第19話 どうして、またそうなっちゃうの!?
心を落ちつかせるためスーッと深呼吸して息をととのえた私は、ロエルを見あげ、はっきりした口調で告げた。
「私でもいいって言ってくれるなら、私、ロエルの助手になりたい」
言った、言っちゃった!
一度口にした以上、もう後もどりはできないんだって、わかってる。
それを承知で、私はロエルのスカウトを受けることに決めたんだ。
心臓をドキドキさせながらロエルをみつめていると――彼は私に向かって、にっこりとほほえんだ。
「きみが助手を引きうけるって決めてくれてうれしいよ。よろしく、ユイカ」
「……こちらこそ、よろしくおねがいします!」
ここはロエルの自室。ふたりきりの室内に、緊張した私の声が響く。
ロエルの仕事はトレジャーハンター。
彼が一体どんな財宝を手に入れようとしているのか、私はまだ知らないけど……。ここ、ノイーレ王国は、現代日本から異世界トリップしてきた私にとっては、かなりファンタジックな世界。
なんせ、この世界の人間は鳥に変身できるし、変身中は空を飛べちゃう。
そんな世界で、変身能力も飛行能力もない私がトレジャーハンターの助手なんて――正直かなり無謀な気が今もするけど……。でも!
どうやらロエルは、私 睦月 唯花が違う世界からやってきた人間だから、それゆえこの世界の人とは違った視点や情報を持っている……それが財宝探索のヒントになるかもしれないと ふんで、私に助手の話を持ちかけたっぽいから――。
それなら、ロエルの仕事の役に立てる可能性もなくはないのかも。ノイーレ王国にきてからロエルに助けてもらってばかりの私だけど、少しは恩返しできるかも……と考えて助手になると宣言したのだけど。
(私といっしょに異世界トリップしてきたスマホ……壊れてはないものの、圏外で電話もメールの送受信もネットも無理。もしネットにつながるんなら、検索でいろいろ調べられたかもしれないのに残念……)
「ユイカ」
ふいにロエルに呼びかけられる。……何だろう?
ロエルは私の顔を正面からのぞきこみ、ささやく。
「さっききみに、オレは表向きは王立魔術研究所の魔術師だが、本業はトレジャーハンターだ、そう話したね」
私はコクリとうなずいた。私がしっかりうなずいたのを確認してからロエルは言う。
「だからきみも、表向きはトレジャーハンターの助手とは違う立場でいてほしいんだ」
あ! 助手を引き受けるかどうかであれこれ悩んでたせいで、そこまで考えてなかったけど――。
トレジャーハンターであるロエル本人が別の肩書きを名のっているのに、助手が「私、睦月唯花。異世界からやってきました。現在はこの国でトレジャーハンターの助手をやってまーす!」なんて、のんきに自己紹介した日には、一体どこの誰の助手をやってるのかって不審がられてしまいそう。
(ロエルが王立魔術研究所の魔術師……本業とは別の肩書きを名のっているなら――。私も普段は魔術師の助手だと名のることを、ロエルは望んでいるのかも)
ロエルは違法なトレジャーハントはしないって言ってた。それでも表向きは別の職業を名のっているのは、もしかして――。
本業はトレジャーハンターであることをオープンにすると、違法なこともいとわない悪のトレジャーハンターたちから行動を監視されて、せっかくみつけた宝を法律完全無視の強引な手段で略奪されてしまう危険があるから、とか?
どんな理由かは、わからないけれど、うっかりトレジャーハンターの助手だと言わないように、これからは気をつけなくっちゃ。
気を引きしめつつ、私はロエルに言った。
「私がトレジャーハンターの助手になったことは秘密にしておけばいいのね。ロエルが表向きは魔術師なら――私も表向きは魔術師の助手だと名のればいいの?」
「いや、助手ではなく――。ユイカ、きみはオレの婚約者だということにしておきたい」
「……こ、婚約者……。え? えっ――!」
ロエルが私の婚約者のフリをして――男たちに からまれていた私を助けてくれたのは、つい昨日のこと。
なんで今になって、ふたたび私がロエルの婚約者のフリをすることに?
「……ど、どうしてロエルの助手になった私が、婚約者のフリをするって話になるのっ? り、理由は!」