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平凡学生執事と高飛車お嬢様の関係の間に青春なんてありゃしない。  作者: 瑞梨 擦女
一週目:こんな生活慣れやしない。
6/6

6日目:気を遣わないわけありゃしない。

 ようやく、体が決められた起床時間に慣れてきた。

 夏休みはいつも9時半起きの俺が、今や毎日6時半起きしてる。なにこれ超スゴイ。

 しかも目覚まし時計無しで。なんだかこの数日間でかなり成長した気がする。


「お姉ちゃん!また僕のぱんつ取ったでしょ!しかも寝てる間に!朝からスースーしてビックリしちゃったじゃん!」

「だってぇ、寝てる間の時間が、一番、樹来(いつき)の匂いが染み込んでてぇ……ん?この匂い、ははぁん、さては、樹来、昨日むせ……」

「うわぁぁぁ!やめ、もうやめて!それ以上口を開かないでぇ!!」


 ……どう考えてもこの姉弟(きょうだい)のおかげなんだけどね。

 昨日から(こよみ)邸でのお手伝いさんに強制認定され(さんかしてくれ)た、樹来の姉、卯月(うづき)。話から分かるように、超ド級のブラコンである。マジでドブラコン。なんかモンスターにいそうだな。牙獣種のリーダーしてそう。


 だが、その家事の手際の良さは、樹来に引けを取らないものだ。そもそもの目的だった絨毯の洗濯と廊下の掃除を半日で終わらせ、その後の時間を全て樹来と絡むことに回すほどだ。色々とヤバイ。


 お陰様で、弥生(やよい)の朝食、午前中のスケジュール管理、廊下の掃除は岸谷姉弟に任せてしまっている。仕事が減るのは有り難いのだが、なんだか申し訳なくなってしまう。

 仕事がない時間に手伝おうとすると、「あ、葉月さんは休んでいただいて大丈夫ですよ!」と優しく樹来に促されてしまう。それでいて午後になると「大丈夫ですか?手伝います!」って健気に付いてきてくれるし。


 ………あれ?


 俺、もしかして、頼りない?


 あれ、俺って、一応この屋敷に、数日だけど早く働きに来てるんだよな?それなのに、これでいいのか……?

 今の今まで、樹来の良き先輩的な姿を見せようとしていたつもりだが、なんだか、格好付けれてないかもしれない……。なんだか、情けないな……。


「は、葉月さん!おはようございます助けてください!お姉ちゃんがまた僕のぱんつを!」

「あー、了解ー。安心して待ってろよ、樹来くん」


 そして何故かこの面だけは全力で頼られるっていうね。

 俺は全力で卯月を追いかけるべく、スタートを切った。

 だが、まだ寝起きということで、こちらとしては正直キツイ。

 まるで犬であるかのように、卯月はかなり低い姿勢で颯爽と走り抜ける。このまま逃げ切られてしまうというのか……。


 が、決着はかなり速くついた。


 前方のドアが勢いよく開き、卯月はそのままのスピードで迫り来る扉に激突した。

 しばらくフリーズ、その後気絶。樹来のぱんつを咥えながら。本当に犬かよ。


「あら、ごめんね卯月さん。ドタバタしてるものだから、つい」

「故意的だったのかよ……逆によくタイミング計れたな」


 大したことじゃなさそうに、弥生(やよい)はケロッとした顔で卯月を見下ろしていた。傍から見たらどうみてもおかしい構図なはずなのだが、慣れというのは怖いもので、いつも大暴れな卯月に制裁を与える弥生、という流れが、自分の中で固定されたものになってしまった。


「うう……や、弥生ちゃん、さすがに今回はきついよ、鼻んとこへこんじゃうから……」

「毎日きつくなると言っても止めないあなたがいけないのでしょう?あ、そうだ。樹来、今日の午前中のスケジュールは?」

「あ、はい!えーとですね……」


 弥生も、すっかりこのスケジュール管理方法に馴染んでしまっていた。まず朝は樹来を呼ぶ、というサイクルが出来ているのである。

 お陰様で、俺の朝のお仕事ほとんど無し。やったね俺ちゃん!休みが増えるよ!


 ……なのに、なんだこの変な気持ちは。


 周りがみんなせっせと働いているのに、俺だけ楽なことばかりして。とんだ怠け者じゃないか。そろそろ見えざる手とか使われて戻っちゃいそう。


 このままでは俺の中のなにかが消えてくれない。手っ取り早く指示を受けてしまおう。


「な、なあ弥生。俺に、もっと出来ることとか、ないか?」

「今のところは無いわ。そんなになにかしたいなら、門番でもしたらどう?」


 冷たっ。夏場でも凍てつくわこんなん。


 そう言われてもなあ……このままなにもしなかったなら、やっぱりモヤモヤが残るんだよなぁ……。掃除できるところでも、やっとくか。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「……よし、これで今日の予定は全部終わったわね?」


 弥生お嬢様は、みんなに確認するように、ぐるりと見渡す。僕たちは、それに応え、頷く。

 今日も無事、仕事を終えることができました。それと同時に、夏休み1週間目も終わったのです。


「うん、みんな、1週間目お疲れさま!おかげで、いつもと同じように、予定をこなすことが出来たわ!」


 弥生お嬢様は、みんなに笑顔を振り撒いて、お礼を言った。ふふっ、喜んでくれて嬉しいです。


「ちゃんと1週間『目』なあたり、まだまだ続くんだなーっていう実感がさらに湧いてきたがな……」


 あれ、葉月さんは、なにやらお疲れなようですね。ちょっと励ましてあげましょう。


「大丈夫ですよ、葉月さん!今日は、明日からまた頑張ろう!ってしっかり思える日、そう思えばいいんですよ!」

「なにをどう励まされたのかわからないけど、とりあえずサンキュな……」


 あ、あれ……?通じなかったかな……。

 で、でも、これから、きっともっと、楽しんでもらえる(・・・・・・・・)んだから!


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 その事を聞かされた時、俺は、きっとかなり驚愕の表情を浮かべていただろう。


「それでは!只今より、1週間お疲れ様でしたパーティを、始めようとおもいます!!」

「いぇーい!!」


 司会を務める樹来と、それに応えるように拍手と声援で盛り上げる卯月と弥生。

 まさかこんなことがあるなんて、誰が予想できただろうか。


 ……全部わかっちゃってるなんて。


 意地でもなにか仕事をしてやろうと見つけた、薄汚い……もとい、趣のある蔵。洋風のお屋敷になんでこんな所があるのかはとりあえずおいといて、とりあえず働きたくなっていた俺は、迷いなくその中に入って行った。

 掃除をしてるうちに、どこか違和感を感じた。

 なんだか、古臭い割には、ホコリやゴミが少ないのだ。まるで、つい最近使われた(・・・・・・・・・)かのように。

 思った以上に広いその蔵をしばし見回してみると、あるものを見つけた。見つけてしまった。


『1週間お疲れでしたパーティ』と、大々的に書かれた、宙吊り式の看板を。


 また、そこには、今日のタイムテーブル的なものも置いてあり、俺はしっかり確認してしまったのだ。なんであんな所にまとめて置いておくんだよ……。

 だが、今回の落ち度は俺にありそうだ。というか、100%俺だろ。勝手に倉庫に忍び込んだ挙句、無断で今日の予定を、暗記するくらいしっかり見るなんて。


「お、おぉー、なんだこりゃあ、す、すごいなぁ……」


 すでに分かりきってることにリアクションするのって、こんなにきっつかったのか……。マジック番組で、タネを知りながら見るのとは比べ物にならないくらい、そんな感じの感情。つまりよくわかんね。


 しかし、なぜ俺がここまで焦っているのか。なんで弥生主催であろうパーティの内容を知っている樹来たちにも、俺は内容を知らないふりをしなければならないのか。

 どうせ、あと数十分もすればわかることだ。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ……数十分でこんなに頭使うとは思わなんだ。

 いかに墓穴を掘らないかを考えながら発言するのが、こんなに難しいなんてな……。自分自身に責任持つってのは、こういうことなんだな。多分違うけど。


「え、えーと、では、えんもたけなわ・・・・ですが、そろそろ、お開きにしようかと思います」


 どことなく間違っているような樹来の司会を、悔しくも聞き流す。これからの対応で、正解を答えない(・・・・・・・・)ようにするために。


 きっと、本来なら、涙を流しそうになるくらいのイベント(ちょっと大げさかもしれないが)だというのに。


「それでは続いて!」


 声高々に宣言する弥生。

 本当なら、びっくりして「えっ!?」とかの声を本気で言えたろうに。冷や汗しか出ないぜ、くそう。


「葉月さんの、新執事歓迎パーティを開催しまーす!!」


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 今回の掲載にあたり、読者の皆様に、作者より謝罪がございます。

 テスト期間、部活での作詞作曲、モチベーション等々、自分個人の理由で、投稿を長引かせてしまい、誠に申し訳ありませんでした。

 これからまた、隔週更新をしっかり守れるように頑張ります。というか、やります。

 今回以降は、きっと締め切りを守りますと、樹来くん in the 地学ノート もおっしゃっているので、

挿絵(By みてみん)

 どうかこれからも応援よろしくお願いします。

本当にすみませんでした。いろいろと。すみません。次回もこの調子で頑張ります。いろいろと。

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