14,プロポーズさせます。
「変・身――じゃないわよ馬鹿ァァァーー!!」
「どぅっふぅ!?」
アーリエンデの鋭い飛び膝蹴りが、ジョウの後頭部に炸裂する!!
放たれかけた黒い輝きが掻き消え、ジョウの変身はキャンセルされた。
「あッッッぶな!? あんたマジで馬鹿ね!? 馬鹿って言うかもうサイコ!? サイコ馬鹿!?」
「け、結局は馬鹿に落ち着くのか……」
「だって本気で馬鹿でしょうが!!」
ストップウォッチを押して時間停止を継続しながら、アーリエンデは蹴り倒したジョウの頭を踏みつける。
「しかしアーちゃん! ここはもうマジで奇跡を起こす以外に無くないか!?」
「無くはないわよ! こんな時のための発明品も、その……一応、あるんだけど……」
「あるのか!? さすがアーちゃん!! ……でも、何故だ? 何だかアーちゃんには似合わない歯切れの悪さを感じたが……」
「………………」
アーリエンデは迷うような手つきで、四次元ポーチから小箱を二つ取り出した。
「……これは、今この状況で披露するのはとても躊躇われると言うか……私とは無関係な危機の時じゃないと、トンデモないマッチポンプになってしまうと言うか……」
「よくわからないが、アーちゃんの気分的な問題なんだな!? 重要だが、今はどうにか我慢できないものだろうか!?」
「……じ、じゃあ……その、まずはこれを、装着しなさい」
アーリエンデは足を退け、体を起こしたジョウに小箱の一つを渡した。
中に入っていたのは――黒鉄の指輪。
「指輪? これは一体、どういう発明品で――おや、アーちゃんの分もあるのか?」
アーリエンデが持っていたもう片方の小箱にも同様の指輪が一つ。合わせて二つ。
無言のアーリエンデが左手薬指に指輪を嵌めたのを見て、ジョウも同じく左手薬指に指輪を装着する。
「ふむ。付けたが……これは一体?」
「……【アーリエンデとジョウが合体する事でJOKERが変身しても大丈夫になるペアリング】」
「……は?」
「【アーリエンデとジョウが合体する事でJOKERが変身しても大丈夫になるペアリング】!! 要するに、マジカル細胞を移植した私と!! あんたが!! 合体する事で、あんたが変身しても大丈夫な状態になるって事よ!!」
もはやヤケクソ。アーリエンデは叫ぶように発明品の詳細を発表した。
それを受けてジョウは一瞬フリーズ。そして、驚愕に目をかッ開いた。
「あ……【アーリエンデとジョウが合体する事でJOKERが変身しても大丈夫になるペアリング】だってぇぇぇーー!? ぃ、色々と言いたい事はあるが……それ、俺にマジカル細胞を移植するだけじゃダメだったのか!?」
「それだとあんた独りでどんな無茶しだすかわからないでしょうが!!」
「確かに!!」
要するに、アーリエンデは首輪だ。合体した状態で無茶をすればアーリエンデにもダメージがいってしまう……と言う、ジョウへの精神的拘束。
ジョウを程よく活躍させるためにアーリエンデが思い付いた最善解、それが合体!!
「むぅ……アーちゃんを戦いの場に引っ張り出さなければならないのは釈然としないが……俺の日頃の行いのせいであり、俺への思いやりを反映した形なのだと納得しよう……だが、どうしてこれを出すのにあんなに躊躇ったんだ?」
「……この指輪の起動条件が、問題なのよ」
「起動条件?」
つまり、ジョウとアーリエンデが合体する方法。
ジョウが首を傾げる中、アーリエンデはもうどうにでもなれと意を決した。
「【アーリエンデとジョウが合体する事でJOKERが変身しても大丈夫になるペアリング】の起動条件は『心身ともに完全に結合する』事!」
「か、完全に結合だって……!? まさかエッチな……!?」
「心の底から湧き出る言葉で愛の告白をしながら! 熱く激しい誓いのキスをする事よ!!」
「アーちゃんの発想が俺よりピュアだった!!」
何かごめん! と叫んだ直後、「いや、今突っ込むべきはそこじゃないな!」とジョウは気付く。
「どうしてそんな条件を設定してしまったんだ!?」
「うるさい馬鹿この鈍感サイコ馬鹿!! それを私から言えるんならそんな条件設定する訳ないでしょうが銀河最高峰の馬鹿アアアアア!!」
要するに「アーリエンデはジョウの事がめっちゃ好きだし、ジョウの方も好きなのは確定的に明らかだが……相変わらずアーリエンデの方から告白する勇気なんぞ無いので、ジョウの方から告白せざるを得ない状況を作ってしまおう」と言う魂胆だった訳だ。
「何なのよこの状況!! 本来ならまっとうな地球の危機に披露して、『地球を救いたくば観念して告白しなさいジョー!!』って迫る予定だったのに!! 私を止めるために私に告白しろって!? 最低最悪のマッチポンプだわこれ!! えげつないにも程があるわ!!」
「お、落ち着くんだアーちゃん! 仮にアーちゃんを止めるためでなくても普通にえげつないぞ!?」
「それでも私の気分的にはそっちならセーフだったのよ!!」
「アーちゃんの基準がよくわからない!! だが、とにかく――この指輪を起動させる事で、すべてが円満に解決できるんだな……!?」
「ええ、まぁそうでしょうね!!」
白亜の龍はまだ全盛の力を取り戻していない。今なら、劣化に劣化を重ねてしまったJOKERでもきっと勝てるだろう。この指輪さえ起動できれば――
「もう、恥も何も無いわ!! さぁ言いなさいジョー!!」
「開き直ったなアーちゃん!!」
「私らしいじゃろがい!!」
「確かに!! だがその……アーちゃんは賢いから俺みたいな馬鹿の気持ちなんて筒抜け、今さら隠しても無駄だと分かっていても……やはり言葉にするのは勇気がいると言うか……」
「童貞みたいな事を言ってんじゃあないわよ!!」
「ばっちり未経験なんだが!?」
アーリエンデもジョウも所詮は同レベルのお似合いさんである!!
「くッ、分かった、言うぞ!! アーちゃん……す、す……好きだ!!」
「よっしゃああああよく言ったァァァでも足りないわよ! ジョォォオオオオ!!」
「た、足りない……!?」
「好きだけじゃ所詮は好意のカミングアウトォ! 愛の告白なら添えるべき言葉があるわよねぇ!?」
「ッ…………!!」
「その言葉に私が『はい』と応えてから誓いのキスを交わす事で、精神的結合が確認され合体できるのよぉ!!」
「エンゲージ……そうか、つまりそう言う事なのか……!?」
ジョウはごくりと息を呑み、そしてぎゅっと拳を握り直した。
「分かった……俺だって、男だ!! 言ってやる!! 男として言うべき事を、今、この場で!!」
「っしゃ来いオルァ!!」
「アーちゃん、好きだ!! 俺と――」
「さぁ、言いなさいジョー!! あんたが言うべき言葉は『俺と付き合ってくだーー」
「俺と――結婚してください!!」
「――――はい?」
アーリエンデの脳がその言葉の意味を理解するよりも先に、柔らかな唇同士が重なった。
《――婚約、確認!!》
赤黒い閃光が、炸裂する!!
そして、時は動き出す!!
『即ちドラ焼きとは、然るに宇宙とは――ん?』
時間停止解除と共に白亜の龍のドラ焼き講釈も再開されたが、それはすぐに中断された!
当然だ、何せ、一瞬の間に目の前に――黒鉄の巨人が姿を現したのだから!!
鎧のような黒い皮膚に、紅い光を放つラインがいくつも走る。中世の鎧騎士のようでもあり、SFチックな巨大人型機動兵器のようでもある!! 紅い双眸を迸らせて、黒鉄の巨人――JOKERは拳を握りしめた!!
「皆に恒久平和を!! スーパーヒーロー・JOKER、変身完了だッ!!」
響き渡る、JOKERの――ジョウの雄叫び!!
『なッ……混ざり物!? 馬鹿な!! 貴様、ハロニアの戦士の力は使えないはずでは……!?』
「それは既に過去の話だ!! 独身だった俺の話だ!! 覚悟しろ、白亜の龍――既婚者になった俺は、かつてないほどに強いぞ!!」
「ちょっと待てやァァァァ!!」
JOKERから響いたのは、アーリエンデの咆哮。
同時に、JOKERの左拳がJOKER自身の顔面をぶん殴った!!
「ぐぼあ!? ちょ、痛ッ!? 今のアーちゃんも痛かったんじゃ!?」
「結婚ってなんじゃおォおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!?!?!?!??!??」
「え? いやだって、愛の告白でエンゲージってプロポーズ――」
「普通に『付き合ってください』想定よ馬鹿アアア!!」
「な、なんだってぇぇぇーー!?」
『チッ……ドラ焼きについて語っている場合では無さそうだな』
何やら口惜しげに言って、白亜の龍は牙を剥き、白銀の翼を展開した!! 臨戦態勢!!
「こっちは大事な話をしているってのに……仕方無い、一旦保留よ! ジョー!!」
「ああ、分かった!! 今やるべき事は未来アーちゃんの救出!! そのためにも!!」
JOKERは両拳を叩き合わせ、全身に紅蓮の光を纏った!! 臨戦態勢!!
「「二人の力で、白亜の龍を倒す!!」」




