第6話 館の庭園で私を待っていたのは? (1/2)
「それでは、僕はここで失礼しますね」
おだやかな口調で、ペピートは告げた。
すぐ目のまえに広がる、薔薇の花咲く庭園に私を案内してくれたペピート。
彼は私に一礼し、この場から去ろうとする。
「あのっ、ここまでつれてきてくれて、ありがとう……ペピート」
ペピートは私に笑顔をみせた。
そのほほえみは「庭園でごゆっくりおくつろぎください。ロエル様とおふたりで」と告げているような雰囲気だ。
私は恥ずかしさで、おもわず顔が熱くなる。
庭園の入口に私を残し、ペピートは館内に戻っていった。
私の前方に咲き誇る、無数の赤い薔薇は、本当に見事の一言。
ただただこの花たちをながめているだけで、時間があっというまにすぎてしまいそうだ。――本来ならば。
でも、いまの私はただ薔薇をみているだけではすまなそう。
……入口からはみえないものの、この庭園にはすでにロエルがいるらしい。
これから先、私がロエルと顔をあわすことなくこの世界ですごすことは不可能だ。
私はロエルに、あと99日のあいだは毎日キスしてもらわなくちゃ……。じゃなきゃ、私の首について離れない魔石のチョーカーの副作用をおさえることはできない身の上になってしまったのだから。
それなら――覚悟を決めてロエルに朝のあいさつをしよう。
「おはよう、ロエル」って、なるべく自然に。
決意をかためた私はアーチ状の入口をくぐり、庭園の中へと入っていった。
(わぁ……本当に薔薇でいっぱいの庭園なんだ。しかも赤い薔薇ばっかり)
入口からのながめだけでも りっぱな庭園だと思ったけど、庭園内部に入ることによって、さらにこの庭が素敵な空間なのだと実感する。
あたりにひろがる優雅な香りにうっとりしかけるけど……、あれっ、ロエルはどこ?
左右を見回してみるも、彼らしき人影はない。というか、誰の人影もない。
目のまえにひろがる庭園は広大だ。
(ひょっとして、ロエルはこの庭の、ずっと奥のほうにいるのかもしれない)
私は庭園に敷きつめられた白い石を歩いて、前へ前へと進んでいくことにした。
すると――。
どれくらいてくてくと歩いたころだろうか。
私の前方に咲く赤い薔薇に目がとまった。
その薔薇の木の枝には、1羽の青い鳥が羽を休めている。
薔薇の『赤』と鳥の『青』。
赤と青の、みごとな色彩のバランスがおたがいの美しさを引き立たせあっているようにみえた。
(すごく……きれいな鳥――)
おどろかさないように、そっーと近づいてみる。
鳥と目があう。
飛び立つことなく、鳥は私をみつめる。
18センチくらいの大きさをした、その鳥は――私がやってきた地球の鳥、翡翠によく似ていた。
空とぶ青い宝石と賞賛されることもある翡翠を間近でみたのは、初めて。
もっとも、私がみためと名前を知ってる鳥、翡翠と似ているだけで、翡翠とはちがう、この世界にしか生息していない鳥なのかもしれないけど……。
ここまで考えて私は『この世界の人類』が鳥に変身できる能力を持っていたことを思いだす。
昨日の私はこの目でみてしまったんだ。ペピートは九官鳥に、ロエルの主治医のラウレアーノ先生はカラスに変身する瞬間を――。
(でも私は、ロエルが変身したところはまだみていない……)
目のまえで休息する鳥の、青く輝く美しい羽は、私にロエルのブルーの瞳を思いださせた。
(……あ、もしかして、このきれいな鳥は――ロエルの変身した姿なの? だから、私が近づいていっても逃げない? でも、それならなんで今朝のロエルは鳥に変身しているの?)