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第13話 モフモフうさぎの帰還後は、美青年と鳥が ご案内!

(……それにしても……)


 ゆっくりゆっくり中庭をすすんでいき、頭にかぶったフードごしでもわかるくらい、チラチラ、チラチラこちらをのぞく気配がした、黒装束の5人。

 どうして急にいなくなってくれたの?


 屋外で、人がいるのにもかかわらず、私とロエルが熱くキスしている姿をみて、『これは婚約中にちがいない』って納得した、とか?

 それって、急に、ものわかりがよくなってない?

 あの人たち、すごくしつこくて、頑固そうだったのに。


 だったら、別の理由?


 ……たとえば。彼らは聖兎と呼ばれる不思議なうさぎ、ティコティスを神聖視していた。

 だからあの5人には、

『聖兎さまとお会いできた日は、キスしているカップルをのぞき見しちゃいけない。のぞく気がなくて視界に入ってしまった場合は即、立ち去ること』

 とか……、そういう決まりごとがあるとか?


(うーん、自分で考えといてなんだけど、なんじゃ、そりゃ……。そんなピンポイントな戒律や規則って、ありえる? いくら異世界とはいえ、そんな決まり、ワケがわかんないよ)


 そのとき。

 私の疑問をよそに、一羽の鳥がこちらに向かって飛んできた。


 ロエルや私がいる中庭のすぐ目のまえ、高さ2メートルほどの位置までくると、その鳥は黒い色をした、カラス……のような鳥だということがわかった。


 この世界にもカラスがいるの?


 黒い鳥は、クチバシをあけ、ロエルに向かって言う。

 そう、「鳴く」ではなく、「言う」。この鳥さんは、人の言葉で言ったの!


「ロエル様、お客様5名は、たしかにお帰りになりました。もう館の敷地内にはいません」


 なんて、お利口さんなんだ! と思いながら、その鳥をよくながめてみる。

 羽毛は黒いけれど、細長いクチバシとぱっちりしたお目々のまわりは赤みをおびた黄色だ。

 カラスというよりも、この世界の九官鳥なのかもしれない。

 私がやってきた世界の、九官鳥や鸚鵡おうむやインコ、それにカラスだって、人の言葉をマネることならあるけど……。


 この鳥さんの話しかたは、すごくなめらか。

 人間が話しているのと変わらない言葉づかい。


 それは、もしかしたら、ティコティスが私にくれたチョーカーについてる翻訳機能のおかげかもしれないけど……。

 とにかく本当に人が話しているように聞こえる。


 しかも、内容からすると……あの、黒ずくめの5人が帰ってくれたことを報告しにやってきてくれたんだよね?

 ただ単に人間の言葉をおぼえてマネをしたんじゃなくて。


 有能すぎ!

 もしかすると……この子も、ティコティスのように、他の世界からやってきた、不思議な生物?


 私はこの世界にやってきたばかりなのだから、しかたないのかもしれないけれど、ここにやってきて、まだこの中庭から一歩も外にでていない。

 なのに、謎ばかりが増えていく。

 鳥さんは続けた。


「お客様、お茶の準備ができております。ささ、こちらへどうぞ」


 鳥さんは私が目で追っていけるくらいのスピードで正面の回廊へと続く方向へ、羽をはばたかせてスイスイすすんでいく。


 ……お客様って、私のこと?

 私は前方をすすむ鳥さんのうしろ姿とロエルを交互にみて、答えを探そうとする。

 きょろきょろする私に、ロエルはあたたかなほほえみを向ける。


「おいで、ユイカ。きみのような客ならもオレも、ペピートも歓迎する」


「……ペピート? ペピートって誰のことなの、ロエルさん」


 ペピートとは、いったい誰のことなのか、疑問がわいたと同時に、いままで『ロエル』と呼び捨てにしていたことに気づき、『ロエルさん』と呼んでみる。


「説明がたりなかったな。ペピートというのは、いま黒い翼をはためかせて、きみを案内している者のことだ」


「あの鳥さんは――ペピートという名前だったのね」


「ああ、あと、オレのことは呼び捨てで、かまわない。もう何度もロエルと呼んでくれただろう?」


「それは……婚約者のフリをしている最中のことだったし……」


 初めて会った人なのに、さんづけで呼ぶのも忘れるほど、抱きしめられることやキスに夢中だったなんて、恥ずかしくって言えない。

 ロエルはクスッとわらって、私に提案する。


「フリが終わっても、オレはきみをユイカと呼んでいるんだ。きみもロエルと呼んでくれ」


 ロエルの口調はつつみこむようなやさしさがあり、それでいて相手にノーと言わせない雰囲気があった。


「あなたが、それでいいなら……私もロエルと呼ぶことにするけど」


 たったこれだけ言うのに、なぜか、やたらもじもじしてしまった。

 もう婚約者のフリは終わったんだ。平常心、平常心。

 気分を切りかえていこう。


 前方にはペピート、横にはロエル。

 両名にいざなわれて、私は館内をめざし歩いていく。


 私のとなりで私の歩調にあわせてゆっくり歩いてくれるロエルは、ときおり私と目があうと、やさしくほほえむ。

 おだやかで真面目な好青年といった雰囲気。


――さっきまで私に甘いくちづけをしていた男性と同一人物とは思えないくらいだ。


(……もしかして、私は、黒ずくめの5人が帰ったことでロエルとのキスも終わってしまったことを――さみしいと思っているの?)


 そんな自分を認めるのは、二十数年間、周囲から「地味で真面目」と評価されていた私には、むずかしかった。


 いままでの私を知っている人が誰ひとりいない異世界にきたのだから、これをチャンスと思って、引っ込み思案な性格を封印して、積極的な性格になろう……! そんな高校デビューや大学デビューをめざすようなことは、私には無理みたい。


 しかも、志望する学校を受験し、はれて入学するのとちがって、私はこの世界をめざしてきたわけじゃない。

 心の準備もしてないうちに精霊さんによって、この館の中庭にある泉のそばに、とばされてしまった。


 館の中に入るために回廊をめざす私は、

(そっか、鳥さんの名前は、ペピートっていうのか……)

 などなど、極力、となりにいるロエル以外のことを考えようと意識した。


 ……だって、他のこと考えて気をまぎらわしていないと、さっきまでキスしていた人と、なんでもない顔していっしょに歩いたりなんて、恥ずかしくってできないよ。


 ついさっきの私は――。婚約者のフリは終わったんだから、気分を切りかえてよう。そう自分に言い聞かせていた。


 だけど、いくら婚約者のフリはしなくてよくなっても、いまもロエルといっしょに歩いている以上……気持ちを完全に切りかえ、平常心をとりもどすのは――私には難易度が高すぎた。


 初日からこんなんじゃ、私の異世界での生活は前途多難かも。

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