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第31話 この気配、人それとも……

(……ん?)


 ロエルと町に出かけ、2人で(のみ)(いち)をまわっている私は、ふと、自分のななめ前方に位置する大きな木から、何かの気配を感じた。

 この木は、蚤の市の露店と露店のあいだに植えている。


(木のうしろに誰か、いるの?)


 一度気になってしまうと、いったいどんな人が何の目的で太い幹のうしろに隠れているのか……。その答えを知りたくなってしまうというもの。

 私は足をとめ、大木をじっとみつめてみた。私のとなりにいるロエルも私にあわせて歩くのをやめてくれた。

 ロエルは私をねぎらうように言う。


「歩き疲れたのか、ユイカ。それなら少し休むことにするが――」


「えっと……、疲れたわけではないから大丈夫。ただちょっと、気になることがあって……」


 それだけ話すと私は、前方にそびえる木を観察することに再び意識を集中させる。

 すると――。

 一瞬。本当に一瞬なんだけど。


 チラチラッと、大木の幹から黒っぽい色をした何かが見えた!

 目にうつったのはほんのわずかな時間だったけど、たぶん、私の頭と同じくらいの高さから。

 やわらかくて、ふわふわした感じの黒い物体が視界にあらわれた。


(黒っぽい色、やらわかくてふわふわした……といえば、もしかして――ティコティス!?)


 私が異世界トリップして最初に言葉を交わした相手は、この世界の『人間』ではなく、人の言葉を話す不思議な『うさぎ』。彼の名はティコティス。

 ティコティスと会ったのは昨日だから、彼の見た目はまだはっきりとおぼえている。


 ほどよくモフモフしたボディのティコティスは、とても可愛い黒うさぎ。

 長いお耳を羽のようにパタパタさせて、宙に浮かんでいた。


 体のサイズは地球のうさぎといっしょって印象だったけど……。両脚を地面にふれさせることなく浮遊していたティコティス。

 その顔は、私の顔とだいたいおなじ位置にあったはず。


 ということは、ティコティスが昨日とおなじように体を浮かびあがらせ、木のうしろから、チラリと顔をのぞかせた可能性は高いかも。


(ティコティスと会ったのは、ロエルの館。なぜ今、ティコティスがこの町にいるのかは謎だけど――)


 あ、もしかしたらティコティスには、私の居場所がわかるのかもしれない。

 たとえば……21世紀の地球でいうGPSグローバル・ポジショニング・システムのような機能が、私の首についたチョーカーにはあるとか?

 このチョーカーは元々ティコティスが、異世界の言葉を知らない私に翻訳機としてくれたもの。


 現代日本でスマホが電話機能以外にもさまざまなことができたりGPSが搭載されているように、ティコティスがくれたチョーカーだって、GPS機能をはじめ、翻訳以外にもいろいろなことがでいるのかもしれない。

 現に、私とロエルは昨夜――。自分の世界に帰っていったティコティスとこのチョーカーを通信機にして会話したもの。


(木のうしろにいるのはやっぱりティコティス、あなたなの!?)


 はやる心を抑えきれず、私は目の前の木に駆けよった。

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