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ここはエポルタ修道院。人里離れた高い崖の上に位置し世界を恐怖に落とし入れると言われるノートという物質を抑え込む為に作られた場所だった。
ノートはひし形の形をした緑色の核のような物質でその力を手に入れた者は普通の人間では手に入れる事が出来ない大きな力を手に入れる事が出来ると言われていた。
その為人々はノートの力が誰かの手に渡る事を恐れていたのでエポルタ修道院は表向きには多くの人々から尊敬の念を集める存在という事になっていた。
エポルタ修道院にはノートの力を抑え込む目的の為に多くの人々が連れて来られていた。
その者達は修道院に連れて来られると本人の意思とは関係無く修道院に仕えなければならないという決まりになっていた。
これはノートが奪われた時の話。
修道院ではいつも決まった時間にノートの点検を行うというのが日課になっていた。
この日もいつものようにある1人の少女がノートが点検に向かっていた。
その少女の名前はエイル。歳は15になり、エイルはエポルタ修道院に修道女として働いていて、不思議な力でノートを抑え込む事が出来るという唯一の人物だった。
その日エイルがいつものように修道院の地下へ降りてノートの点検に行くと、いつもノートを保管してある部屋を見張っている男が血塗れになって倒れていた。
「……‼︎」
エイルはその異常な光景に驚いて一瞬立ち尽くしてしまったが、我に返って急いでその男の下へ駆け寄った。
「……大丈夫ですか⁉︎何があったんですか⁉︎ねぇ!しっかりして!」
エイルはその男の体を揺すった後脈を測って生死を確認したが、その男にすでに息は無く返事をする事は無かった。
「……そんな……。」
エイルはあまりにもショックで呆然としてしまっていたが、しばらくすると突然我に返って急いでノートが保管してある部屋の方向を見た。
そしてエイルは急いでその部屋の前まで駆け寄ると恐る恐るドアを開けてノートの様子を確認した。
すると何とノートが保管してあった容器が壊されていてノートがいなくなってしまっていた。
「⁉︎……。」
全く予期せぬ出来事が起こってしまったのでエイルは驚きのあまりその場に固まってしまった。
しかし気をしっかり持たないといけないと思ったのか少し息を吐いた後、エイルはノートを探し始めた。
しかし部屋の中をどれだけ探してもノートの姿はどこにも見当たらなかった。
ノートがいない事が分かったエイルは急いでこの事を修道院長に知らせに行こうとした。
「……何て事……ノートがいなくなってるなんて……。急いで院長様にこの事を知らせなきゃ……!」
部屋を出たエイルは倒れている見張りの男の前で立ち止まったが、その男に言葉をかけた後その場を立ち去ろうとした。
「……ごめんなさい……後で必ず助けを呼んで来るから……。それまで待ってて下さい……。」
エイルは地下から地上へと繋がる階段を急いで駆け上がると、この非常事態を急いで修道院長に知らせに行った。
階段を登りきると急いで修道院長の部屋に向かい、修道院長の部屋に着くと息を切らしながらエイルは部屋のドアをノックした。
「……院長様‼︎大変です!ノートが……ノートがいなくなっています‼︎」
部屋の中でエイルの言葉が聞こえた修道院長は慌てた様子で椅子から立ち上がると、急いで部屋の前に行ってドアを開けた。
ドアを開けた修道院長は血の気が引いた様子で部屋の前にいたエイルに恐る恐る先程聞こえた内容を聞き直した。
「……何と言ったの今……?……まさか……ノートがいなくなったと言ったの……?」
するとエイルは1度頷くと、慌てた様子で地下で見た出来事を説明し出した。
「……はい!……あの……私が先程いつものようにノートの点検に行ったのですが……そうしたら見張りの人が倒れていたんです!……見張りの人の生死を確認しましたがもう手遅れで……それで部屋の中に入ったらノートが入っていた容器が壊されていて……。部屋の中を隅から隅まで確認しましたがノートの姿はもうどこにも……院長様‼︎もしかしたら誰かにノートを奪われたのではないでしょうか⁉︎ノートが奪われたのだとしたら……一体どうすれば良いのでしょうか⁉︎院長様!」
すると修道院長はすぐに返事が出来ず考えていたが、しばらくすると考えがまとまったのか平静になるよう努めて話を始めた。
「……早く皆に伝えましょう……まだ犯人はこの近くにいるかもしれない……。皆で探せば見つかるかもしれない……急いで皆に知らせに行きますよ!早く‼︎」
「はい!分かりました!」
修道院長とエイルはノートがいなくなった事を修道院にいる仲間に知らせる為に皆の下へ慌てて走って行った。
2人が手分けしてノートがいなくなった事を修道院にいる仲間に知らせると、その話を聞いた修道院の者達は皆慌てた様子でノートがいないか修道院の周りを探し始めた。
「ハァッ!ハァッ!ねぇエイル!ちゃんと確かめたの⁉︎ノートがいなくなるなんてまだ信じられないわ!そんな事!」
「本当よ!ちゃんと確かめたわ!それに……見張りの人だって殺されてたんだから……。……私だってこんな事初めてだからどうして良いかわからないわ……それなのに……。」
「……分かったわ……とにかく今は早くノートを探しましょう。もしかしたらまだこの近くにいるかもしれないじゃない。ね?」
「……ええ、そうね……。」
エイルや修道院の人々は修道院の周りを隅々まで探し回ったが結局ノートが見つかる事は無かった。
エポルタ修道院にとっては1番恐れていた事が起きてしまい、この事を外部に知らせるかどうか皆で話し合ったが結局答えは出なかった。
そしてノートが見つからないままただ時だけが流れていった。