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第30話 日常的魔術生活って?

 異世界にやってきて、わずか2日目にして。私、睦月(むつき) 唯花(ゆいか)は、この世界の青年ロエルの仕事の助手になること、そして表向きは彼の婚約者のフリをすることになり――。

 今はロエルと町に出かけ、2人で(のみ)(いち)をまわっているところなのだけど。


(……婚約者のフリをすると誓った当日中に、その約束をうっかり忘れちゃうなんて……)


 自分の記憶力のなさに落ち込みそうになったとき。

 ロエルが明るい声で私に言った。


「ユイカ、きみが選んだ その砂時計の砂は夜になれば発光する。暗闇の中でも使うことができて、とても便利だ」


「そうだったの!? 私、この砂時計のデザインが気に入って、見惚れていただけだから……光る砂だったなんて知らなかった……」


 私はさっきロエルから手渡された砂時計をショルダーバッグの中に入れ、大事に大事にしまっていた。

 昨日、私といっしょに異世界トリップしてきた、このバッグの中身は――。ついさっきまでは、現代日本で販売されているものだけだった。(スマホやらサイフやら蜂蜜キャンディやらポーチやら)


 そこに初めて、この世界――ノイーレ王国――のものが加わった。

 ロエルは、つい先ほど「きみの仕事で使うこともあるだろうから、受けとってほしい」と言って、アンティークな雰囲気が素敵な、回転式砂時計を私に渡した。


(夜になれば光る砂。……それって砂時計として使うときは、光を発して輝きながら、サラサラ、サラサラ下に向かって落ちていくんでしょ)


 きっとすごく幻想的な光景だ――と思ってから、ふと気づく。


(あれ!? この世界は、魔術が人類の進化に大きな影響をあたえたというほどの、魔法が発達した世界だと、たしか昨日、ロエルに説明されたよ。ロエルだって、本業はトレジャーハンターだけど、表向きは王立魔術研究所に所属する魔術師なんだよね?)


 何かの呪文、もしくはもっとダイレクトに『砂よ、光れ~!』とでも念じれば、砂はピカーッと光るんじゃないの?

 私が何を考えたのか、カンのいいロエルは気づいたのだろうか。私の中にめばえた疑問に答えるように説明してくれた。


「光を自在にコントロールする魔術は、個人が日常生活でたびたび使うのには、あまり向いていないんだ。この魔術を使うことによって得た疲労の回復には、時間を要するしね。だから、あらかじめ光の魔術がほどこされた商品を買う者が多いんだ」


 ……そういうことかぁ。

 さっき聞いた、この世界ではあらかじめ魔法のかかった鏡 ――魔鏡―― を買う人よりも、なにも魔法のかかっていない、まっさらな普通の鏡を買う人のほうが、自分の用途にあわせて魔法をかけてカスタマイズできるから多いって話とは逆で……。日々の暮らしで必要な光は、そのつど光に関する魔術を使うんじゃなくて、あらかじめ魔術の宿ったアイテムをつかうことが多いんだ。


 私 (21世紀の地球からやってきた人間) の日常生活に、あてはめてみると……。

 たとえば私は、昨日この世界に飛ばされるまで、現代日本のアパートで1人暮らししてた。一応、節約のために自炊するものの、私は料理があまり上手なほうではないし、すごく疲れた日は料理する体力、気力が残ってない。

 そんなときは、すでに調理済みのものを買って食事する。

 それと似た感じ?


 というか――。

 今も私の首から はずれてくれない、魔石のついたチョーカー。最初に私の首に貼りついたとき、やたら激しく光を放ってなかったっけ……。

 それに、このチョーカーを私にくれた、人の言葉を話すうさぎ、ティコティスだって光り輝く わっかのアイテムを使って、自分の世界へと戻っていった。


 だから、光と魔術は密接に関係していて――。光に関する魔術自体も、基本の魔法として浸透しているってイメージをなんとなく抱いてしまってたけど。

『光を自在にコントロールする魔術は、個人が日常生活でたびたび使うには向いていない』とは……。


 昨日までの私には、魔術や異世界こそ『非日常』だったけど。異世界で魔術を使う人たちにとって魔法は『日常生活の一部』だものね。


 妙に感慨深く納得していた私だったんだけれど――。

 ふと、私のななめ前方に位置する大きな木から、何かの気配を感じた。

 この木は、蚤の市の露店と露店のあいだに植えている。


 木のうしろに誰か、いるの?

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