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第28話 特別な関係に?

 ノイーレ王国の(のみ)(いち)をロエルといっしょにまわっていた私は、たくさんの鏡を売っている露店で足を止めた。


 売りものの鏡の手前に、小さな砂時計が置かれていることに気がついた私は、アンティークな雰囲気の回転式砂時計の素敵なデザインに目をうばわれる。

 となりにいるロエルに、この砂時計を「気に入ったのか?」と聞かれたけど、私は上手く返事ができず口ごもってしまった。


(……だってもし私が正直に気に入ったって答えたら、ロエルはこの砂時計を買ってしまう気がする)


 今、私が着ている服だって、私が元々着ていた服じゃ町で目立ちすぎるって理由でロエルが用意してくれたのに。

 仕事に不必要なものまで、ロエルにプレゼントしてもらうわけには――。


 あせる私に対して、ロエルはあくまで冷静だった。

 長い指で砂時計をさし、店主の男性に告げる。


「こちらの品をいただこう」


「ありがとうございます!」


 この『ありがとうございます!』は私の言葉ではなく、店主さんの言葉だ。

 ……お買いあげしちゃった。

 露店の店主さんは、砂時計をロエルに手渡す。

 ロエルはそれを私に手渡しながら、私にしか聞こえないような、ひそやかな声でささやく。


「きみの仕事で使うこともあるだろうから、受けとってほしい」


 私の仕事で!? 私はロエルの仕事の助手になることをさっき了承したばかり。

 ロエルの仕事はトレジャーハンター。 (表向きは王立魔術研究所の魔術師)

 だから、私はトレジャーハンターの助手になったわけだけど――。

 財宝探しのアシスタント業務で砂時計を使うことなんて本当にあるの?


 ロエルは、私の心の負担にならないようにこの砂時計を「仕事で使う可能性のあるもの」ってことにしたとか?

 ……もしそうなら、なぜそこまでロエルが私に気をつかうのか、まったくの謎だけど。

 そもそも今日の買い物は、仕事に必要なものを買うため、店がたくさんある町にでて……。偶然、この蚤の市に でくわしたって状況なんだけど――。


 ロエルの真意は私にはわからない。

 でも、ロエルは私がこの露店の砂時計をすごく気に入っちゃったのをみて、私のために買おうって決めてくれたんだよね、きっと。


 砂時計は、ただ飾っておくための置物とは違う。

 この先、何かの役にたってくれるかもしれないし。この世界のトレジャーハントでは、本当に砂時計を使うことがあって、本当の本当にロエルは助手に業務でつかうものを支給してるのかもしれない。


 こんなふうに、いろいろ考えたあとになっちゃったけど、私はロエルから砂時計を受けとり、お礼を言った。


「あ、ありがとう……ロエル。大切にするね」


 ちょっとたどたどしい口調になってしまった。

 なんだかテレくさくて。

 私たちの様子をみていた店主さんは、私に向かって言った。


「お嬢さん。恋人からの贈り物は、どんなものでも輝いてみえるでしょうが、その砂時計は、本当にいいものですよ。うちがあつかっている商品は鏡が多いが、その砂時計を気に入るとは実にお目が高い」


 店主さんの言葉に私はびっくり仰天ぎょうてん! 動揺しまくる。

 砂時計を気に言ったことをプロの露天商の人からお目が高いと言われて、あわてているわけじゃない。

 自分が骨董品(こっとうひん)の目利きの才能があるわけじゃないとは自覚しているし。そんな私でも素敵だと思わせる魅力が、この砂時計にあるってことは、わかっている。


 私が今あわあわしてるのは、最初のほうに言われた言葉!

 店主さん、たしかに「恋人からの贈り物」って言ったよね。

 この人には、ロエルと私が恋人同士に見えてるってこと!?


「……わ、わっ……私たちは、その――恋人というわけではっ、ないんです!」


 否定しながらも、顔がほてっていることが自分でもわかる。

 やたら顔中が熱いもの。今の私、すごく赤面してるはず。


 店主さんは『え、あんたたち恋人じゃなかったのか?』 といった感じの、きょとんとした表情をみせる。

 そうですよ、店主さん。だって、ロエルって、すっごい美形じゃないですか。

 若いのに雰囲気は落ち着いてるし (私みたいにすぐあわあわしない)紳士的でやさしいし、そのうえ、時おりやたらと色っぽくなるし、キスも……上手……だし、とにかく! さぞ女性におもてになるんでしょ? ってオーラ全開じゃないですかっ!!


 昨日、ここノイーレ王国からみたら異世界にあたる現代日本で、彼氏にフラれた私が、24時間もしないうちに恋人をつくれること自体が無理すぎるんですから! ……あ、店主さんは、私が昨日、異世界トリップしたことは知らないんだった。

 ここは港に近い町で外国の人も多いから、私のことも異国の民だと思ってるっぽいんだった。


 店主さんが口にした「恋人」という言葉がここまで私をうろたえさせるとは……。

 まだ顔が燃えるように熱いままだ。

 私がこんなにあせっているのに、ロエルはまたしても冷静なまま。

 店主に向かって自然なくちぶりで告げる。


「ああ、オレたちは婚約したからね。もうただの恋人とは違うな」


 ――――あ、婚約。

 そうだった。店主さんに急に「恋人」なんて言われたからビビリまくっちゃったけど、私はロエルの助手になることと同時に、彼の婚約者のフリをすることになってたんだった! あくまでフリだけど。


 いきなり恋人あつかいされて、頭は真っ白。

 婚約者になったフリをするって条件は、記憶の彼方(かなた)に行ってしまい、それで「恋人というわけじゃない」って、あせって否定しちゃったんだ、私……。

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