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その日、ゾイは人身売買が行われる場所に行く為に汽車に乗せられていた。
汽車の中の部屋でゾイは見張りに見張られていたが、見張りの目を盗んで脱走しようと考えていた。
ゾイはまだ子供ではあったが、仮に人身売買で誰かに売られるような事があれば一生奴隷のような生活が待っている事を知っていた。
その為ゾイが脱走する意思は固く、ひたすら見張りの様子を伺いながら脱走するチャンスを狙っていた。
そしてゾイの事を見張っている見張りは2人いたが、そのうちの1人がレイドだった。
レイドはゾイが落ち着きが無い事に気付いていたが、自分には関係が無いと思ったのか特に気にする様子も無かった。
そして汽車に乗って数時間が経った頃、もう1人の見張りがレイドに休憩の為に他の人間を呼んでくると言い出した。
「おい、レイド。ちょっと休憩しよう。代わりの奴等を呼んでくるからこのガキ共を見ていてくれ。」
「ん……ああ、分かった。早く戻って来いよ。俺もさっさと休憩したいんだ。」
「ああ、分かってる。良いか?絶対にこのガキ共から目を離すんじゃないぞ。もしこのガキ共を逃がすような事があれば俺もお前もタダじゃすまない……お頭は決して許してはくれないだろうからな。いくらお前が強いといっても組織の人間全員を相手にするのは厳しいだろう。良いか?もし何かあったらお前だけじゃなくて俺まで責任を取らされるんだ。絶対にヘマはするなよ。良いな?」
「……ああ、分かってる。問題無いさ。こんなガキ共なら俺1人いれば十分だ。さっさと行って来いよ。俺も早く休憩したいんだ。」
「……ああ、分かった。じゃあ頼んだぞ、レイド。」
もう1人の見張りの男はレイドに子供達を任せると、代わりの見張りを呼んで来る為に部屋から出て行った。
見張りの男が部屋から出てしばらく経った後、レイドが窓から外を眺めていると突然ゾイが部屋のドアを開けて逃げ出そうとした。
「……やっぱりな……そんな気がしたんだ。……残念だったな。お前じゃ俺からは逃げ切れねーよ。」
「離せ!僕は奴隷になんかならない!早く離せ!」
「何だ、奴隷になるのがそんなに嫌か?残念だったな。お前じゃ俺から逃げ切る事は出来ないよ。いいからそこで大人しくしてな。」
そう言うとレイドは子供達が集まっている場所ゾイを投げ捨てると、自分は出入り口のドアの前に座った。
ゾイは倒れ込んた後、すぐに起き上がるとレイドの方目掛けて飛び込んで行った。
するとレイドは向かって来たゾイの首を掴むと宙に持ち上げた。
「はっ!ガキが!お前に何が出来る⁉︎何の覚悟も無いくせに必死な振りだけしやがって……お前まさかそうやってたら俺が逃がすとでも思ってるんじゃないだろうな⁉︎」
「……殺せ……さっさと殺せ……早く殺してくれ!」
「……はっ、何が殺せだ!……。」
するとレイドは掴んでいたゾイの首を離した。
「うわっ!……。」
ゾイはレイドの目の前に倒れ込んだ後、レイドの方を見上げた。
するとレイドが刀を抜いて刃をゾイの首に突きつけた。
「……良いよな、死にたい時に死ねるんだからよ……そんなに死にたいんだったら俺がお望み通り殺してやるよ!……何か言い残したい事はあるか?」
するとゾイは目に涙を浮かべながら必死に言葉を振り絞って言った。
「……別に無い……僕にはかえる場所なんて無いんだ……早く殺せ……早く……。」
「……そうか、じゃあお望み通り殺してやるよ。」
レイドは刀を振りかぶってゾイの首を切り落とそうとしたが、気が変わったのかゾイの首を掴んでいる手を離した。
「イテッ!……?」
するとレイドはドアの前まで移動するとゾイの方を見て言った。
「……そこで待ってろ。すぐに終わるからよ。」
「……待つ……?待つって何で……?」
「……良いからそこで大人しくしてな。すぐに終わらせる。」
「……。」
レイド達が待っていると、しばらくして先程の見張りの男が交代する男達を連れて戻って来た。
「よう。どうだ、レイド?ガキ共はちゃんと大人しくしてたか?……なっ⁉︎」
見張りの男が部屋の中に入ってきた瞬間、レイドは刀を鞘に入れたまま男の頭を殴った。
男が気絶すると交代の為にやって来た男達は動揺していたが、突然怒りを露わにした後声を荒げながら言った。
「……貴様……一体どういうつもりだ⁉︎こんな事してタダで済むと思っているのか⁉︎……なっ⁉︎」
レイドは他の男達にも襲いかかり全員気絶させると、子供達の方を見て言った。
「……次の駅で降りるぞ。汽車が止まったら俺に付いて来い。良いか?絶対に気付かれるんじゃないぞ。分かったな?」
子供達は汽車が駅に着くまで気付かれないように声を潜めていた。
そして汽車が駅に着いた瞬間、レイドがドアを開けた後子供達に言った。
「さぁ着いたぞ。黙って付いて来い。良いか?絶対に声をあげるなよ。分かったな?」
汽車が駅に止まっている時、レイドは子供達を先導して汽車から降りた。
そしてレイド達が駅から出て少し経った後、組織の者達が気付く事無く汽車は出発して行った。
レイドは子供達を連れて出来るだけ駅から離れた場所に向けて歩いていた。
組織の者達に見つからない場所に向けて歩いている途中、レイドがゾイに話しかけた。
「……お前行くとこが無いって言ってたよな?……じゃあ俺と一緒に来るか?」
「……え?……あの……良いの……?」
「……ああ、俺もお前と似たようなもんだ。仲良くしようぜ。じゃあよろしくな。」
「……うん……あの……よろしくお願いします。」
「良いよ、そんなのは……これからは俺達は……まぁ家族みたいなもんだ。お前が1人前になるまで俺が面倒見てやる。だから堅苦しい事は抜きで楽しくやっていこうぜ。」
「……うん、分かった……。」
レイドは他の子供達を警察の近くまで送り届けた後、ゾイと一緒に別の町を目指して歩いて行った。
「……なぁ、これから先俺の事は家族みたいだと思ってくれて構わない。だから遠慮せずに……まぁ何かあったら俺に言ってくれ。俺に出来る事だったらどうにかしてみるからさ。」
「……分かりました……あの……よろしくお願いします。」
「……だから良いんだって!そういう堅苦しいのは……まぁ慣れるまでに時間はかかるのかもな……とりあえずよろしくな。」
「……はい、よろしくお願いします。」
こうしてレイドとゾイ、2人の旅が始まった。
果たしてこの先この2人を一体どんな事が待ち受けているのだろうな?




