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第25話 美青年が つきっきりで異世界レクチャー

 その後も、ロエルは私の質問に答え、この世界の人類の歴史やこの国の歴史をかいつまんで教えてくれた。

 ロエルの解説は、非常にわかりやすく興味ぶかかった。


 私は自分の意思でこの世界にやってきたわけじゃないのに、ロエルが語るこの世界の歴史にひきこまれ、しだいに気分が上向きになっていったほど。

 とはいえ――。

 頭のなかに一挙に大量の情報が入ってくると、だんだん脳がフリーズしそうな感覚になってくる。


(ただでさえ異世界にトリップして、頭が混乱することが多かったからなぁ……)


 私が情報の海におぼれかけ、あっぷあっぷな状態になってきたことに、語り部役になってくれたロエルも気づいたみたい。

 ロエルは、笑顔で告げた。


「今日はこれくらいにしておこう。ユイカが目を輝かせてオレの話を聞いてくれるから、つい長く話しすぎたな。きみはそろそろ休んだほうがいいだろう」


 ……私、ロエルの話、目を輝かせて聞いていたんだ。

 本人から言われるのは、恥ずかしいけど、ロエルには私をからかってる雰囲気はない。

 純粋に、この世界のことを異なる世界からきた私が興味を持って聞き入っていたことをうれしいと言ってるようだった。


 ロエルが語るこの世界の話を、ワクワクしながら聞いていた自覚はあるけど、目まで輝かせてたんだ。

 からかわれていなくても、やっぱりなんだか恥ずかしい。

 今日のお礼を言うつもりが、なんだかもじもじしてしまう。


「……あ、ロエル。今日は本当にありがとう……。おやすみなさい」


 ロエルの『そろそろ休んだほうがいい』という言葉をうけて、私は『おやすみなさい』と言ったのだけど……。

 私から『おやすみなさい』と言われたロエルは、一瞬、なつかしげなまなざしで私をみた。

 …………?


(私とロエルは今日会ったばかりなのに、なんでいま『なつかしげ』な目で、私をみたの?)


 そう言葉にして聞くには、ロエルがみせた、なつかしそうな視線はあまりにも瞬間的なものだった。

 数秒の沈黙ののち、ロエルが口をひらく。


「明日、きみとこの館をでられたらオレはうれしい」


「ロエル……」


「だから、きみの身に異変があったら、時刻はかまわず、すぐにオレに知らせてくれ」


 ロエルは、この館内にある、自室の場所を私に教え、客間をでていった。


 そのあとの私は――。


 ふたたび客間にやってきたペピートに、今日私が泊まる用に準備された別の客間に案内される。

 その部屋は、私がさっきまで長いこといた客間よりも、ロエルの部屋に距離が近かった。


「お客様」


 ペピートに呼びかけられる。

 彼の案内で、てくてく歩いているうちに、いつのまにか、今夜私が泊めてもらう客間のまえに到着してたみたい。

 ペピートはサッと扉をあけ、にこやかに言った。


「こちらの部屋になります」


 その口調は、事務的ではなく、とてもあたたかい。

 さきほどまでいた客間でも思ったけど、ペピートって、きっとコミュニケーション能力がとても高い人だと思う。


 ロエルもそうだ。

 異世界であるこの国で右往左往していた私を、おだやかな笑顔で何度安心させてくれたことか。


 この国は平和な国だと、しゃべる不思議なうさぎ、ティコティスは言っていたけど――。

 コミュ力高い人が多い国なのかな。


 あっ、中庭で私がからまれた、黒ずくめ集団は、私の話すことをほとんどまともにとりあつかってくれなかったけど……。

 ただ、あの人たち。団結力は強かった。

 アイコンタクトだけで、ティコティスの足を同時につかもうとしているところをみたときは、おそれおののいちゃったぐらい。


 私は、可愛いうさぎさんティコティスと、ティコティスを『聖兎さま』とあがめつつも、なにがなんでもティコティスを自分たちのお茶会に出席してもらおうと強引な手段も辞さなかった、ちょっとやっかいな黒ずくめの集団のことを思いだしながら、室内に入る。


 すると――。

 目のまえには、壁紙もカーテンもテーブルもベッドも、全部かわいらしい雰囲気がする素敵な光景がひろがっていた。


「お客様。簡単にですが、このお部屋の説明をさせていだたきますね」


「あ、ペピート。そのまえに……」


「はい、なんでしょうか」


 この部屋を説明してもらうまえに、ペピートに伝えておかないと、私はきっとまた言いそびれてしまう。


「……えっと、今日はいろいろありがとう。ロエルから聞いたの。あなたがこの世界の服を用意してくれたって。それにこの部屋の準備まで――」


 今日の私は、ロエルだけでなくペピートにも、結局頼りっきりになってしまった。

 私が恐縮していると、ペピートは笑顔で答えた。


「この館自体に魔力が宿っているので、お部屋の準備もご入浴の準備も、館がみずからやっております。なので、どうかお気になさらずに」


 お風呂は館に宿っている魔力がみずから準備――。

 現代日本の、全自動システムよりもすごそうだ。

 そういえば、この館自体に魔力が宿っていると、さっきも説明された気はする。


 ロエルから聞いたんだっけ、ペピートから聞いたんだっけ。

 情報が多すぎて、ごっちゃになってる。


 そして――。私は、今日泊まることになった客間と、浴室は別々の場所にあるとばかり思っていた。

 けれどペピートの説明によれば……。

 私の案内された部屋は、浴室つきの部屋だそうだ。


(……浴室がついてるなんて、ホテルみたい)


 私がやってきた世界でも、昔のヨーロッパの客間には浴室までついていることもあると聞いたことがある。

 あ、昔のヨーロッパのお風呂事情って、どうだったんだっけ――。

 という考えが頭にうかんだ。


 だけど、この世界は「昔のヨーロッパ」のような外見をした物が多いけど、「昔のヨーロッパ」とは別の、魔力によって独自の進化をとげた世界だということを思いだす。


(いまさっきも、魔力がみずから風呂を準備したと聞いたばかりだし……)


 ペピートから、部屋の奥にみえるカーテンをあければ、そこが浴室になっていると告げられる。

 きっと、あのカーテンにも魔力が宿っていて、湿気の多い浴室でもカビなんて はやすことなく清潔を保っている、すぐれもののカーテンなんだろうなぁ……と、ひとりで納得する。


「この浴室は『巫女』が身を清めるための場所として、聖兎を愛好する集団の女性が使用することがあり、利用された方々からの評判は非常にいいです。なので、お客様もきっと快適にすごしていただけると思います」


 言葉を話すうさぎを『聖兎さま』と呼び、熱烈に愛好している集団の女性――集団内で女性愛好家は全員『巫女』と呼ばれている話は、たしかに聞いたけど。

 それよりも――。


「あのっ、ペピート! いままで言いそびれてきたけど、私、お客様じゃないの。困っているところをロエルに助けてもらった、ただそれだけで……」


 ペピートは、笑顔で答える。


「ですが、僕はあなたをお客様として丁重にあつかってほしいと、ロエル様から頼まれました」


「でも……――」


 くちごもる私にペピートは告げた。


「たとえ、ロエル様から『丁重に』と言われていなかったとしても……。ロエル様の明るい笑顔をひさしぶりにみることができたので、僕はあなたをお客様として丁重におもてなししたいのですよ」


(……えっ!?)


 ペピートの言葉を聞き、私の体に衝撃が走る。

 今日一日だけで、たくさん笑顔をみせてくれたロエル。


 あれは、ひさしぶりの笑顔だったの?

 おどろきを隠せない私に、ペピートはあたたかな笑顔で言った。


「なので、僕からもお礼を言わせてください。ラウレアーノ先生もよろこばれていましたよ。先生はロエル様が子どものころからの主治医ですからね」


 ラウレアーノ先生は、ロエルが子どものころからの主治医だったんだ。

 あらたな事実を知ったおどろきよりも、ペピートにお礼を言われたことに、テレくさくなってしまう。


「――というわけで、僕はあなたをお客様として丁重におもてなしいたしますよ。覚悟してくださいね」


 そう言うと、ペピートは退室していった。

 この部屋にいるのは私ひとりになる。

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