撃!!
『今度こそ滅べ!! この一撃を以て!!』
「ナックル!」「ナックルさん!」
「多少は焦げ付くだろうが問題無い! 存分に僕を使ってくれ!!」
放たれる白光のブレス!!
対して、JOKERは吶喊する足を止める事無く、右拳を大きく振りかぶった!!
「「ナックル・ブースト、攻撃開始!!」」
巨大な赤い拳が、白光のブレスと衝突。
拮抗は一瞬。即座にパァンッ!! と言う破裂音が響き、白光のブレスは爆裂霧散した!!
『はああぁああ!? いくら我が弱っているからって嘘だろ貴様ァァァ!?』
「はッ、良いザマね!! そもそもブースト兄妹は、全盛期のあんた級の強敵との戦いを想定してんのよ!!」
JOKERが変禁を喰らってしまったせいで、ただのイケメン俳優と腐海の同人作家になってしまっていたが――そもそもブースト兄妹はスーパーヒーローのまさしく腕となって、世界を救えるだけのスペックがあるのだ!!
『うぎぎ、ふざ、ふざけるなぶぅあ!?』
ヤケクソに白光ブレスを撃とうとした白亜の龍を、バレットの青い弾丸が強襲!
ブレスはナックルで問題無く対処できるが、乱発されるとピィちゃんやワボさんに被害がいくかも知れない! バレットのガトリング砲撃を絶え間なく浴びせて牽制する!!
『痛ッ、ちょっ、やめ! その弾丸やめろ!! 地味に痛い上に非常に鬱陶しい!!』
「やめろと言われてもやめませんよねー、普通」
『ッのクソがアアアアアアアア!!』
ブチ切れ、と言う所だろう。白亜の龍の全身がブワアアアアと激しい光を帯び始めた!!
おそらくはブレスの上を行く、JOKERたちの知らない最終兵器、切り札か!!
だが、そのカードを切るのは少し遅かった。
既に、射程圏内である。
「ぶちかましなさい、ジョー!!」
「ああ!!」
ナックル・ブーストが、超濃密度な紅蓮の光を帯びる。
五年前の再現を、あの時よりも強烈に――今ここで!!
紅蓮の暴威を纏った巨大な拳が、白亜の龍の顔面に突き刺さるッ!!
「これが、俺のッ!! 必殺切札パンチだァァァァァァ!!」
『だから技名がダサぐぅわわわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!??!?』
紅蓮の光が白亜の龍を呑み込み、そして――爆散ッッッ!!
第二次【白亜の龍】討伐戦――JOKER側の圧勝である!!




