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13,幼馴染なんだから、寄り添います。


 時間経過により薬の効果が切れ、ジョウの裸体が服を取り戻していく中――【白亜の龍】が、着々と肥大を続けている。今はまだ五年前よりも小さいが……このままいけばあの時のサイズ、いや、それ以上になるかも知れない!


『ヴァハハハハハ!! 誂え向きとはこの事か!! ハロニアの戦士との混ざり物、怨敵が目の前にいる!! しかもこの人間から聞いた所によると貴様、ハロニアの戦士の力を満足に使えないザマらしいな!!』

「ッ……未来の私め、そんな情報まで渡しているわけ……!?」


 完全に手を組んでいる……!

 よりにもよって、地球を侵略し、地球人種を資源化しようとしていたような輩と!!


 現在アーリエンデとジョウを見下ろす白亜の龍の口角が裂け上がる。愉快、と笑う。


『矮小、実に矮小! 混ざり物、そのつがい、魔女の小娘、イノシシ! どれも矮小!! 奇しくもそこの混ざり物と同じく地球人種の肉体が触媒故、我の完全解放まであと五分はかかるが……今の我でも余裕を以て貴様らを蹂躙し切れるだろう!! ヴァハハハハハハハハハハ!! ああ、こんなにも笑いが止まらないのは何千年ぶりか――あ、いや、三日くらい前にもこれくらい笑ったな。あのドラ焼きは超美味かった』

「アーちゃん、未来でこいつを餌付けしているのか!?」

「いや私に訊かれても! ってかドラ焼きってあれよね、ジャパンの。そこカボチャ系じゃないんだ私!?」

『ほざけ! 貴様が我にカボチャ菓子を分け与えるようなガラか!! こんのケチんぼが!!』

「ケチんぼて。何か語彙が幼くなってない……?」


 それにしても念話に恨み節がたっぷり滲んでいる。

 おそらく、白亜の龍も『何やら美味そうではないか』とカボチャ菓子を要求したが完全却下された事があるのだろう。


『曰く「ドラゴンはこの貰いものかつ余りもののドラ焼きでも喰ってろ。ドラとドラでお似合いよ」と!! 初めはどれほど屈辱だったか……だが今は褒めてやりたい。よく我とドラ焼きをめぐり会わせたと!! 少しは認めてやろう地球人種……ドラ焼きとは、銀河のどこへ出しても恥ずかしくない叡智であるとォォォォ!!』

「随分と俗っぽくなってるわねこいつ……」


 どうやら未来アーリエンデは、白亜の龍を復活させた後、完全に主導権を握って制御……と言うか支配していたようだ。

 だが、白亜の龍は先ほど「解放」と言う言葉を口にしていた。おそらくそれが意味する所は――未来アーリエンデの支配下からの離脱!! 推測に推測を重ねる形だが、未来アーリエンデは最終手段として、「私が意識を失ったら――つまり負けたら、あなたを解放する。好きに暴れなさい」とでも契約を交わしていたか!!


「ジョー、先に言っておくわよ。変身は待った。マジで」


 完全に服を取り戻したジョウに手を突き出して、現在アーリエンデが強く要請する。


「未来の私に制御できていたって事は、ワンチャン現在の私にも目があるわ」

「しかし……五分! 完全解放まで五分と言っていたぞアーちゃん! 策を練る時間なんて……」

「時間なら止めれば良いでしょうが」


 と言う訳で、現在アーリエンデは【時間ごとJOKERを止めるくんウォッチ】を取り出してスイッチ・オン。途端に、ドラ焼きについて熱く語り出していた白亜の龍がピタァ……と停止した!! 草木のざわめきも停止、ピィちゃんとワボさんも白亜の龍にびっくりあんぐりした状態で止まる。


「おお、その手があったか!!」


 使用者アーリエンデと、ジョウの様に止まった時の世界にも適応できる馬鹿以外すべてが止まる発明品!! 完全解放された白亜の龍ならばジョウと同じく適応してくる可能性もあったが……今はまだ大丈夫そうだ!!


 唯一のデメリットであった「使用者だけ常人より加齢が早く進む」と言うデメリットは、若返り薬の開発に転用できるマジカル細胞の発見により掻き消えた!! もう使用を躊躇う理由はどこにもない!!


「しかし、それは五秒――時間が止まっている五秒と言うのも妙だが――とにかく五秒ほどしか止められないはずでは?」

「一機だけならね」


 そう言って現在アーリエンデが取り出したのは――本日二機目の【時間ごとJOKERを止めるくんウォッチ】!!


「【時間ごとJOKERを止めるくんウォッチ】は、一度使うと再使用までに六〇秒のクールタイムが要るわ。つまり一三機あれば永遠に時を止めていられる。そして私は既に二四機ほど生産している」

「量産に成功していたのか!!」

「さすがに一般普及はさせないけどね」


 一度目の使用から五秒経過したのと同時に、現在アーリエンデは二機目をスイッチ・オン。時間停止は継続である!!


「いつの時代もアーちゃんはすごいな……その科学力すごさが災いしてしまった実例が目の前にあるのが、なんとも複雑な気分だが」

「まったく反論できないわね……さて、どうやってこの後始末をつけましょうかね……」


 二人して見上げるのは、ドラ焼きのなんたるかを滔々と語っている途中で停止された白亜の龍。

 未来アーリエンデは一体どのようにこれを制御していたのか……さすがにマジでドラ焼きのみで釣っていた訳でも無いだろう。


「……アーちゃん。正直、白亜の龍は今までのどんな敵と比べても、規格外だ。いくら俺と現在アーちゃんが手を組んだって……変身せずにこいつをどうこうするのは無理だ」


 かつて白亜の龍と一対一で正面から殴り合った、そんなジョウだからこそ、確信を以て言えるのだろう。


「あんた、それがどういう意味か、分かって言っているんでしょうね?」

「………………それでもだ」

「…………」


 現在アーリエンデはぼりぼりと頭を掻いた。


「少しは責めなさいよ。こんな事になっているのは全部、私のせいなんだから」

「……確かに、これはアーちゃんの失敗かも知れない。でも、俺の知るアーちゃんは無意味にこんな事をするはずが無いんだ。アーちゃんがこんな事をしてしまった理由が分からない今、アーちゃんを責める言葉を俺は用意できない」

「……理由なら分かるわよ。私の事だもの。きっと、生きているのが嫌になっただけ。それだけで地球ごと巻き込んで自殺しようっていう、本当にクソみたいな理由」


 三機目のストップウォッチのスイッチを押しながら、現在アーリエンデは深く深く溜息を吐いた。

 今回ばかりは、本当に見損なわれても仕方が無い。弁明の余地が無い。今まで自分には無縁だと思っていた自己嫌悪すら感じる。


「要するに自暴自棄か……未来でアーちゃんがそんなにも苦しんでいるというのに、未来の俺は何をして――」


 言いかけて、ジョウはハッと口を押さえた。


「……未来の俺は、アーちゃんの側にいないのか……?」


 さすがの馬鹿でも、察しがつくだろう。

 何せ今まさに、自殺行為と知りながら自分が変身する事を提案した大馬鹿だ。


「俺が、アーちゃんを止められなかったせいで……!」

「ちょっと馬鹿。勘違いしないでよ。間違っても、あんたのせいなんかじゃあないわ。絶対にね」


 アーリエンデが自棄を起こして地球を滅ぼす未来なんて、ジョウが望む訳が無いのは重々承知しているはずだ。それでも未来アーリエンデはその道を選択した。


「これは私のエゴの末路。あんたは関係無い」

「関係ある! 俺はアーちゃんの幼馴染なんだぞ! 幼馴染が苦しんでいるのに寄り添えないなんて、そんなのは絶対にダメなんだ!! これは俺の落ち度に他ならない!!」

「幼馴染にそこまでの責任は無いでしょ……」

「何を言っているんだ? これは過去アーちゃんが言った事だぞ?」

「……は?」

「覚えていないのか? 七歳の時だ。俺はハッキリと覚えているぞ!」

「七歳の時……?」



   ◆



 ――それは一八年前の事。


 そのころのジョウは、今とはまったく違って……ヒーローなんかには程遠い、泣き虫少年だった。

 今日も、大好きなヒーローの事を女子たちにチープだの何だと馬鹿にされて、でも言葉が出なくて、悔しくて、情けなくて、夕暮れの帰り道で独り泣きながら歩いていた。


「あんた、いつも泣いてるわね」

「アーリエンデちゃん……?」

「長ったらしい。アーちゃんで良いわよ。赤ん坊の頃からの付き合いなんだし」


 アーリエンデは……正直、見た目が幼い事以外は今と余り大差が無かった。


「ほら、一緒に帰るわよ。そんなボロ泣きじゃ、前が見えないでしょ。危なっかしい」

「……ぼくにかまっちゃダメだよ。泣き虫の仲間だって、みんなにバカにされちゃう」

「別に私だって好きでやってる訳じゃないわ。でも仕方無いでしょ? 幼馴染なんだから」


 アーリエンデはやれやれと首を振る。呆れ果て、そしてすごく面倒だと言わんばかり。

 それでもジョウの隣に並んで、その手を引っ掴むように繋いだ。


「人間は群れで生きる。でも大きすぎる群れは維持が難しい。だから選別する。グループ分けをして、適切な付き合い方を選ぶの。幼馴染って言うのは、苦しい時、何があっても寄り添い合うグループよ」

「……アーちゃんの言うこと、むずかしい……」

「私は賢くて、あんたは馬鹿だもの。当然よ。恥じる事は無いわ。そして私は賢いから、馬鹿が分からないと言ったら噛み砕いてあげる要領の良さもあるの」


 感謝しなさい馬鹿。

 そう悪戯っぽい笑みを浮かべて、アーリエンデはジョウの顔にハンカチを押し付けた。


「幼馴染が苦しんでいる時は、寄り添ってあげなきゃ絶対にダメって事。泣いていたらその涙を拭って、泣き止むまで一緒にいてあげる。良い? 幼馴染って言うのはそういうものなの。パパが持っていたジャパンのコミックにそう書いてあったわ」

「……アーちゃんもちゃんと子供っぽいんだね」

「どういう意味よ?」


 子供アーリエンデは子供のくせに子供扱いがものすごく嫌いだった。

 アーリエンデの吊り上がった目尻から攻撃色を感じたジョウは、咄嗟に誤魔化すための話題を探す。


「そうだ……じゃあ、アーちゃんが苦しんでいたら、その時はぼくが?」

「当然ね、幼馴染だもの」

「……できるかな、ぼくみたいな泣き虫に……」

「できる・できないは関係無いわ。やりなさい。幼馴染命令よ」

「め、めいれい……!?」


 意味はよく分からないけど何だか物々しい響きを感じる。

 戦慄するジョウに、アーリエンデは「そんな恐がる事ないでしょ」と、呆れを通り越して笑ってしまった。


「ふふ、あてにしているわよ。ジョー」

「………………」

「……何よ? 急にマヌケな顔して」

「……わかんない……なんかいま、アーちゃんがにぱって笑ったのみたら、むねが苦しくなって……」

「はぁ? 何かの病気じゃないでしょうね? ちょっと勘弁してよ、幼馴染が病気になったら献身的に看病しなきゃいけないのよ? 面倒くさ」

「ひどい……でも好き……」

「ん? 何か言った?」

「あ、ぇっと……ぼくはいったいなにを……いや、にゃ、なんでもないよ……? むねも、大丈夫そう」

「あっそ。なら良いわ」


 興味無げに頷くと、アーリエンデはジョウと繋いだ手を引いて歩き出した。


「……アーちゃんは、ヒーローみたいでカッコ良いね」

「ヒーロー……? 私への形容としてはピンと来ないわね……でもまぁ、誉め言葉として受け取っておくわ」

「ぼくも、いつかアーちゃんみたいなヒーローになりたい」

「好きにしなさい。まぁ、体を壊されると看病が面倒だからほどほどにね」

「うん。ぼく、がんばるよ。絶対に、アーちゃんを助けられるヒーローになる」



   ◆



「俺は、幼馴染だから!」


 アーリエンデの手をジョウが引っ掴み、繋ぐ。


「できる・できないじゃなくて、寄り添わなきゃあダメだったんだ! でも、未来の俺にはそれができなかった……! ごめん、アーちゃん……!」

「いや、あんたが謝る事じゃ……」

「ああ、謝って済む事でないのは知っている!!」

「いやそうでもなくて、一回冷静に話を――」

「だから俺は、未来を変えてみせる!!」

「は……? 未来を変えるってあんた……」

「繰り返すが、できる・できないじゃあない!! 幼馴染命令なんだろう!? やってみせよう!」

「いやもう話を聞きなさいってば本物の馬鹿」

「ああ、昔から君にはよく馬鹿だと言われるな! であれば、それは真実なんだろう!」


 ニッコリと笑ってみせてから、ジョウは白亜の龍の方へと向き直る。

 その背中には、強い覚悟が滲んでいた。


「見ててくれアーちゃん! 俺はこれから変身して白亜の龍を倒すが、絶対に死なない!!」

「……いや、あんたさっきからマジで何言ってんの?」

「奇跡を起こすと、言っているんだ!!」


 高らかに叫んで、ジョウはその手を高く掲げる。

 そのポーズ、アーリエンデは過去に何度か見覚えがある。


「まさか――」

「変・身!!」


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