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湖から映像が消えるとクララが目を開けてレイド達の方を見た。
「ごめんなさい、ここから先は見せる事が出来ないんです……あなた達自身が直接自分の目で確かめるしかありません……そうじゃないと意味を持ちませんから……。」
その言葉にレイドは疑問を感じたのかクララに詰め寄った。
「何でだよ⁉︎教えられない理由ってのは何なんだ⁉︎やるのは俺達だろ⁉︎何があるか知りたいだろ普通⁉︎」
「……。」
クララは少し黙ってしまったがその後優しく諭すようにレイドに語りかけた。
「分かって下さい、レイド。ノートもまた神から作られたものなのです。だから人間であるあなた達自身の手で解決しなければなりません。私に出来るのはあなた達をそこまで導く事……後の結果はあなた達次第です。でも私はあなた達ならきっと出来ると信じていますよ。」
「……。」
レイド達は返事が出来ずに黙っていたがクララは話を続けた。
「これから先あなた達には他の精霊の使い手達の所に行ってもらう事になります。彼等と仲間になり、そして試練を受けて精霊を仲間にしなければなりません。でも大丈夫……あなた達ならきっとそれが出来ると私は信じています。」
レイドは疑問に思った事があったのかクララの方を見て言った。
「おい!ちょっと待て!もし他の精霊の使い手がやらないと言ったらどうするんだ⁉︎大体他の精霊の使い手達の所へ行けって言ってるが場所はどこなんだ⁉︎俺達はそんな場所知らないぞ⁉︎お前が案内してくれるのか⁉︎」
するとクララは1度エイルの方を見た後、優しく諭すようにレイドに言った。
「ごめんなさい、私はこの場所から離れる事が出来ません……でも大丈夫、あなた達の中にはその場所を見つける事が出来る人がいますから。エイル、風の精霊を呼んでくれませんか?」
「……風の精霊ですか……?……ええ、良いですけど……。」
エイルが目を瞑って祈りを捧げると突然上空から精霊がエイルの下へと飛んで来た。
するとエイルの下へと飛んで来た精霊はクララの事を見つけると、とても驚いた様子で言った。
「……え⁉︎クララ⁉︎クララなの⁉︎どうしたの?君が光の国から降りて来るなんて……大丈夫なの?」
「ええ、お久しぶりね。ここで説明する事は出来ないのだけれど私はこの場所から離れる事が出来ないの。だからエイルにお願いしてあなたを呼んでもらったの。私からの頼みを聞いてもらえないかしら?」
「……ああ、頼みって言ったらもしかしてあれでしょ?他の精霊の使い手の所まで案内しろとかそういう事でしょ?どうせ。」
「ええ、あなたなら他の精霊の居場所が分かるから見つける事が出来るでしょ。彼等の事を案内してあげて欲しいの。」
「……ええー、どうしようかなー。またあんな面倒な事やらなくちゃいけないの?」
すると風の精霊は気ままに上空を飛び回り出し、その後疲れたのかエイルの肩へと降りて行った。
「……はー、ていうか何で私なの?他の奴等に頼めば良いじゃない?それじゃダメなの?」
「……ええ、ごめんなさいね。ここにはあなた以外の精霊はいないの。だからあなたにお願いするしかないわ。引き受けてもらえないかしら?」
「ええ……私が⁉︎やだなぁ……何で私がしなくちゃいけないの……。ただでさえ私はノートの見張りをずっとさせられてたんだよ?それなのに何で……いっつも損な役回りばっかり回ってくるんだよなぁ……。はぁ……どうしても私が行かなきゃダメ?」
するとクララは困った顔をしながらも優しく諭すように言った。
「ええ……ごめんなさい、あなたしかいないの。大変なのは分かっているけど私はあなたにお願いするしかないわ。」
「……。」
クララにじっと見られていた風の精霊は観念したのか開き直った様子で言った。
「……はぁぁ、分かった。行くよ。行けば良いんでしょ?どうせ私以外いないんだし……分かったよ。それで?今すぐ出発するの?」
するとクララは苦笑いを浮かべながら風の精霊に言った。
「ええ、皆さんの準備が出来たのが確認出来たら出発して下さい。皆さん、私はこの場所に残らなければなりません。後の事は風の精霊に聞いて下さい。彼女ならきっと皆さんを他の精霊の使い手達の所に導いてくれるはずです。風の精霊、後の事は頼みますね。」
「うん、分かった……クララはここで待ってなよ。他の精霊達も集めて光の国へ行くからさ。」
するとクララはニッコリ微笑んで風の精霊にお礼を言った。
「ありがとう、風の精霊。あなたの行動に感謝します。これで私は光の国へ戻れそうですね。」
「ああ……そういえば何で今回は光の国で待っていなかったの?昔ノートを倒した時は光の国に行かないと会えなかったのに。」
するとクララは困った顔をしながら言った。
「ええ……あの時とは状況が違うんです……。あの時は精霊の使い手達が皆精霊の近くに住んでいました。しかし今はかつて精霊の近くに住んでいた人々が滅ぼされてしまった場所があるのです。精霊達はかつてと同じ場所で精霊の使い手達の事を待っています。それに精霊なら自分の精霊の使い手の場所が分かりますしね。その力を使って精霊と精霊の使い手達の事を引き合わせてあげて下さいね。」
「……分かった。じゃあクララはもう戻って良いよ。後は私が案内するから。どうせ何かあったら私を通して上からこの人達に知らせるんでしょ?じゃあクララは早く戻りなよ。」
「ええ、そうね……でもその前に皆さんにその事を確認してからじゃないとね」
「そっか、分かったよ。じゃあ私はここで大人しく聞いてるから早く話しなよ。」
「ええ、分かったわ。じゃあ少しの間待っていてね。」
風の精霊との話を終えるとクララはレイド達に今後の事について説明し出した。
「皆さん先程の話を聞いていたから分かるかもしれませんが精霊達は互いの居場所を見つける事が出来るんです。ですから風の精霊と一緒に他の精霊を探して下さい。精霊を見つける事が出来ればその精霊は自分の主の居場所を見つける事が出来ます。申し訳ありませんが私はもうここから先は皆さんのお手伝いをする
事は出来ません。皆さんが精霊の使い手達と精霊を見つけたときマナサ高原の山頂に来て下さい。私を光の国であなた達の事を待っていますから。」
するとレイドが1つ深いため息を吐いた後クララに言った。
「はー……分かったよ。あんたはもう行けよ。何かあったらその精霊を通してあんたに聞けば良いんだろ?だったら俺達はさっさとそいつ等を見つけ出してあんたの所まで行くだけだ。早く出発したい。お前等はまだこいつに聞きたい事はあるか?」
レイドの問いかけにエイル達は首を横に振って答えた。
「……いいえ、私は何も……何か分からない事があったら精霊さんに聞けば良いですし……。」
「私も大丈夫よ。他の事は良く分からないからあなた達に任せるわ。私はエイルに付いて行って彼女を守る事が目的だから。」
「俺も問題無いぞ。出発するんだったら早い方が良い。俺も一刻も早くロートを元に戻してやりたいからな。」
「そっか、分かった。そう言う事だ。あんたは早くその光の国とやらへ戻りな。後の事は俺達でやるからよ。さっさとそいつはを見つけてあんたの所まで戻って来るだけだ。あんたはその光の国とやらでゆっくり待ってな。」
レイドのその言葉にクララは少し困った表情を浮かべながらも優しい顔をして言った。
「……分かりました。では私は戻る事にします。何かあったら遠慮なく風の精霊を通して聞いて下さい。風の精霊。」
「うん、分かった。クララは早く戻りなよ。後は私に任せて良いよ。」
「分かりました。では私はもう行きますね。皆さん、後の事をよろしくお願いします。大変な事に巻き込まれてしまわれたと思いますが皆さんにしか出来ないのです。私は皆さんから見えなくてもずっと皆さんの事を見守っていますから。」
そう言うとクララは目を閉じて祈り始めた。
するとクララの体が浮かんで空に向かってゆっくりと登っていった。
(さようなら、勇敢な人々よ。またすぐにでも会える事を願っています。……そして火の精霊の使い手レイド……あなたの事をずっと火の精霊が待っていますよ。彼はあなたの願いを叶えてあげたいと心の底から望んでいるのですから今後こそちゃんと迎えに行ってあげて下さいね。きっとあなたの力になってくれますから……ここから先はあなた自身で確かめなければなりません。今のあなたならそれが出来るはずです。願わくば皆さんに神からのご加護がありますように……。)
クララの姿が見えなくなるとレイドが背伸びをしながら皆に言った。
「さぁ、どうするんだ?早く行く場所を決めようぜ。風の精霊、どうするんだ?」
「それなんだけどまずは水の精霊がいる場所へ向かった方が良いと思う。私達精霊は離れていてもお互いに話す事が出きるんだけど水の精霊の使い手が今試練を受けているみたいなんだ。とりあえずそこから行った方が良いんじゃないかな?」
「……そっか、分かった。俺はそれで良いけどお前達はどうだ?風の精霊もこう言ってるし俺も最初はその場所で良いと思うんだけど……?」
「ええ、私はそれで構わないわ。あなた達にお任せするわ。」
「……私もそれで大丈夫です。皆さんにお任せします。」
「ああ、俺もそれで構わない。レイド、早く出発しよう。のんびりしていたら他の奴等もどんどんノートの餌食になっていく。一刻も早く助けてやった方が良い。時間はないぞ。」
「ああ、そうだな……じゃあ決まりだな。良し、じゃあ出発するか?風の精霊、水の精霊の所まで案内してくれ。出発しよう。」
「分かった。じゃあ私の後に付いて来て。」
レイド達は風の精霊の後を追って水の精霊の所へと向かった。
果たしてレイド達は他の精霊の使い手達と無事に出会う事が出来るのだろうか?
そしてレイドは何故自分が火の精霊の使い手だとエイル達に打ち明けなかったのか?
レイドがエイル達に本当の事を告げなかった理由とは一体何なのだろうか?




