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ひとつのラジオが繋ぐちょっと大人な恋の話。
雲に隠れる月、薄明かりの街灯、
いつもの、夜の匂い。
滝 羽菜子は走っていた。
これでもかと連打したエレベーターのボタンは点灯し、扉が開く。
「あ!羽菜子ちゃん!ちょっと」
「ごめんなさい!!また後で!」
マンションの管理人室から顔を出した野村さんの
言葉を背中で受け止め、即座に目の前のエレベーターに飛び乗った。
「遅れちゃう遅れちゃう遅れちゃう……」
もう何度口にしたかも分からないそれを呪文のように唱えると、やがてエレベーターは羽菜子の部屋がある
7階にて止まった。