一話 勇者も知らないことだってある
「おばちゃん、この果物なに?」
「リカだね。甘くて美味しいよぉ」
「じゃあリカ二個、それとそこの黄色いの一個頂戴」
「リカ二にモニカ一で小銅貨七枚だよ」
「はいよー」
赤くて林檎みたいなのがリカで、黄色くて檸檬みたいなのがモニカか……、何で二つとも女性名なんだ?
おばちゃんに銅貨一枚を渡しながら覚える。市場の相場がどれぐらいか知らないが、小銅貨一枚が日本円で十円くらいなので三つ買って七十円……、モニカの値段が少し高いのか?
「おばちゃん、モニカって一個いくらよ?」
「小銅貨一枚さ。最近大量に出回ってるからね、利益なんてほとんど無いようなもんだよ」
「小銅貨二枚にすりゃあいいじゃん」
「そうすると他の店に負けるからね」
「はー、なるほどー」
モニカの方が安いのか、正直林檎や檸檬がどんな条件でどれだけ採れるのか全然知らない。多分それを知ってたらこのおばちゃんの話もフラグになったりするのだろう。
俺はおばちゃんに小銅貨三枚のお釣りをもらって、お礼を言い店から離れる。店と言っても祭りなんかで見る出店のようなものだったが。
店から離れると人波に流される。楽しいことは楽しいのだが、人酔いしそうで怖い。柄の悪い兄ちゃんたちと肩がぶつかったりしたら大変だし、もう少し店で話してても良かったかもしれない。
「安いよー!」
「今ならイグの牙が大銅貨五枚! 買うなら今だよ!」
「そこのお兄さん、ちょっと見ていきなよぉ」
街の喧騒というのは恐ろしいもので、気がつけば俺の両腕は麻袋で塞がっていた。
「祭りでもよく出店でいろいろ買っちゃってたしなぁ、何か急に焼きそばが食べたくなってきた」
この世界にソースはあるのだろうか?ソースさえあればパスタ麺でも俺は喜んで焼きそばにしてみせよう。料理とか全然したことないけど。
とりあえずこの荷物を一度持って帰るかと市場を振り返りながら歩く。流石にこれ以上買ったら怒られそうだ。
とぼとぼと目的地に到着したが、何だが騒がしい。声かけるのも気が引け、騒いでるやつらを眺めていると一人がこちらに気がつき駆け寄ってくる。
「おー、ただいまー」
「どっこに行ってたんですか! このバカ三男!」
生まれてからずっと一緒に育ってきた親友にそんなことを言われ、俺はスゴく落ち込んだのだった。
「市場がやってて……」
「うっさい! 旦那様がとても心配して、馬で駆け出そうとするのを今止めているところです! 行きますよ!」
転移魔法って苦手なんだけどなぁ、おぇ。