第18話 不安もあるけど、やってみます!
「ロエル、あなたが出会った、私と同じ世界からやってきた人は――プロのトレジャーハンターじゃなくても『宝探しが得意』だったのかもしれないけど……。私は実践経験がないってだけじゃなくてトレジャーハントに関する知識なんて、本当に何もないよ」
ロエルが『地球の人間はトレジャーハントの知識がある』だから『助手に採用しよう』と考えてるなら、私には無理。
だから、誤解がないように、私には経験だけでなく知識もないことを、正直に打ちあけた。私の正面に立っているロエルに向かって。
うーん、『経験だけでなく知識もないことを、正直に打ちあけた』って言葉だけ聞くと、なんだかちょっと物悲しい響きというか……。
自分のスキルの低さを痛感してしまった気がしてくる。
だけど!
トレジャーハントの知識や経験は、私がやってきた21世紀の日本では特に必要とされてなかったし。トレジャーハンターをモチーフにしたフィクション作品はいろいろ出てたけど、実生活においては――。
『就職に有利だから、トレジャーハンターにならなくても、トレジャーハント資格だけはとっておいたほうがいいよ。転職のときにも有利だし、もしリストラの憂き目にあっても、次の職がみつかるまでフリーのトレジャーハンターになればいい』
……という社会システムでは全然なかったし。
むしろ国内でのトレジャーハント行為は、遺失物に関する法律もかかわってきて大変だって、昔テレビの特集番組か何かで聞いたような気が……。
って、私また、ついつい1人で考えこんじゃったよ。ここはロエルの自室で――。今この部屋には私とロエルの2人しかいないのに。
私はあわてて顔をあげる。
ロエルと視線があった。私がトレジャーハント未経験なことを申告したあげく、1人もんもんとトレジャーハントについて考えはじめ黙りこんでしまっても、彼はおだやかな表情をくずしたりしていなかった。
(……ロエル――?)
もしもロエルに、失望した顔や退屈した顔をされたら――きっと私の心はチクリと痛むはず。でも……。
私には、トレジャーハンターとしての能力なんて、ないことを私本人がロエルに伝えてもなお、彼の様子が落ちついているのは、なぜ?
ロエルは、私なら彼の助手がつとまると思ったから、私をスカウトしたんでしょ。
(なのに、どうして――)
彼が態度をくずさないのを不思議がっていると、ロエルは私の正面に立ったまま、私の目をみつめ、告げた。
「オレはきみに言ったばかりだろう。オレの助手にならないかと誘ったのは、きみは信用できる人間だと直感したからだと。それに、トレジャーハントの経験はなくても……きみはこことは違う世界からやってきた。きみは昨日、オレにきみの世界の話をしてくれただろ」
「――えっと……私のやってきた世界の話って……。あ、人間に空を飛ぶ能力はないけど。乗り物――たとえば気球を使って空を飛んだりする――そういう話?」
ロエルは「ああ」と、うなずいた。
この世界(私にとっては異世界トリップで偶然やってきた場所、ノイーレ王国)で『人類』といわれている人たちは……私が知ってる人類とは違った。
なぜなら! ノイーレ王国の人間は、鳥に変身することができるんだ。……でもって、鳥に変身しているあいだなら、空を飛ぶことが可能!!
耳で聞いただけじゃ、とても信じられなかったけど。私はこの目で実際に見てしまった。
この世界の人たちが鳥に変身する瞬間と、鳥から人間にもどる瞬間の両方を。
それで私は、私がやってきた世界では、人類は空を飛べない。
鳥のように空を飛びたいって思った昔の人は、気球という乗り物をつくって、それで大空を飛んだんだって説明したんだけど――。
(この世界は、地球とは違って、人類の進化に魔術がおおいにかかわったという世界。ロエルだって本業はトレジャーハンターだけど、表向きの仕事は王立魔術研究所の魔術師だと言っていた)
魔術が大きな役割をはたしている世界だからこそ、そうでない世界からきた私の話から、財宝探しに関する、なにかしらのヒントが得られるかもしれない――そう、ロエルは考えている?
あっ! ほら、グルメ漫画とかで主人公が新作料理をつくらなきゃいけなくなると――料理界の重鎮の言葉からヒントが……ってパターンよりも、むしろ一般の、料理にくわしくない人の『なにげない ひとこと』のほうが『完成には何かがたりないって悩む主人公の突破口』になることが多いじゃない。
ミステリー漫画でも、たとえば主人公が探偵だとして、本職の刑事さんからのアドバイスよりも、おさななじみの『なにげない ひとこと』のほうが、トリックを見破るきっかけになったりするし!
トレジャーハントを題材にした漫画は……。そういうモチーフの漫画もあると存在を知ってるだけで、手に取って読んだことはない。異世界トリップしてトレジャーハンターの助手にスカウトされるんなら、読んでおけばよかったと思ってる。
……でも、美味しい料理をもぐもぐ食べる作品も恐ろしい事件がつぎつぎ起きる作品も、本職ではない人の『なにげない ひとこと』が行きづまりかけた主人公の解決の糸口になっている。
ということは。
そういうことなら。
本職でないゆえ、私でも役に立てるのかも……しれないって気がしてきた。……自信はないけど。
ロエルにはたくさんお世話になったから、ちょっとでも恩返しできるなら――この話、乗るべきだよね。
不安がないっていったら嘘になる。
未経験の仕事を、昨日たどりついたばかりの異世界で、するんだもの。
だけど――。
私は、この仕事をひきうけてみようと思った。
心を落ちつかせるためスーッと深呼吸して息をととのえてから、ロエルを見あげ、はっきりした口調で告げた。
「私でもいいって言ってくれるなら、私、ロエルの助手になりたい」