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レイラが水の洞窟から出るとレイド達が洞窟の前でレイラの事を待っていた。
「……あの娘だよ!ウンディーネが後ろにいる!良かった!ちゃんと試練を乗り越えたんだね!」
レイラがレイド達の前に現れるとシルフがウンディーネの下へ飛んで行った。
「やったね、ウンディーネ!その娘ちゃんと試練を乗り越えたんだね!」
「ええ……レイラは本当に良くやりました。これで私も皆さん達と一緒に行動する事が出来ます。でもシルフ、今はレイラと皆さんが挨拶をする事が先なんじゃないですか?私達が話すのはその後ですよ。」
「ああ、そうだね。じゃあ私はエイルの所に戻ろうかな。エイルー。」
そう言うとシルフはエイルの後ろに飛んで行ってエイルの後ろに隠れてしまった。
シルフが戻ったのを見てレイラがレイド達の方を見て話を始めた。
「……そなた達か?わらわ以外の精霊の使い手というのは?待たせたな……さぁ共にノートとやらを倒しに行こうではないか?」
するとレイドが散々待たされたからか明らかに不満そうな態度でレイラに食ってかかった。
「……随分とのんびりしたもんだな?お前のせいでどれだけ時間を無駄にしたと思っている?まず謝るのが先なんじゃないのか?」
「……何じゃと⁉︎随分と無礼な奴がおるな……そなた名を何と申す⁉︎名乗ってみよ!」
「何だと……⁉︎こっちが下手に出てりゃいい気になりやがって……おい!お前自分の立場が分かっているのか⁉︎お前のせいでどれだけの人間が犠牲になったと思ってるんだ⁉︎」
「……何じゃと⁉︎……こやつ好き放題言いよってからに……無礼じゃぞ!口を慎まんか!」
すると2人の言い争いを見ていたウンディーネが仲裁に入り諭すように言った。
「レイラ……ダメですよ。あなたは先程の試練を乗り越えたじゃありませんか?……ここから先どうするかはあなた自身が決める事です。でもあなたは先程の試練で学んだ事を生かす必要があるのです。私はここから先あなたの事を決める事は出来ません。ですからあなた自身でどうするかを決めて下さい。あなたならそれが出来ると私は信じていますよ。」
「……くっ……!」
レイラは怒りを抑える為に静かになると冷静であるよう努めて話し始めた。
「……すまなかった……わらわのせいで遅れたというなら認めよう。だがわらわに出来る事はここから先少しでも早く世界中の人々を救う事だけじゃ。もし急いでるというのならすぐにでも出発しよう。わらわはすぐにでも出発して良いぞ。」
するとその光景を見ていたゼックスがレイドに話しかけた。
「レイド、もう良い。その試練ってやつがどれだけ大変かは俺達には分からないんだ。今は口論なんかせずにさっさと出発した方が良いだろう?……それに今のはお前が悪いぞ。大変な目に遭ってそれを乗り越えた人間に言う事じゃない……。」
「……ああ、そうか。分かったよ……悪かったな、怒鳴っちまって。焦ってイライラしてたんだ。お前がどんな目に遭ったかも分からないってのに……これじゃあ俺の方が悪いな……すまなかった。」
「……うむ、気にせずとも良い。さぁでは大陸へ向けて出発しようではないか?」
レイラがそう言うとその場にいた全員が大陸に向かう準備の為にアコラの町へ向けて出発した。
(……こやつ名は何と申すのじゃ?無礼な奴め……!今に見ておれよ!)
するとレイラは何か気になったのか咄嗟に後ろを振り返った。
するとウンディーネが悲しそうな表情でレイラの事を見つめていた。
(……くっ……!いかん!こやつもしかして心の中まで読めるのか⁉︎……ハーッ……いかんな。平常心、平常心……。)
レイド達がアコラの町へと向かって歩いていると何か思い出したようにゼックスが話し始めた。
「ああ……そういえば自己紹介がまだだったな。俺はゼックスだ。あんたの名はレイラで良かったよな?」
「ああ、そうじゃ。よろしくな。……それで風の精霊の使い手というのはどなたかの?」
「……私です。エイルと言います。よろしくお願いします。……あの、こちらは私が勤めていた修道院で院長をしていたマリー様です。」
「初めまして、レイラさん。マリーと言います。お会い出来て光栄だわ。」
「おお……こちらこそ会えて嬉しいぞ。そういえばエポルタ修道院という場所にノートの事を見張っていると聞いていたな。そなた達はそのエポルタ修道院の人間という訳じゃな。大変だったであろう。そのような化物を見ておかねばならぬなど損な役割を押し付けられて。」
「ええ……私達は別に……大変なのはエイルだけよ。何せ彼女しかノートを封じ込める力を持っていない訳だから……だから私達は彼女の支えになれるよう努力しようとしていただけだわ。」
「そうか……そなたも大変だったであろうな。1人で化物を封じ込めていたとはな……心中察するぞ。」
「……いえ……私は別に。」
一通り全員との挨拶を終えるとレイラはレイドの方を見て言った。
「そういえばそなただけまだ名を聞いてなかったな……名を何と申す?……まぁ先程は色々と悪かったな。」
「ああ……俺はレイドだ。……俺もさっきは悪かった。焦り過ぎてイライラしてたんだ。謝るよ。」
「……いや、良い別に……。まぁわらわも時間をかけ過ぎたのかもしれんな……悪かった。そなた達の気持ちも分かる。わらわも謝まっておこう。」
レイドの態度があまりにも変わっていたのでレイラは拍子抜けしていた。
(……何じゃこやつ……さっきとは全然違うな?……食えぬ奴じゃな……おっと!平常心、平常心じゃったな。)
レイド達はアコラの町に着くと従者達に町の奥にある建物に案内された。
その建物の中に入ってみると、その中には一隻の大きな船が停まっていた。
船の前に着くと従者の1人がレイド達の方を見て言った。
「この船をお使い下さい。これに乗っていけば大陸まで辿り着く事が出来るでしょう。レイラ様、我々はお役に立てそうもないのでここで待っております。よろしいですか?」
「うむ……皆安心して待っておると良い。わらわはノートを倒して必ずまたここに戻って来るからな。」
「かしこまりました!どうかくれぐれもご無理はなさりませぬように。お気を付けて……。」
従者達が頭を下げていたのでレイラはレイド達にこれからどうするかを聞いた。
「どうじゃ?そなた達は出発の準備が出来ておるか?出来ておるなら早速出発したいんじゃが……。」
「ああ、俺達はいつでも良いぜ。なぁ?」
「ええ、そうね。じゃあ出発しましょうか?」
「そうだな、行くとするか。」
エイルはレイドの問いかけに黙って頷いていた。
レイド達から返事を聞くとレイラは勢い良く皆に言った。
「良し!では行くとするか⁉︎皆船に乗り越んでくれ!おい!船を出す準備をしてくれ!」
「ははっ!」
レイラに言われてレイド達は皆船へと乗り込み出した。
レイラも船に乗り込もうとしたが船を出発させようとしている従者達が目に入ると立ち止まり、従者達の下へと近付いて行って声をかけた。
「……その……すまなかったな、いつも……。何と申せば良いか分からんがそなた達にはいつも助けられてばかりじゃったな……感謝しておるぞ。」
普段レイラから聞けないような事を言われたので従者達は驚いてお互いの香りを見回したが、すぐに笑顔になってレイラに返事をした。
「何を言っておられるのですか?レイラ様らしくない……我々の事は良いですからノートを倒して早く帰って来て下さいよ。」
「そうですよ!我々の事を気にしている場合ですか⁉︎普段のように頼もしくしていて下さい!」
レイラは照れ臭かったのか頭を掻いて、何も言わずに船に向かって歩き出してしまった。
しかし少し歩いた後従者達の方を振り返って言った。
「……また会おうぞ!そなた達にまた会う為にわらわは必ずノートを倒して戻って来る。その時まで無事でおるのじゃぞ!」
従者達はレイラの言葉を聞くと笑顔になり、大きな声でレイラに向けて返事をした。
「はっ!レイラ様もどうかお気を付けて!必ず帰って来て下さい!お帰りになられるのをこの場所でお待ちしております!」
「レイラ様!どうかお気を付けて!」
レイラが船に乗り込むと先に船に乗っていたレイドが話しかけてきた。
「良いのか?もう出発しても?」
「……ああ、良い。待たせたな、出発しよう。」
レイラが船に乗り込んだ後間も無くして従者達が船を出発させる準備を整えた。
「錨を上げろー!出航だー!」
船が建物を出て海へ出て行く間も従者達は頭を下げながらレイラを見送った。
レイラはその光景をじっと見つめながら自分にとって彼等がどれ程大切かを胸に刻んでいるようだった。
船はゆっくりと建物の中から海に出ると大陸に向かって進んで行った。




