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第33話 再会できるかな……あれ、あれあれっ!

(……ティコティスが私に会いにきてくれた?)


 ティコティスは、この世界――ノイーレ王国――で聖兎と呼ばれる不思議なうさぎで、人間の言葉を話すことができる。

 やわらかい毛なみの可愛い黒うさぎで、長い耳を羽のようにパタパタさせて、ずっと宙に浮かんでいることも可能だ。

 私は、ティコティスがいると思われる大木のうしろに、そっと まわりこんだ。

 そこで私が目にしたものは――。


(……あれ、あれあれっ!?)


 ティコティス、いないんだけど。

 いくら木の周囲をきょろきょろしても、サイズは地球のうさぎと変わらない、ティコティスの姿が見あたらない。

 ただし、大きな木のそばに誰もいないってわけではなくて。


(うわっ、どうしよう……)


 大木のすぐそばには人がいた。

 私と同じくらいの身長の女の子と長身の男の子の2人だ。

 女の子は、ふわっとしてやわらかそうな黒髪をひとつにまとめてシニヨンヘアにしている。


 この2人は恋人同士のようで、木を背に……キスしていた。


(ちょ、ちょっと!! いくら大きな木のうしろに隠れれば人目につきづらいからって、街道で明るいうちからラブシーン!?)


 ノイーレ王国での、公共の場所における男女のモラルやらマナーがどういったものか、私は知らない。

 だから、この2人みたいなカップルはこの町のいたるところにいる可能性もあるし、公道ではたとえ人から見えづらい場所でもイチャつくべきではないという決まりがある可能性だって考えられる。


 もっと全然別の倫理観が町のルールになってるかもしれないし、どっちにしろまだ私はこの世界に慣れてない。わからないことだらけ。

 今の私でもわかることといったら――。


 目の前にいる恋人たちは、たがいの体を抱きしめあいながら、私の存在に気づくことなく、くちづけを交わしつづけている……ということぐらい。


 ふと、女の子 (十代後半から二十代前半くらい?)の、まとまりきらなかった(おく)れ毛が風にゆれる。

 ふんわりして、やわらかそうな黒い髪。

 後れ毛も、まとめ髪も――。ふわふわした印象の髪質。まるでうさぎの、ホワホワしてさわり心地よさそうな体を思わせるような……って、あ!

 もしかして、もしかすると!!


(私ってば、この子の、ひとつにまとめた黒い髪が木からチラッと見えたのを――ティコティスが一瞬、姿をあらわしたのだとカン違いした!?)


 ……だとしたら。

 それって、いろいろ恥ずかしいんだけど。そもそも、今、私の前方にあるこの大木は、(のみ)(いち)の露店と露店のあいだに植えている木。


 ロエルと町に出かけ、彼と2人で蚤の市をまわっていた私は、この木から気配を感じ (そして気配はティコティスのものだと信じて) 木のそばまでやってきた。


 ロエルは、私がこの木に近づくのを止めたさそうな雰囲気だった。

 そのことを不思議に思いつつ、私は木のうしろにまわりこんだ。ティコティスと再会できることを願って。


(……ロエルは、どんどん進んでいく私の後をついてきてくれたんだよね。うしろを振り返ったとき、彼は背後から私を守るようにつきそってくれてた)


 ロエルはこの世界の人。

 いっぽう私、睦月(むつき) 唯花(ゆいか)は、現代日本から昨日、異世界トリップしたばかり。


(ロエル、イケメンなだけでなくて親切でやさしいからなぁ。この世界の蚤の市に初めてきた私に、あれこれ世話焼いてくれて……)


 でも、今の状況は!

 前方には、いまだキス続行中のカップル。

 後方には、止むを得ない事情があるとはいえ、昨日会ったばかりの間柄(あいだがら)なのに、私に何度もキスをしたロエル。


 誰かがキスしている場面に私1人が遭遇(そうぐう)していたとしても、今日の私は、ロエルが私にした甘いくちづけを思いだしてしまうはず。

 それにくわえて今の私は1人ではなく――当のロエルが自分のすぐうしろにいる状態!


 さっきまで大木めざして威勢よく駆けていた私だけど、恥ずかしさのあまりどうしていいのか、わからない。

 身の置きどころのない。

 体は一挙に硬くなり、もう足は一歩も動かせない。前にも後ろにも。


(だって、もし背後にロエルがいなかったら、私のあわてぐあいもここまでじゃなかっただろうから、体の向きを変えて、一目散にこの場から立ち去っていただろうけど――)


 今、私が後ろを向いたら、ロエルとばっちり目があっちゃうよね。

 ……それも気まずい。


(一体どうしたら――。ああっ、心臓がバクバクしてきて頭は真っ白。良い考えどころか、もう何も思いつかない――)


「ユイカ」


 あせる私の耳に響いたのは、背中越しに聞こえたロエルの声だった。

 声をひそめ、私の名を呼び、彼は自分の大きな手を私の肩に、そっと添えた。


(――っ!?)

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