第29話 あ、そういう約束だった
異世界トリップ2日目。
私、睦月 唯花は、この世界の青年ロエルの仕事の助手になることになり――、今日はロエルと町に出かけ、2人で蚤の市をまわっているところなのだけど……。
(よく考えたら、さっきの私の対応って……失敗だよね)
反省しながら、私は自分のとなりを歩くロエルに、それとなーく視線を走らせる。
ロエルの整った顔だちがみせるやわらかな表情は、おだやかでやさしげで……私を責める雰囲気は微塵も感じられない。
彼の様子をみて、私は一応ホッとするものの、心からは安堵できない。
だって『さっきの私の対応』は、あきらかにロエルとの約束を忘れちゃってますね……ってものだもの。
外からみれば、女性をエスコートする温厚な青年紳士といった雰囲気をたもったままでも、内心では私を助手にスカウトしたことを後悔し、相当ガックリきているかもしれない。
おおらかさから自身の人選ミスを気にせず、どーんとかまえてるわけじゃなくて、――実は、責める気力も残ってないほど落胆してるとか。
私が地球から来たってことで、ロエルの評価がだいぶ高くなってったっぽいけど、それは以前ロエルが会った地球からやってきた人が優秀だったってだけであって……。
この私が異世界の入り口とやらに迷いこんだきっかけは、バナナの皮を踏んですべったせい。
何か特別なスキルを持つゆえ、この世界に召喚されたってわけじゃない。
(だからといっちゃなんだけど、21世紀の現代社会にいたからこその情報やらで機転のきいた対応をして、その場を切り抜けるなんて、私にはできなかった。頭、真っ白になってたし……)
そもそも『さっきの私の対応』とは――。
つい先ほど立ちよった露店の店主さんが、私とロエルがまるで恋人であるかのような対応をするものだから、私はドキドキあわあわしすぎて「私たちは恋人というわけではないんです!」と正直に答えてしまったこと。
私とロエルが恋人同士でないのは事実。
でも、私はロエルの助手になると同時に『婚約者のフリ』をすることにも了承したはずなのに。
店主さんにロエルの恋人あつかいされ、恥ずかしさのあまり、とっさに否定してしまった私。
ロエルって見た目はイケメンすぎるし、性格もいいし……こんな素敵な人の彼女に私がなれるわけないって気持ちがそうさせた。
ロエルは「ああ、オレたちは婚約したからね。もうただの恋人とは違うな」と、フォローしてくれたし、あの店主さんとの出会いも、おそらく一期一会。
(……でも、婚約者のフリをすると誓った当日中に、その約束をうっかり忘れちゃうなんて……)
自分の記憶力のなさに落ち込みそうになったとき。
ロエルが明るい声で言った。