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第27話 砂時計、サラサラと

 異世界トリップ2日目。私は、ノイーレ王国の(のみ)(いち)をロエルといっしょにまわっていた。

 たくさんの鏡を売っている露店で足を止めた私は、売りものの鏡の手前に、小さな砂時計が置かれていることに気がついた。


「わぁ! 素敵なデザインの砂時計……」


 私の口から思わず感嘆の声がもれる。

 だって、その砂時計は、アンティークな雰囲気いっぱいの、回転式の砂時計。

 底とてっぺんを時間をはかるたびに ひっくりかえすタイプではなくて、底は しっかり固定されている。じゃあ、どこをひっくりかえして時間をはかるかというと……。


 回転式の卓上スタンドミラーの鏡部分を回転させる要領で、砂の入ったガラスの(つつ)をクルリと回転させ、時間をはかる。

 砂時計の台に ほどこされた模様はまったく違うけれど、このタイプの砂時計を昔、本の中でみかけたことがある。


 砂時計というもの自体が、私が昨日までいた現代日本ではあまり使われないものだったけど……。

 それでも、土台の底とてっぺんを時間をはかるたびに ひっくりかえすタイプの砂時計なら「家にあるよ」って子も周囲に ちらほらいた。紅茶の蒸らし時間をはかるのに使っているとか。


 だけど、土台は固定したまま、ガラスの筒を回転させるタイプを私が見たのは、写真や絵以外ではこれが初めてだった。

 私が本物を見てなかっただけで、今の日本でも回転式砂時計は商品として流通しているとは思うよ。――でも。


(実物を異世界であるノイーレ王国で見ることになるとは……)


「気に入ったのか、その砂時計が」


 私の隣にいるロエルに声をかけられ、はっとする。


「……えっと」


 この砂時計の見た目に惹かれたか、惹かれてないかでいえば、それは、惹かれましたよ。

 どこか神秘的な雰囲気といい、ガラス筒といい、金属製だと思われる土台といい、パーツのひとつひとつが素敵なうえに、全体的に調和がとれている。

 ノイーレ王国は、昔のヨーロッパっぽい異世界のようだから、この砂時計もヨーロピアンでクラシカルな感じ。


 でも……私が「うん、この砂時計、気に入っちゃった」って答えたら――ロエルは砂時計を買おうとするのでは?

 私、会社帰りに異世界トリップした先がロエルの館だったってだけで、ロエルにこの世界の服をプレゼントしてもらったり (現代日本の服のままで外出すると目立ちすぎてしまうって理由で)、館の客室に泊めてもらったり。


 これ以上、仕事の成果がでるまえに何かしてもらうのは、さすがに……。

 私といっしょにトリップしたサイフの中の紙幣や硬貨は、この露店で (というかこの世界で)お金として認められないだろうし。


 かといって「べつに、この砂時計が気に入ったわけじゃないよ」って答えるのも、露店の店主さんに失礼だよね。ここはお店。並べてあるものは、商品なんだから。

 この場は、どう答えるべき?


 ……どうしよう。わからなくて、あせってくる。

 ロエルは私の顔をみた。

 そして、長い指で砂時計をさし、店主の男性に告げる。


「こちらの品をいただこう」

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