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ジェンドが少女の帰りを待ち続けて2カ月の時が過ぎようとしていた。
ジェンドは少女を待っている間も村の宿屋に泊まりながら暮らしていたので、袋の中身の金貨はあと少ししか残っていなかった。
ジェンドが自分で薬草を取りに行くとなると食料を買わなければならないので袋の中の金貨はほとんどが無くなってしまう事になる。
もしジェンドがまた誰かに薬草を取りに行くのを頼む事になるといよいよ自分で薬草を取りに行く事が出来無くなってしまう事態に陥っていた。
母の事を考えるとこれ以上少女の帰りを待つ訳にはいかず、ジェンドはついに自分で薬草を取りに行く決断を下した。
薬草がある森に向かうまでの食料を買った後、1枚の金貨だけを残してジェンドは森に向けてついに旅立った。
ジェンドが薬草を取りに行く為に村を出て5日の時が過ぎようとしていた。
ジェンドは来る日も来る日も歩き続けていたが薬草がある森には一向に着く気配が無かった。
「……くそっ!一体いつになったら着くんだ⁉︎……あいつがちゃんと薬草を取りに行ってればこんな事にはならなかったのに……ちゃんと取りに行かせる奴を選んでおくべきだった!……はぁ……このままずっと着かないんじゃないのか?一体僕はどうなるんだ……?」
ジェンドがどれだけ嘆いても辺りには何も無い道しかなく、引き返す事も出来ないのでただ歩き続けるしかなかった。
そして、その日ついにジェンドは薬草を取りに行くのを諦めてその場に倒れ込んでしまった。
「……ああ!もう止めた!……馬鹿馬鹿しい……本当にそんな森があるのか⁉︎実は本当は無いとかじゃないのか⁉︎……ああ、もう止めた、止めた。もうどうでも良いや……まぁこのままここで寝てたらあの精霊が何とかするだろ?」
ジェンドは薬草を取りに行くのを諦めてその場で眠りについてしまった。
ジェンドが立ち止まって1日、また1日と時間だけが過ぎていった。
しかしジェンドが考えたように精霊が助けに来るような事は無く、薬草を取りに行く為に買った食料だけが少しずつ減っていった。
「……何だよ、本当に助けに来ないのか……?ああもう!本当にどうなっても知らないからな!」
ジェンドはノームが助けてくれる事を期待してその日はそこから動かなかった。
しかしノームから助けが来るような事は無く、その日の1日が終わり次の日の朝を迎えた。
「……何やってたんだろうな……ここでじっとしていても何も始まらない。早く母上を助けてあげなきゃ……。」
ジェンドが森に向かってひたすら歩き続けて1週間近くの時間が過ぎようとしていた。
するとジェンドの目の前についに薬草がある森が姿を現した。
「……あそこだ……あの森の中に薬草があるはずだ……。早く薬草を手に入れて母上の下へ持って行ってあげなきゃ……!」
ジェンドは森の中に入るとひたすら森の奥を目指して歩き続けた。
すると森の奥の一面に薬草が生えている場所を見つけた。
「……あった……この薬草だ……。早くこの薬草を持って母上の下に持って行ってあげないと……急ごう……!」
ジェンドは薬草を出来るだけ多く手に取ると森から出てドグールの城に向かった。
ジェンドが薬草を取って森から出て1週間近い時間が過ぎた。
薬草を取りに行く為に買っていた食料は立ち止まってしまっていた事もありついに底をつきかけ、残っていたのは僅かな食料と金貨1枚だけだった。
ドグールの城まではまだ随分と長い距離を歩かなければならなかったので、ジェンドは食料を調達する必要があった。
ジェンドは食料が尽きる前に急いで村に戻ろうとスピードを速めて歩いていた。
すると小さな少年が向かいから籠を背負いながらジェンドの方に向かって来ていた。
ジェンドは少年が籠を背負っていたので食料を持っていると思い、少年が通り過ぎる瞬間急いで話しかけた。
「……ちょっと君!……あの……すまない……食料が無くなりかけているんだ……申し訳無いが食料を売ってくれないか?お金ならある。その籠の中にある物を売ってくれないか?」
「食料ですか?……分かりました、良いですよ。ちょっと待って下さい。今荷物を置きますから。」
すると少年は背負っていた籠を地面に置いて籠の中身をジェンドに見せた。
ジェンドが少年が置いた籠の中身を確認してみると籠の中には少しの野菜しか入っていなかった。
いくら何でもこれだけの野菜に金貨1枚は払えないと思ったのか、ジェンドは少年に野菜の値段を聞いてみる事にした。
「すまないがこの野菜がいくらするか教えてくれないか?」
「値段ですか?……そうですね……今あなたが持っている全部のお金を払ってくれるというのならこの野菜をお譲りします。そうじゃなければこの野菜をお譲りする事は出来ません。」
「何だって⁉︎全部の金だと⁉︎……。」
ジェンドは少年の言った事に思わず言葉を失った
(……これっぽっちの野菜に金貨1枚が払える訳ないだろ……それにこの野菜を買ってもドグールまでは到底持たない。……仕方ない、とりあえずこのガキにお釣りを持っているか聞いてみるか。)
ジェンドは気を取り直して少年の方を見ると、お釣りがないかを確認しようとした。
「……ねぇ君、この野菜を譲って欲しいんだがお釣りを持っていないかな?君がいくら持っているか教えてくれないか……?」
「……お釣りは持っていないです。もしこの野菜が欲しいならあなたが持っている金貨1枚でお譲りしますよ。どうですか?」
「……あっ!しまった!……このガキ!なめやがって……!」
ジェンドの態度が変わると少年は野菜が入った籠を背負って急いでその場から離れた。
「……あっ!待て!ちょっと待ってくれ!」
ジェンドは逃げた少年を急いで追いかけて少年を捕まえた。
「はぁっ!はぁっ!なぁちょっと待ってくれ!ちゃんとした金額だったらその野菜を買うから……だからちょっと待ってくれ!」
「……僕はお釣りは持っていません。だからあなたが持っている金貨1枚をくれないとこの野菜をお譲りする事は出来ないんです。」
「……くっ!このガキ!こっちが下手に出てたらいい気になりやがって!」
ジェンドは少年の態度が頭にきて思わず拳を振り上げたが、我に帰って拳を下ろした。
すると少年がジェンドの目を見て話しかけてきた。
「そなたがドグールの城まで辿り着くにはこの野菜だけでは足りないだろう。しかし村でその金貨1枚分の食料を買えばドグールの城に辿り着く事が出来る。その残った食料でも工夫すれば村まで辿り着く事が出来るだろう。良いか、ジェンド?そなたは行動に移す事が出来ないでいる。そなたがどれ程母を思っていても実際に助けようと行動する事がなければ何の解決にもならんのだ。あと少しの辛抱だ。耐えられよ。」
「……まさか……!お前は土の精霊⁉︎」
「そうだ……この食料をそなたに渡す事は出来ん。そなたに与えられた条件の中でやり遂げるのだ。私の力を借りる事無く自らの力でだ。そなたが今与えられているものを信じて村に辿り着く事だけに集中すれば道は開かれようぞ。良いか?感情に惑わされる事無く自分自身に集中するのだ。」
ジェンドは土の精霊の言葉を聞くと黙ってしまったが土の精霊は話を終えるとその場から立ち去ろうとした。
するとジェンドは土の精霊を呼び止める為に慌てて話しかけた。
「……待ってくれ!その……その食料は分けてくれないのか⁉︎もしかしたらこの食料じゃ村まで持たないかもしれない!」
「……そなたが本当に工夫してやっていけば村まで辿り着く事が出来るはずだ。次に会う時はそなたがこの試練を乗り越えた時だ。その時を楽しみにしているぞ。」
ノームは話を終えるとジェンドの下から姿を消してしまった。
「くそっ!本当にこの食料で村まで辿り着く事が出来るのか⁉︎工夫しろって言ったってそんなに簡単じゃないだろ⁉︎」
ジェンドはしばらくその場に立ち尽くしてしまったが、しばらくすると村に向かって歩き始めた。
「何が行動しろだ……くそっ!これで足りなかったら後でただじゃ済まさないからな!」
ジェンドはノームに言われた事を信じて村に向かって歩き始めた。
果たしてジェンドは無事に村まで辿り着く事が出来るのか?
そしてジェンドは母に薬草を持って行き自らの試練を無事乗り越える事が出来るのか?




