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第35話 解放条件はキス? しかも――

 ~前回(第34話)までの約160字まとめ~


異世界トリップした私は不思議なうさぎティコティスから、魔石の はめ込まれたチョーカーをもらう。

このチョーカーの持ち主には副作用がでる場合もあることが判明。

私に出始めている副作用についてティコティスが説明するのを、トリップ先の館の主、ロエルとふたりで聞いている。

ティコティスは、この副作用の対処方法を教えるけど、それは――。

『「ある行動」とはっ、「タイプCの副作用が発症した魔石の持ち主は――魔石が恋人と判断した者に、100回キスされること」なんだーっ!』


 え……キス?

 それも、ひゃ、ひゃっ……100回――!!


 しかも、魔石が判断した恋人と。

 ……それって――。


 私は、おもわずとなりのロエルに視線を走らせる。

 さっきまで恥ずかしくて、彼と目があうことを避けていた私だけど……。

 こんな緊急事態、想定外。ロエルの反応がとても気になって、いまは恥ずかしいとか言っていられないとばかりに彼をみあげる。


 ロエルは視線をそらすことなく、私をまっすぐみつめていた。

 たぶん私が彼から目をそらせていたあいだも、ずっと。


 それこそ、まるで彼女の身を案じる彼氏ように……。


(……か、彼氏!? 彼女?? 私ってば、いくら心の声でも、それは言いすぎだって!!)


 黒ずくめの集団相手に婚約者のフリをしたつぎは、魔石相手に恋人のフリをしなきゃいけないの?

 どうしよう。このままじゃ、また、私のトラブルにロエルを巻き込んでしまう。

 私を助けるために、何度もロエルに迷惑かけるわけにはいかないよ。


 ……しかも、100回って。


 私は、どうにかロエルを巻き込まなくていい解決策はないかと思いながら、ティコティスに質問する。

 まずは、副作用の対処法について、確認するような気持ちで。


「わ、私とロエルが――もしも100回キスすれば……魔石が引き起こす副作用は、おさまってくれるってこと?」


 ティコティスは、いままで言いづらそうにしていたのが嘘のように、とても元気にお返事する。

 話しにくいことをようやく言えて、すっきりしているみたい。とてもハキハキした口調だ。


『そのとおりだよ! 唯花、ロエル』


 唯花、ロエルって――私、唯花はともかく、ロエルを巻き込むこと前提のようなお返事は、どんなに可愛らしい声で元気いっぱい言ったって、

「そうだったのかぁ……! 貴重な情報を私に教えてくれてありがとね、ティコティス♪」

 なんて心境には、なれないよ。


 いくらなんでも、そこまで私は神経が太くない。

 ティコティスの話は続く。


『唯花とロエルがキスすれば、100日後にはチョーカーは取りはずし可能になるし、身につけても、もう副作用は起きない。これも、かなり信頼できるデータだから信用していいと思う』


 私はティコティスに確認する。


「100日後には――って、1日1回、毎日キスすれば……約3ヶ月後にチョーカーの副作用は起きなくなるって、ことなの?」


『えっと……そうじゃないよ』


「……へ? そうじゃない、って……。いまさっきティコティスが、魔石が持ち主の恋人だと認識した相手に私が100回キスされたらって――」


『うんとねっ、ぼくは「1日100回キスすることを、100日間続けるんだ」――って伝えたかったんだよ。あ、ぼく、まぎらわしい言いかたしちゃったかな』


 ……100回キスって……。

 合計100回じゃなくて、毎日100回、100日間しろって意味だったの!?

 100が10あれば1,000なんだから、そのさらに10倍っていったら1万!


 ……1万回!!


 ただでさえ、暗算が苦手な私。しかも、いまの私は頭も体もフラフラ。

 それでも、答えがわかってしまうほど、計算自体は単純だ。計算自体は。



(問題・唯花さんは魔法の石のついたチョーカーが首からはずれなくなってしまいました。

 唯花さんはチョーカーをつけたことで副作用を引き起こし始めています。

 チョーカーをはずすには魔法の石が恋人と認めた相手に毎日100回キスされなければいけません。

 100日後にチョーカーがはずれる場合、唯花さんは合計何回キスされればよいでしょう)


(答え・100回×100日=10000回)



 子どものころは算数や数学って役にたつの? なんて思ったものだけど、大人になったいま、ちゃんと役にたったよ!


 複雑で難解な数学の問題は日常生活ではあまり使わないし、単純な計算なら機械がやってくれるのに……と、不満に思いつつも義務教育期間中、理数系の科目が苦手なわりには、授業はもちろん宿題もきちんとコツコツやっていて、よかった。

 3ケタとはいえ、こんなに単純な かけ算が異世界にきて、自分の役に立ってくれるとは!


 ――って、私、本当に普段より頭フラフラだ。

 簡単な計算ができただけでも、まだ自分の意識はちゃんとしてるみたいだって、思ってホッと安心してるなんて――。


 私の横でロエルがティコティスに確認する。


「毎日100回のキスを100日続けたら――そうしたならば、本当にユイカは助かるのか」


『うん。さっきも言ったけど、何度でも言うよ。これは信頼できる情報だからね』


(ティコティスは、彼の世界の石版を読んで、私たちにチョーカーの引き起こす副作用の対処方法を教えてくれたのだろうな)


 この世界の医師、ラウレアーノ先生も、自分よりもチョーカーの副作用にくわしい医師を紹介すると言ってくれたけど。

 魔石のついた、このチョーカーは、もともとティコティスの世界でつくられたもの。

 本来はうさぎ用につくられた、翻訳機能や通信機能を持った、不思議なチョーカー。


 うさぎには副作用が起きていなかったから、それ以外の生物が副作用を発症させたときの対処方法の研究が遅れたそうだけど……。

 それでもやっぱり、このチョーカーに関しては、ティコティスの世界の対処方法のほうが、確実な気はする。


(……ちょ、ちょっと待って! 確実な気はするって……。私、非常事態なのだからしょうがないって、また、ロエルにキスしてもらう気なの?)


 私の頭の中に、今日、館の中庭でロエルにキスされたことを思いだす。

 中庭にある泉。そのそばに私が異世界トリップして――。

 ティコティスに出会ったあと、黒装束に身をつつんだ5人の男たちに私が『あやしい奴』と、からまれていたとき。


 ロエルは颯爽さっそうとあらわれた。

 彼は5人から私を助けるために、私を自分の婚約者だと言い、私に くちづけた――。

 そのおかげなのか……男たちは中庭から去っていった。


 中庭での一連のできごとを思いだすと、ロエルの唇の感触まで思いだしてしまいそう。

 と、危惧したときには、もう私はロエルと中庭で交わしたキス、そのときの感覚をつぶさに思いだしてしまい、体がカッと熱くなっていた。


 私ってば――。ロエルとティコティスと話しあっている最中だっていうのに。何、ロエルとのキスを詳細に思いだしちゃってるのよ!

 自分で自分をしかる私に、ティコティスが つけくわえた。


『あ、1日につき100回キスといっても、無言じゃダメだよっ』


 ……はいっ? ど、どういうこと?

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