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レイドはゾイに再び会うその日まで出会った人間と手当たり次第戦いながら旅をしていた。
レイドが旅を続けていると、その途中レイドはある場所に辿り着いた。
その場所はレイドがかつて暮らしていた村だった。
「……ここは……。」
レイドがかつて暮らしていた村は変わり果てた様子になっていて、道は荒れ果て建物もボロボロになっていて人1人住んでいる気配が無かった。
「……そうか……時間と一緒にどんなものも無くなってしまうんだな……それは人も同じか……俺は何に怒りを覚えていたんだ?人か?自分自身か?……分からない……人がいなくなったら残るのは自身だけだ……ずっといなくなった奴等の事を考えていたのかもな……人生の本当の意味が分かってなかったのか?……。」
そしてレイドはその場所で黙って考え事をしているうちにある1つの答えに辿り着いていた。
「……俺は怒りにまみれて自分の事なんて何も見えちゃいなかったのか。……ゾイは自分自身とひたすら向き合い続けていたのかもな……道理で敵わない訳だ。……良し、じゃあこの1年間は俺も自分だけを見て生きてみるか。」
レイドは村に中に入ると休憩する為に座っていたが
その時ふと自分の持っていた剣を抜いて眺めていた。
「……長い間素振りなんてした事がなかったな……ちょっと素振りでもしてみるか。……俺は自分の剣の軌道なんて何も考えてなかったんだな……長くふってきた事で何も考えようとしなくなっていた……。もっと自分の剣の軌道を確認しないとな……。」
レイドは自分の剣の軌道を確かめながら素振りを続けた。
剣を振り続けていると、レイドはふとある事を閃いた。
「……剣術とは相手を知り己を知る事。……そうか!もしかして奴は俺の太刀筋を覚えていたのか⁉︎道理であそこまで上手くかわせる訳だ……あいつは俺と戦っていたが俺は本当の意味でそうじゃなかったのか……。」
その後もレイドはひたすら無心になって剣を振り続けた。
「怒りを捨てろ。落ち着いて集中するんだ。ゾイの太刀筋を思い出せ……。」
その日からレイドは相手を見つけて戦う事を止め、ゾイと再び会うその日までひたすら1人で剣を振り続けた。
そしてゾイと約束した1年後の日がやってきた。
レイドが1年前にゾイと戦った場所まで行くとゾイがその場所でレイドの事を待っていた。
「……来ましたね、レイドさん。私もこの1年間はあなたを倒す事だけを考えて生きてきました。準備はよろしいですか?良ければ早速始めたいのですが……。」
「……ああ、良いぜ。俺もこの日の為にやれる事はやってきたつもりだ。いつでも来い。相手になってやる。」
「……そうですか。……ではそれがどういったものなのか確かめさせてもらいますよ……では、いきますよ!」
「ああ、良いぜ。いつでも来な。」
ゾイは勢い良くレイドの懐に飛び込むと一気にレイドに斬りかかった。
しかしレイドはゾイの太刀筋を読み切るとゾイの太刀筋に合わせて剣を受け止めた。
「……!……まさか……?いや、そんなはずは……ではもう1度だ!」
ゾイはまた勢い良くレイドに斬りかかったが、ゾイの剣はまたしてもレイドに止められてしまった。
「……まさか……いや、この太刀筋は完全に私の剣を見切ったものだ……。……そうか……レイドさん、初めて本当の意味で私と戦ってくれる気になったんですね?」
「……ああ、認めるよ。お前は強い。俺も本当の意味でお前を理解しなきゃお前には勝てないみたいだ。だからお前の事を理解してきたつもりだ。……悪いな、ゾイ。今回は俺が勝たせてもらうぞ。」
「……そうですか……分かりました。ではもう1度いきますよ!」
「ああ、いつでも良いぜ。来いよ!」
ゾイはまたレイドを倒す為に思い切りレイドに斬りかかった。
レイドはゾイの剣を受け止めながらゾイに反撃する気を伺っていた。
(……剣術とは相手を知り己自身を知る事。自分自身の剣の軌道を知り相手の剣の軌道を知る。それを繰り返し剣を合わせ続ける事が出来ればどんな達人でも一瞬の隙は生まれる。)
そしてゾイの剣に合わせていくうちにレイドにはゾイに隙が出来た事が分かった。
(……ここだ!)
「……⁉︎ぐはっ!……。」
レイドが勢い良く剣を振り抜くと見事ゾイの体に命中し、ゾイはその場に倒れ込んでしまった。
「くっ……!何の、まだまだ……もう1度いかせてもらいますよ!レイドさん!」
「……ああ、良いぜ。来な。」
ゾイは再びレイドに思い切り斬りかかったがレイドにその剣を止められ、そして再び隙が生まれるとレイドはその隙を見逃さずゾイを思い切り斬った。
「ぐはぁ!……くっ……まだまだ……これからが本当の勝負ですよ、レイドさん!」
「……おい。もう良い、ゾイ。これ以上やっても無駄だ。この勝負はもう着いてる。」
「……ははっ……何を。レイドさんらしくない。相手が倒れるまでは勝負は着かないんじゃないんですか⁉︎ではいきますよ!」
「……ああ、そうだな……。」
ゾイはよろめきながらもレイドに思い切り斬りかかってきた。
しかしレイドは刀を鞘に収めた後ゾイの剣をかわすと、鞘に入った刀でゾイの頭を思い切り殴った。
「ぐぁっ!……くっ……!」
「……終わりだ、ゾイ。この勝負はこれ以上やってももう無駄だ。お前は十分良くやった。……だが今のお前じゃ俺には勝てないみたいだな……。」
「……くっ……ふふっ……見事!さすがレイドさんだ!やはり私ではあなたには敵わないか……さぁ早く止めを刺して下さい。あなたに殺されるなら私は本望です。」
「……いや、止めとくよ。……そんな事は俺は望んじゃいない……それに俺はお前のおかげでようやく大切な事が思い出せたよ。……怒りからは何も生まれない。俺が剣術を始めた時に大事にしていた事の1つだった……俺はもうずっと本当の自分を見失ってたんだな……。ありがとな、ゾイ。お前との戦いでそれを思い出す事が出来た。感謝してるよ。……俺はもう1度剣術を1から勉強し直すつもりだ。今度は何にもとらわれる事無く自分の剣にだけ集中してな……ゾイ、その時はもう1度戦おうな。お互いもっと強くなってだ。」
「……レイドさん……はい、分かりました。」
「……ああ。大丈夫かよ、ホントお前!大きな怪我してるんじゃないだろうな⁉︎」
レイドはゾイの身を案じて急いでゾイの下に駆け寄った。
その時のレイドの表情は久しぶりに会ったゾイの姿を見れて嬉しかったのか、長い間ずっと笑っていなかったレイドが本当の意味で笑顔になっていた。
そしてレイドが怒りから解放された瞬間、辺りから光が放たれレイドの試練は終わった。
レイドが光が消えた後目を開けてみると、火山の中に戻って来ていてレイドの目の前にサラマンダーの姿があった。
サラマンダーは心配そうにレイドの方を見つめながら、レイドに語りかけてきた。
「もう良いの、レイド?先へ進める?」
するとレイドは少し照れ臭そうにしながらサラマンダーに返事をした。
「……ああ、大丈夫だ。早く行って皆んなに謝らなきゃな。あいつ等は仲間なのに迷惑かけちまった……早く謝りに行こう。」
「……うん、そうだね。後一歩だよ、レイド。大丈夫だよ。もうすぐ君の願いは叶えられる。でもその願いを叶えられるのは他の誰でもない、君自身なんだ。」
「……ああ、そうだな。良し、じゃあとりあえず皆んなの所に行くか。さっさとあいつ等に謝ってノートを倒しに行こうぜ。」
「……うん、分かった。」
こうしてレイドは試練を無事乗り越え、サラマンダーと共に外で待つエイル達の下へ向かった。
全ての精霊を集める事に成功したレイド達。
これでレイド達はノートの所へとようやく辿り着く事は出来るのだろうか?




