第3話 異世界で朝ごはん
私が身じたくを整えてからしばらくしたころに、マリョマリョが予想したとおり、客間にペピートがやってきた。
鳥に変身した姿ではなく人間の姿のペピートが運んでくれたのは朝食そして、私のショルダーバッグ。
「ありがとうペピート」
気がつけば私は、おはようと言うよりも先にありがとうと言っていた。
だって朝ごはんを用意してくれたのも、ショルダーバッグを持ってきてくれたのも、とってもうれしくて。
「おはようございます、お客様」
にこやかに挨拶されて、あわてて私も返事をする。
「おはよう、ペピート」
ワゴンに乗ってこの部屋にやってきた朝食は、パンにスープにサラダに果物。
どれもとっても美味しそう。
よくみればスープは具だくさんで、バランスのとれた朝食って感じだ。
昨日もてなされたのと おなじティーポットも運ばれている。
この国、ノイーレ王国の食事は、私がやってきた世界のヨーロッパの食文化と似ていることを、昨日ロエルから聞いたとき。ノイーレ王国は、食べものも建物や服とおなじくヨーロッパ的なんだなと思ったけど……。
目のまえのテーブルに並べられた朝食は、「西洋的」だとか、「西洋『的』であって地球の西洋とまったくおなじというわけではない」とか。
そんなカテゴリーどうでもよく感じちゃうくらい美味しそう。
あたりに ただよう香ばしい匂いがますます食欲をそそる。
私は異世界できちんと食事ができることに感謝して、この朝食をいただくことにした。
さいわい、スプーンとフォークそっくりのカトラリーも添えられている。
(いただきます……)
パンはサクサク。新鮮なサラダと具のたっぷり入ったスープは美容にも健康にもよさそうなうえに 食べていると ぽわーんとした気分になってくるほどの極上の味。
ゆっくり味わって食べているつもりが、あっというまに完食。
そして、今朝だされたお茶も、とても味わい深いものだった。
(……ん、でも今日のお茶は――)
私の横でお茶をそそいでくれたペピートに、私の頭の中にうかんだふとした疑問を質問してみる。
「昨日いれてくれたお茶、すごく美味しかったの。いま、いれてくれたお茶もとても美味しいけど――昨日のお茶とは違うお茶なの? 昨日と今日のお茶は、似ているんだけど、なにかが違う気がして……。今朝のお茶のほうが、さっぱりしているような――」
昨日のお茶も今日のお茶も、私がやってきた世界のお茶 (『茶の木』と呼ばれるツバキ科ツバキ属の常緑樹の葉や茎からつくられたもの) ではないと思う。
色も風味も香りも、紅茶とも緑茶ともほうじ茶ともウーロン茶ともちがうもの。
でも、お茶の葉以外の植物を乾燥させたものも「ティー」っていうよね。
カモミールティーとか、バタフライピーティーとか……。
あ、緑茶とブレンドしない、100パーセントジャスミンだけでつくられたものもジャスミンティーっていうって、昔カフェで聞いたことがある。
ミントティーだって、紅茶とブレンドさせたものも、100パーセントミントの葉でつくったものも、両方ともミントティーって呼ぶって。
この世界に、「茶の木」はあるのかな。ないのかな。
茶の木が存在してない場合、私が首につけている、翻訳機能付きチョーカーは、私の言葉をどう訳しているんだろう?
そういうことも気になるけど、とりあえず私はペピートと、目のまえの飲み物について、ちゃんと会話できている。(……ホッ)
私の言葉を聞き終えたペピートは、笑顔で答えた。
「お客様、昨日と今朝のお茶の味の差に、よくお気づきになられましたね。いまおだししたお茶と昨日のお茶は――おなじ名前の植物からつくられたものですが、違うところもございます」
おなじ植物からつくられた飲み物なのに、違うところがある――。
それって、生息している場所が違うとか?
それとも、新芽とそれ以外みたいに摘みとった部位の違い?
じゃなかったら、醗酵か微醗酵か半醗酵……みたいな差?
予想はあれこれ思い浮かぶものの、答えはわからない。
思いついた答えを口にしてみるものの、どれも正解ではないそうだ。
(うーん、一体なんなんだろう?)
はやく正解を知りたい。
私の気持ちが伝わったんだろうか。
ペピートはほほえみ、答えを教えてくれた。
「『色』ですよ」
「……色?」
「ええ、両方ともある花を乾燥させ、お茶にしたものです。おなじ花でも色が違うんです」
「その、ある花って?」