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ジェンドが薬草を探し出して数日が経ち、色々な場所を探し回ってはみたが未だに薬草を見つける事は出来ていなかった。
しかしある村に辿り着いたジェンドが村人に薬草の事を聞いてみると何と思ってもいなかった答えが返ってきた。
「ああ、病気が治る薬草の事かい?ここから随分離れた森の奥にあるよ。その森の中を探してみたら手に入れられるはずだよ。」
ジェンドは村人の言葉を聞いて思わず飛び上がりそうになったが、少し気になる事があったので聞いてみる事にした。
「本当か⁉︎……ちょっと聞きたいのだが、その随分離れた場所というのはここからどれ位歩けば良いんだ?」
「ああ、その森までかい?まぁそうだな、大体1000キロ位歩けば着くよ。ここから先は村も無いからこの村でしっかり準備していくと良い。じゃあ話が終わったんだったら私は失礼するよ。」
話を終えて村人は立ち去ろうとしたがジェンドは慌てて村人を呼び止めた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「何だよ?まだ何か用があるって言うのかい?私も忙しいんだ。話が終わったんだったらさっさとそこをどいてくれないか?」
「いや、その……その森に着くまでっていうのは……どれ位時間がかかるものなんだ?」
「ああ、森に着くまでの時間かい?そうだな……まぁ10日で着いたって奴もいれば1ヶ月かかっても着かなかったって奴もいるよ。まぁどれ位早く歩けるかにもよるだろ。もう良いかい?私も忙しいんだ。あんたに構ってばかりいられないんだ。失礼するよ。」
「ああ、すまない。……あの!教えてくれてありがとう!恩にきるよ!」
「ああ、構わないよ。まぁ大変だろうけど頑張りなよ。それじゃあ私は失礼するよ。」
村人は話を終えると足早にその場から立ち去ってしまった。
ジェンドは村人から薬草の在り方を聞けても素直に喜べないでいた。
というのもジェンドは1000キロなんて長い距離を歩いた事などこれまで1度も無かったからだ。
この村に来るまでも随分大変な思いをしたのに、ここから先1000キロの長い距離をひたすら歩く事になると考えるだけでジェンドは行動する気が起きなかった。
しかし母の事を考えるとこの場でじっとしている訳にもいかず、何か良い方法がないかその場で必死に考えていた。
しばらく考えていた頃、ジェンドはふと金貨が入っている袋に目がいった。
そしてジェンドは自分が森へ行かずに薬草を手に入れる方法を思いついた。
(そうか……この金貨をあげれば代わりに薬草を取って来てくれる奴がいるはずだ……何も僕がわざわざ取りに行く必要はないんだ。誰かに代わりに取って来てもらえば良い。そうとなれば誰か薬草を取って来そうな奴を探さなきゃな……出来るだけ金に困ってそうな奴が良いな……。良し、じゃあ村の中を歩いて金に困ってそうな奴を探そう。)
ジェンドは村の中を歩き回って出来るだけ金に困ってそうな人を探し歩いた。
そして通りかかる人々に花を売っている少女を見つけた。
その少女の目の前を通りかかると少女はジェンドに話しかけてきた。
「あの……お花はいかがでしょうか?すごくキレイなお花なんです。おひとついかがでしょうか?」
ジェンドは少女の身なりを確認すると早速薬草を取りに行かせる為に取引を持ちかけた。
「突然なんだけど君に頼みたい事があるんだ。この村から随分離れた森に病気が治ると言われている薬草があるのは知っているか?実はその薬草を君に取って来て欲しいんだ。どうだ?その薬草の話を聞いた事はあるかい?」
「……ええ、その話だったら聞いた事があります。何でもここから随分離れた場所にある森の中に病気を治す事が出来る薬草があるのだとか……でも何故自分で行かれないのですか?」
「……ああ、僕にはちょっと用があってね……そこでだ、君にその薬草を取って来て欲しい。もちろんお礼はするよ。……金貨1枚でどうかな?その花を全部売ったってこのお金は手に入らない。君にとっても悪い話じゃないと思うんだが?」
「……。」
すると少女は少し迷った後ジェンドの提案を快諾してきた。
「……分かりました、私がその薬草を取って来ます。……それでお金はすぐにもらえるのでしょうか?」
「すぐに……?いや、お金は薬草が手に入ったら渡すよ。すぐに渡したら君が本当に薬草を取りに行くかどうか分からないだろ?」
「……でも薬草がある森はここから1000キロも離れた場所にあると聞きます。その森に辿り着くまでに必要な食料を買う事になると金貨1枚位は必要かもしれません。……先程は金貨1枚と言いましたがやはり金貨2枚でお引き受けします。最初に金貨1枚を頂いて残りの1枚は薬草と交換という事でどうでしょうか?」
「金貨2枚⁉︎……くっ……。」
ジェンドは少し迷ったが他に頼める人もいないので仕方なくこの少女に薬草を取りに行ってもらう事にした。
(……仕方ない。他に頼める奴もいないんだ。まぁ金貨2枚なら良いか?まぁ薬草をこいつが持って来た時2枚目を渡すかどうか考えれば良いか?……おっと考えが読まれるんだったな……まぁとりあえずこいつに頼んでおこう、じゃあ。)
するとジェンドはすぐに少女の方を見て薬草を取りに行くようにお願いした。
「分かった、君に任せるよ。……じゃあこの金貨1枚を君に渡しておくよ。残りの1枚は薬草と交換という事にしよう。それで良いかな?」
「……分かりました。では私はこれから準備をして森まで薬草を取りに行って来ます。薬草を取って来たらこの村に戻って来れば良いのですか?」
「……ああ、じゃあ僕はこの村で待っておくよ。出来るだけ早く戻って来てくれよ。急いで薬草が必要なんだ。」
「分かりました。ではすぐに薬草を取りに行って来ます。準備をしたいのでもう行ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、分かった……じゃあ頼んだよ……。」
少女はジェンドに断りを入れるとその場から立ち去ろうとした。
「……では私はすぐにでも準備して森まで薬草を取りに行って来ます。入れ違いになってもいけないので私が薬草を取って来るまでこの村で待っていて下さい。」
「ああ、分かった。じゃあよろしく頼んだよ。僕はこの村で君の帰りを待っているから。」
「分かりました。では私はすぐに森に向かいます。また薬草を持ってこの村まで戻って来ますので……。」
「ああ、分かった。じゃあ頼んだよ。」
「はい、分かりました。」
少女はジェンドから金貨を受け取ると森に向かう準備をする為に足早にその場を去って行った。
(……さーてと、さっきの奴が言うには森に着くには早くても10日はかかるって言ってたな……まぁいいつなら真面目そうだしいくら子供でも20日位見ておけば良いだろ?往復で40日はかかるのか……それまでこれだけの金で大丈夫かな?まぁとりあえず宿に泊まってゆっくりしておこう。)
ジェンドは少女に代わりに薬草を取りに行かせている間、自分は村の宿屋に泊まりながらのんびり少女が戻って来るのを待っていた。
そしてジェンドが少女が薬草を取って戻って来ると思っていた40日の時間が経過した。
しかし、ジェンドが村で少女の帰りを待っていても少女は戻って来なかった。
(……おかしいな、まさか騙されたんじゃ……いや、まだ子供だったからな。思ったよりも時間がかかっているだけかもしれない……とりあえずもう少しこの村であの子の事を待ってみよう。まだ騙されたと決めるには早すぎる……。)
ジェンドはまだはっきりと答えが出ていないのでもうしばらく少女の帰りを村で待つ事にした。
しかし少女が再びジェンドの目の前に姿を現す事は無かった。
ジェンドはそれからさらに10日、20日と少女の帰りを待ち続けたがジェンドの願いも虚しく少女がジェンドの下に薬草を持って来る事は無かった。




