~異世界で いきなり婚約発表?~
(どうしよう……。異世界にきて早々、大変なことになっちゃったみたい……)
ここは、由緒ありげな館の広々とした中庭。
私の困惑をよそに、ひとりの青年の声が響く。
「こいつはオレの婚約者だ」
青年の名はロエル。
あろうことか、ロエルは異世界からやってきた私のことを、いまこの瞬間。
自分の『婚約者』だと宣言したのだ。
とたんに、周囲の者たちがざわめきだす。
私は自分の正面に立っているロエルに、そっと視線を送る。
(……私を助けるために、婚約者のフリなんて……いくらなんでも無謀すぎるよ)
ロエルの青い瞳が私をみつめかえす。
『大丈夫だ。オレにまかせてほしい』
そう告げているような、強い意志を持ったまなざしだ。
――本気、なの? 本当にロエルは、いまからこの私、睦月 唯花を婚約者として、あつかう『フリ』を始めるというの……?
そもそも。まさか仕事帰りに寄った公園の池から、異世界トリップするとは、思ってもみなかった。
だけど、そんな私に早くも決断がせまられていることは、ひしひしと感じる。
私も、覚悟を決めなきゃいけないのかもしれない。
自分を落ちつかせるため、私は大きく息を吸った。
(それにしても、あんなことがキッカケで、この世界にやってきてしまうなんて)
私は運が悪いのか。
それとも、運がいいんだろうか。