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転聖王女のオーバーキル!  作者: 杜若スイセン
chapter1 転聖王女が暗殺を防ぎすぎたら
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1.プロローグ、あるいは転生王女の独白

新連載です。どうぞよろしくお願いします。

初日のみ2回更新、それ以降は章ごとに毎日一話ずつの更新となる予定です。

 少しだけ、自分語りをさせてほしい。






 私はアメリア・フォン・アズレイア。アズレイア王国の名を姓に冠する、つまり王族の一人。第一王女という立場にある。

 ……ああ、逃げないで。確かに胡散臭い話だけど、もう少し聞いていって。


 よく言えば将来性豊かな、悪くいえばちんちくりんな肢体を豪奢なドレス(今は可愛らしいネグリジェだけど)に押し込めて、さらさらの銀髪を腰まで伸ばした幼女。まだもちもち加減が残る頬は白っぽく、大きな瞳は紅色に染まった12歳。平たくいうと、絶世の美少女だ。

 この国の王族の常として、知能や人格の成長が普通より少し早いようで。この歳にして大人顔負けだ、なんて言われることもある。一つ下の義妹も似たような扱いで、かつては三つ上の兄も同じことを言われていたらしい。


 ここまでが、今思い出して頭に浮かんだ自分の情報だ。

 え? それ以外にあるのかって?

 あるんだ、これが。自分でも信じられないことなんだけど。




 アメリア・フォン・アズレイア。国民的王道RPG『セイクリッド・サーガ』の登場人物。主人公である勇者アレクシスが旅立つアズレイア王国の少女王で、ヒロインのミアが直前まで仕えていた主。弱冠16歳で大国を統べる敏腕女王であり、勇者一行を要所で度々助ける物語における重要人物だ。

 やや控えめながら均整の取れたスタイルと「なんで陛下はヒロインじゃないんだよ」と嘆かれるほど気合いの入ったキービジュアル、進行が詰んだ時のみならず絶妙に欲しいタイミングで支援を送ってくれる有能さもあって、非常に人気の高いキャラクターとなっていた。

 その意外な真実と、それに伴うクリア後のとあるイベントのおかげで、余計にそういった声は多かったとか。


 ……これが、物心ついた頃から持っていた淡い記憶を辿って思い出した知識である。

 RPGってどういうことだ、と思ったそこのあなた。私も同感だ。正直に言うと、私もまだ何が起こったのか半信半疑なのだ。






 なにしろ私は確か、会社帰りに書店へ寄ったはずだった。全世界100億人のファンが待ち望み続けた、『セイクリッド・サーガ2』の情報が載っているという雑誌を買いに行ったんだよね。

 かくいう私も『セイサガ』は何十回とプレイしたお気に入りのゲームなので、それはもう楽しみにしていたわけですよ。幸いにもホワイトな社風だったので定時に上がり、オフィスの最寄り駅構内に併設された書店で雑誌を購入。そのまま浮ついた足取りでホームに出て……。




「……死んだのよね」




 よく覚えていないんだけど……こう、退勤ラッシュの人混みの中でタイミング悪く。どん、と。本当にタチの悪い偶然で強く押し出されて、浮き足立っていた私は踏ん張れないまま転げ出て───そこから先の記憶はない。

 まあ、よかったと思っている。電車に轢かれて死ぬ瞬間なんて、覚えていていいことはないし。どうせ痛くて辛くて苦しくて、あんまり酷かったから防衛機制で忘れたんだろう。






 それはいいとして。

 つまり私は、23歳にして不注意で事故死して、物語みたいな奇跡確率を経て異世界転生したと。しかもゲームの世界に。最近多いよね、そういうの。うんうん。


 ……とはならないよね、やっぱり。

 なんだ、前世の記憶って。なんだ、『セイクリッド・サーガ』って。私はただこの国の王女として生まれ落ちて、その責務を果たすべく育てられている最中でしかないのではなかったのか。

 その風景はとても見覚えのないものだった(向こうの様子と今の感覚を重ねていうに、「未来的」とでも表現するのが腑に落ちる)し、そもそも私がゲーム……平たくいえば物語の登場人物であるなんてこともそう簡単には信じられない。


 でも、認めざるをえないのだ。その謎の記憶がただの夢なんかではなく、私のものであることを。

 だって、それを思い出してから私の内面が明らかに変化したから。それまでの私は知りもしなかったはずの概念や言葉を当たり前に思考に使うようになったし、あの意味もわからないはずの世界の姿にさほど違和感を覚えない。

 ……というか、自然にしていると王女らしくない内面が前に出てくる。記憶は曖昧だけど、人格は前世らしきそれが主体のままなのかもしれない。無意識にそうだったから、最初は王女らしい振る舞いに少しだけ苦労したのだ。

 そのせいなのか、私はやたらと他人事じみた感覚でものを考えることが往々にしてある。前世のそれだった人格が、王女としての私を冷静に客観視している節があるというか。不思議なものだ。






 とはいえ、それだけなら気にするべくもないことだ。

 本来ない知見があるとか精神年齢が高いとか、そういう側面はあるにしても、普通ならそれで終わり。この世界と全く違うそんな前世の記憶なんて、何もかもを変えるほどのものではない。

 思い出せる範囲の中でゆっくり思い出して、役に立ちそうなことを覚えておく。そのくらいで済む、ちょっと幸運なもので終わるものなのだ。本来は。


 そうでなかった原因は、さっきも軽く触れたひとつの記憶にある。




 『セイクリッド・サーガ』というゲーム。前世の私も触れた経験がある、この世界と酷似した舞台と成長した私らしき人物が登場する物語。

 前世の人生の記憶と同じく、その内容も穴が空いたように思い出せないことだらけなんだけど……そんなぼろぼろの記憶の中にも、爆弾が存在していた。


 ()()()アメリア。


 16歳だという作中のアメリアは、王位についていた。

 これがおかしいのだ。()()()()()()()()()()()。父もまだ引退する歳ではないし、何より私には兄がいる。三つ上の、当然ながら王太子である実兄が存在するのだ。

 これが何を意味するのか。……普通に考えるのなら、兄は遠からず王位を継げない状況に追い込まれるのだろう。元気そのものである父も同じく、王としての責務を果たせなくなる。

 成人したばかりの、次王としての教育を受けていない小娘に託さなければならないほどに。




 私は家族が好きだ。早くに他界した祖父母の分まで両親には長生きしてほしいし、兄にも大成して幸せになってほしい。

 だが。もしも記憶の中の設定がこの世界と同一なら、そんな未来は訪れない。






 この認識は、ずっと昔から私の心にこびりついていた。もしもこれから家族を脅かす出来事があるのなら、それを除かなければならない。

 そしてそれの時期や内容のヒントとなるか、あるいは無関係だとわかるかもしれないものが必要だ。つまり、もっと前世の記憶を思い出す必要がある。




 ……なんて言ってみても、思い出そうとしてできるものではない。そう簡単に記憶が操作できれば苦労しないのだ。

 今はこれまで通り、地道に思い出せることと現実を照らし合わせ続けていよう。ふと何かを掴めることがあるかもしれないから。

アメリア「どうでした? スポットライトはいい感じに当たっていましたか?」


今日の18:00にもう一話更新して、以降は毎日18時に更新する予定です。

なお、作者は本作とも若干の繋がりがある(もちろん、片方だけでもお楽しみいただけます。……というか、気にするほどの関係があるわけではありません)VRMMOもの「Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜」も連載中です。この下にリンクを置いておきますので、気になった方はぜひ。


この激戦区ジャンルで拙作がどれだけの方にお楽しみいただけるのか、今は楽しみと不安が半々といったところです。もしよろしければ期待も込めて、ブックマークと評価ボタンを押していっていただけると嬉しいです。

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【Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜】

こちら作者による別作となっております。お暇があれば合わせてどうぞ。
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