ゆーくん、ユーヤとはじめまして
「ユークン、あっち、だよ?」
俺はアリスに手を引っ張られて館まで案内される。
数歩後ろではアリシアが微笑ましそうにこっちを見ている。
正直恥ずい。
「はいはい。分かったから、ちょっ、引っ張んないで、って力強いな、おい!」
これがステータスの差だというのか!
戦闘以外の日常でもステータスは使えるんだな。
当たり前か。でないと、あそこでメチャクチャでかい丸太を担いでるおっちゃんは潰れちゃうよね。
とか、俺は脱線したことを考え始める。悪い癖だ。
「そんなに急ぐと転びますよアリス」
「ふみゃ!」
アリシアの注意が間に合わなかったのか、アリスが石に躓いて転んでしまう。アリスは転ぶ瞬間に俺の手を反射的に離していたから俺は巻き添えはくらわなかったが。
にしても、顔面からいったぞ!? 大丈夫か!?
「…………いたく、ないもんっ」
アリスが体や顔に土をつけたまま起き上がる。しかし、心なしか涙目をしている。
ステータス的には痛くはないだろうが、何かしらくるものがあったのだろう。
「ほら、言わんこっちゃない。後を向いて歩くからですよ」
「むぐぅ……」
アリシアがアリスの土を払い落としていく。
「ははっ、普通にお姉ちゃんじゃん」
俺は思わず口からこぼす。アリシアとアリスは仲のよい姉妹に見えた。
「ほら、私の手を」
「ん」
アリシアが手を差し出し、アリスがそれを握る。
俺はその様子を微笑ましく見守る。
構図的にはさっきと逆だね。
「何を生暖かい目をしてるのよ。ほら、アリスの手を握りなさい」
「姉さんの仰せのままに」
俺は言われるままに、ジーッと見つめてくるアリスの手を握る。
吸血鬼王と勇者と一般人 (日本人)、そんな風に歪だが、それでも兄弟だ。
出会って数時間だけど、俺は完全に気を許してしまっている。
やはり自分が書き出した人格だからかな?
だけど、俺はこの人達を作られた人物としてではなく、普通の人間と同じように思っている。実際に会ってみたら全く関係ない。
「つきましたよ」
「ほわぁ~、ここがユーヤの家か……」
目の前の大きな建物に俺は開いた口が塞がらない。
「安心しなさい。私からも主殿には言いますし、優しい方だから悪いようにはしないわよ」
「ん。私もお姉ちゃんとして、ユークンのこと、説得する」
二人が励ましてくれる。怖じ気づいたと思われちゃったかな。まぁ、確かに圧倒されたけど、ユーヤに関してはそんなに心配していない。
「ありがとう、二人とも」
俺は苦手だけど、頑張って笑顔をつくる。
「…………下手よ」
「ん。下手」
ひでぇ! 俺の渾身の笑顔を!
「じゃあ、行こうか」
「ここが主殿の仕事部屋です。私たちも同行しますよ」
アリシアとアリスに連れられて一室の前に来た。
いやー、どういう状況でもこういうときって緊張するよね?
部屋にノックして入るとき。
「よし、いくぞ!」
コンコン、
「先程アポを取りました、知り合いです」
「どうぞ」
扉の向こうから苦笑する雰囲気が伝わる。
「失礼します」
…………
「いやさ、確かに超絶美形とは設定したけど、ここまでする必要ないじゃん。男として全ての自信を無くすわ~」
俺は目の前の人物を見てショボくれる。
しょうがなかろ?
「えーっとぉ? はじめまして、であって、はじめましてじゃないんだよね。まあ、わかんないか。はじめまして」
俺はそう、日本語を意識して話しかける。
「? ああ。まあ、はじめまして。同郷の人」
目の前の人物…………竜神のユーヤはそう答える。
アリシアとアリスは謎言語で話し合う俺達に多少なりとも驚いているようだ。