おやすみなさい
「俺等が死んでも誰も気づかねぇよな。」
突拍子もなく、彼はそう言った。
確かに俺達は誰からも支持されないような仕事をしている。
ようは嫌われ役だ。誰も、俺達の仕事の意味になど目を向けない。
「そうですね。」
小さく笑って返した。彼は少し目を開けて、それから閉じて笑った。
少し、淋しげだったのを覚えている。
というか、彼はいつも何処か淋しげだった。
だけど、彼自身はそれにあまり気づいていない様子で。
彼はそれで構わないと思っているのだろう。
だから俺は肯定するだけ。深くは突っ込まない。
「人はいつか死ぬ。殉職が約束された未来も、何処か安心感がある。」
雨音が寂しげに耳を突く。こちらの気を逸らすようにすら思えた。
それでも俺は下を見たまま暫く動かなかった。
肌に張り付く髪も、今は気にならなかった。
「……火葬がいいか、土葬がいいか、聞きそびれました。」
顔を失くした彼の体は、濡れた地面に力無く横たわっている。
いつまで寝ているのかと冗談を吐いても、彼が笑うことはなかった。
この大雨ですら流しきれないほどの血の痕が、
顔の代わりに彼の最後を物語っている。
ただ、それを眺めていた。
ピチャン
背後から聞こえた音に振り返ると、赤毛の少年?が俯いたままこちらを見ていた。長い前髪に隠れて視線は見えなかったが、なんとなく彼を睨んでいる気がした。
ピチャ
ピチャ
ピチャ…………
ドサ。
肌足の彼は、俺の隣、彼の横に胡座をかいて座る。
暫く黙って座り込んでおり、漸く顔を上げた。
──その表情を見て、驚いた。
「ナんだァ、友達ィんじゃァン……!」
清々しいほどの笑みだった。
相変わらず雨は煩く降り注いでいたが、不思議とそこだけ晴れていた。
空は変わらず曇っていたが、不思議とそこだけ晴れていた。
横たわる彼の失い顔を見て、俺はまた驚いた。
そこには何もない。彼の流した血が染み込んだ、黒い土しかない。
けれど、
彼が笑っている気がした。清々しいほどの笑みで。
だから、俺も笑ったのだ。
もう、雨の音は気にならなくなった。
「火葬しましょうか。」
「オゥ!いィぜ!」
後ろで結われた長い髪を揺らして笑う。
懐かしく思うほど、無邪気な笑みで。
「アンタも散骨するダロ?」
「はい。」
俺は思う。
貴方の友達でいられて、よかったと。
「いいお友達をお持ちですね。」
彼に聞こえるかはわからないけど。
なんとなく、この4人で酒を飲む絵を想像した。
そこに俺がいてもいいのかわからないけど、彼は快諾してくれるような、そんな気がした。
安らかに。
「おやすみなさい。」