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「……とまぁ、これが俺が昔見た事なんだ……。」
レイドの話があまりにも衝撃的過ぎだったのかエイルとマリーはすぐに返事が出来ずしばらく黙ってしまっていた。
レイドはその状況を察したのか話の続きをしようとした。
「……まぁ、だから俺にとっちゃその娘はそれだけ重要な存在なんだ。そのビブレストをみた後精霊の使い手って奴を探す為に色んな所を探し回ったがそんな奴はどこにもいやしなかった。それに俺1人じゃノートに近付く事は出来ないらしいからな……お前達に協力してもらうしかない……。」
「……⁉︎あなたがノートに近付けない⁉︎一体どういう事なの⁉︎」
レイドの言った事にあまりにも驚いたマリーが咄嗟に質問した。
「ああ……さっき言っただろ?俺はノートを奪おうとした時気絶したって……あの時は確かノートとの距離がどんどん近付いて行くにつれて頭が重くなっていってノートを手にした瞬間俺は気絶したんだ。俺はおそらくノートには近付けない。だから俺以外の誰かがノートを破壊しなくちゃいけないんだ。」
「……そうなの……じゃあ誰がノートを破壊するかが問題ね……。」
「ああ……その為にその娘の力が必要なんだ。まぁ後他に何人かいるみたいだけどな……とりあえず今はビブレストに行こう。あそこに行けば詳しい事が分かるはずだ。俺に出来る事だったら何でも協力するよ。お前達の目的も俺と同じみたいで良かったぜ。一緒にノートを破壊してこんな事はさっさと終わらせてやろうぜ。」
「……そうね……私もノートをこの世から無くせる事が出来るんだったら何だって協力するわ。でも問題はエイルがどう思うかね……。私達だけではどうする事も出来ないわ。あなたにこんな重荷を背負わせる事は心苦しいんだけど……あなたにしか出来ない事みたいなの……。お願い……私達に力を貸してもらえないかしら?」
マリーがエイルの方を見て頼むとエイルは間髪入れずにマリーの方を見て返事をした。
「何を言ってるんですか院長様!私なら大丈夫です!私で役に立つんだったらどんな事でもします!それに……院長様のお役に立てるみたいで私本当に嬉しいんです……。」
「エイル……。」
エイルは自分の言った言葉が恥ずかしかったのか話を終えるとマリーと目を合わせる事が出来ず、照れ臭そうに下を向いてしまった。
そんなエイルの姿を見てマリーはエイルの体を優しく抱き寄せながら言った。
「ありがとう、エイル……私はあなたのような人と一緒にいる事が本当に誇らしいわ。さぁ、あともう少しよ。これから頑張りましょうね。」
「はい、院長様……。」
レイドはエイルとマリーの姿を見ていられなかったのか頭を掻きながらそこから目を逸らした。
そしてゼックスの方を見るとレイドは気持ちを切り替えるように話しかけた。
「さぁ、行こうかゼックス。俺達に付いて来ればお前の目的もきっと果たせるはずだ。それまでよろしく頼むぞ。」
「ああ、分かってる。俺の方こそよろしく頼む。俺はいつでも出発する事が出来るぞ。いつ出発するかはお前達が決めてくれ。」
「ああ、そうだな……なぁ、マリー?俺達はいつでも出発出来るぞ。お前達はどうだ?何かミッドガルドでやり残した事はあるか?」
するとマリーは抱き寄せていたエイルから離れて言った。
「いいえ、私は大丈夫よ。エイル、あなたは?何かここでやり残した事はない?あれば今のうちに言っておくのよ。ここにはもう戻って来る事はないかもしれないから。」
するとエイルは首を横に振った後マリーに言った。
「いいえ、私は大丈夫です。今すぐにでも出発出来ます。行きましょう院長様、ビブレストへ。」
「そうね……分かったわ。私達は大丈夫よ。いつでも出発出来るわ。」
「そうか……じゃあ全員準備は出来てるみたいだな……良し!」
レイドがその場から一歩二歩と前に進んで行くと全員がレイドの後に続いて行こうとした。
レイドは何歩が歩くと立ち止まった後、後ろを振り返って言った。
「さぁ、じゃあビブレストに向かおう。ビブレストの場所は俺が分かってる。そこまで案内するから俺に付いて来てくれ。随分長い旅になるから覚悟だけはしておいてくれよ。」
レイドがそう言うと皆が軽く頷きながら返事をした。
「ええ、私は大丈夫よ。早く行きましょう。一刻も早くノートの手からこの世界を救わないと。」
「私も大丈夫です。行きましょう。」
「俺もいつでも大丈夫だ。早く行こう。」
レイドは皆の返事を聞くと無言で頷いた後酒場の入口に向けて歩き出した。
入口の扉を開けて外に出るとレイドが前を見ながら皆に言った。
「さぁ、行くか!ビブレストへ!」
レイド達はビブレストへと向けて出発した。
果たしてビブレストに辿り着いてレイド達の願いは叶うのだろうか?
それは想像していたよりも長い旅の始まりに過ぎなかった。




