スティーヴン・W.ホーキング『ホーキング、宇宙を語る』
本とは縁がある。この本、面白いかな〜?と思って手に取ると、大抵裏切るなにかがある。本は裏切るからたまらない。そういう異性みたいなところが、心の弱さと結びついて、自宅の書棚の本が10冊になり、30冊になり、100冊になり、ブックオフで130冊ぐらい売ってもまだ増えつづける、という仕儀になってしまうのでした。てへ☆(^^;;
んで、その本のなかから、毎週末一冊紹介していく、ということをやりたいのであって、これはまあボランティアみたいな、菩薩が掲示板に降臨して嫌がられるみたいなもんなのだが、まあ春日版という例もあるし、本にかかわる商売って「虚業」だということをわかってもらえればそれでよい、ということでもあるのである。
第一回で『雪』を取り揚げた書評サイトもあるが、ぼくはそんなもの読んだこともない。雪とは身体で闘うもの、そうして遙かに想うものだ。だいたい天から手紙をもらったって、解読できるとはかぎらない。そこは、署名を重視して押し頂いておくか、それでもだめなら自分で書き込みをして、読むときは自分の書き込みだけ読む。暖炉で焼いてしまう、という解決策もあるが、いや雪を暖炉で焼いても冬寒いだけ、という話なのである。
さて、ホーキングが何をした人か、それはいろいろな考え方があると思うけど、とりあえず、ホーキングを嫌味なくらい有名にした「ホーキング放射」は、この『ホーキング、宇宙を語る』でだいたい説明されている。ゼリドヴィチとスタロヴィンスキーが回転する金属球が数学的に回転するブラックホールと等価である、ということを直観的に発見し、ホーキングが厳密に定式化した、というのも科学ドラマを見ているみたいで来週が楽しみだ。みんな気になってるわりには良書がない重力波への言及もある(重力波がわかりにくいのは、リッチ曲率テンソルではなく構造定数テンソルにかかわるからだ。啓蒙書を書いてもうけるクラスタの人は、わかりやすいリッチ曲率テンソルに流れてクリストッフェルの記号、レヴィ=チヴィタ記号、構造定数テンソルについて一行でも触れるのを避けてきた。それなら、「物質か、時空か。じつは時空イコール物質だったのです」という概念の話になって、本を買ってくれる物理少年世代にも受けがいい。でも、化学的性質も、物質の角運動量も捨象した世界で、物質も、時空もクリストッフェルの記号という機械的実体のユーザインタフェースだった、という啓蒙書も、ちょっと読んでみたかったのです)。
ただ、ブラックホール熱力学というのは「統計力学にはなってません」ということだし、そこを突っこむと、芋づる式にホーキングの当時のイデオロギーである「あなたが信じようが信じまいが、物理現象の根底に不可逆過程はある。これを読んだ貴方は、もう元には戻れないのです」という教派的確信に付き合わされて、けっきょく物理少年は結婚できなかった物理中年になりかけ、ということになってしまうかもしれないのである。それは、ホーキングは、社会には恨みがなくて、神には恨みがあるのかもしれないけれど、とばっちりを喰うのは、日曜日蝶ネクタイでいそいそと出掛けていく物理少年くんかもしれないよん、ということなのでした。
今晩は、月がきれいですね。