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平凡学生執事と高飛車お嬢様の関係の間に青春なんてありゃしない。  作者: 瑞梨 擦女
一週目:こんな生活慣れやしない。
1/6

1日目:こんな生活慣れやしない。

陽の光が注ぎ込み、庭の植木を明るく照らす。

朝だ。いつも通りの、朝だ。


……俺が見る天井が、ギラギラシャンデリアに照らされたものでなければ。


来客用だなんてお世辞にも言えないような硬さのベッドから起き上がる。お決まりの正装に身を包み、朝食の準備を始めた。

間もなくして、廊下からドタバタとうるさい足音が聞こえてきた。


「ちょっと葉月(はづき)!どんだけ待たせるつもりよ!?ご飯!はやく!」


調理場に入ってくるやいなや、今のところのこの家の主、『(こよみ) 弥生(やよい)』に怒鳴りつけられる。


「いや大して待たせてねえだろ。お前、今起きてきたところじゃねえか」


(あたし)は、起きた時間が朝食の時間って決まってるの!」

どんな体のシステムしてんだよこいつは。




「ていうか、お前って言うな!今の葉月は、同級生だろうと、この暦家(こよみけ)の 執事 なんですからね?」




……本当になんでこんなことになったのか。少し、前の日の話になる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……全日本執事協会の定例旅行だぁ?」


朝一から聞きなれない言葉を耳にし、思わず聞き返した。なおも、父母は平然としている。


「そうなんだよ。ほら、私は暦家の執事、母さんはカレンド家でメイド長をやっているだろう?」

「まぁ、それはわかっちょるが」


暦家というのは、この街、安根市(やすねし)を拠点とする、暦産業グループの会長、(こよみ) 秘繰(ひめくり)の邸宅である。公式のサッカーグラウンドくらいある広大な土地。そこにそびえ立つのが、暦家のお屋敷なのである。


また、カレンド家も、世界有数の大型企業の元締めである。これについては、正直よくわからないのでさらっと。


「それで、ついにこの人にも招集が来たのよ、全日本執事協会から」


そう言うと母は、【如月(きさらぎ)様方へ 定例旅行出欠確認のお便り】と書かれた封筒があった。


「その組織について謎過ぎて不安なんだけど……」


よくわからないものというのが1番怖い。色々と不安になる。

しかし、そう言えばこの時期、母はいつも旅行に行っていて、夜も家にいなかった。メイド長を、しかも大型企業の家でやっているとなると、もはや常連なのだろう。

まぁ、親が行くくらいだし、信用していいのだろう。

「大方、日本中の執事やメイドの中から、すごい人を選出する、的な感じ?」

「理解が速くて助かるよ。では、もう一つ頼みたいのだが……」

「ん?頼み?」


「私たちが旅行に言っている間、




暦家の執事をやってくれないだろうか?」




……言葉を失った。


いやおかしいだろ。なんで執事が留守の間に、その息子がお嬢様だの旦那様のお世話をせにゃあならんのだ。


「断っていいですか?」

「ダメだ」

即答だった。


「なにせ、もう届出は済ませてしまったからなぁ……」


………は?


「いや待て待て、届出、って、はぁ?」

「暦家のルールで、休みを得る場合には、代役を用意し、出発の2週間前までに届け出ること、とあるのでなぁ……」


………嘘だろ……。




こんなくだらん理由で、いたって平凡な男子学生だったはずの、如月(きさらぎ) 葉月(はづき)の執事生活は始まった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


と、いうわけなのである。明らかに俺の意思反映されてねえな。


さらに重なるように、同期間で夏休みに入ってしまった。高校1年生の今、すでにバリバリ帰宅部のエースだった俺は、この約1ヶ月を、俺は弥生の世話だけで潰してしまうことになる。

……苦行(くぎょう)だ………。


などと考えながら、弥生のリクエストのスクランブルエッグサンドをこしらえ、それを皿に並べることで、朝食の準備を終えた。


「……へ、へぇ、案外作れるもんなのね……」

弥生は、少しばかり輝いた目でモーニングプレートを眺めている。残念ながら、執事とメイドの間に生まれたからか、家事は得意なんだよ。


しかしこいつ、普通にしてればしっかりお嬢様な雰囲気だ。腰くらいまでの長さの黒髪。すらっと伸びた清潔感のある、白のワンピース。部屋着なのだろうか。そこから伸びる、すらっとした手足。どこかの野原にでも立っていれば、CDジャケットになりうるんじゃないかと言うくらいの容姿だった。


……どこかの?……あ。


「……そういえば、聞きたいことが」

「言葉遣い」


俺の言葉を遮って、ジトっとした目でこちらを見てくる。

「……お聞きしたいことがあるのですが」

「なぁに?下働きの執事さん」

野郎……。


「お手伝いさんはともかく、なぜコックやシェフまで休みをとってるんだ……でしょうか?」


この豪邸には、今のところ俺とこのわがままお嬢様しかいない。弥生の父母に関しては、日常的に世界各国を飛び回っているので、納得はいく。しかし、シェフやコック、メイドまでもが1人もいないこの状況は、いかんせん理解に苦しむ。


「あら、聞いてなかったの?それとも覚えるおミソもないの?」

こめかみ部分をつつきながら聞いてくる。うっぜぇ……。

「前者に決まってんだろ。んで、なんでだ?」

「だから言葉遣い……まぁ、食事のときくらいは、許してあげようかしらね」


そういうと、彼女は両手を合わせ、サンドイッチを食べ始めた。


「……あわわあわいおかいあおおおきたお」

「飲み込んでからしゃべれ汚ぇ……」


口をもごもごさせながら必死でなにかしら言ってるが、なにも聞き取れなかったぞ今の。


「んぐっ……あなた、私の家の会社の社会的地位の高さをわかって言っているの?と言ったのよ」

「いや、それに関しては言うまでもなくわかってるんだが…それとどんな関係が?」


聞いたのが間違いだった。弥生は「しめた!」と言うかのように目を輝かせ、素早く立ち上がり、片手を腰に、片手の人差し指を立てて顔の横に、いわゆる「説明しよう!」なポーズになっていた。


親御(おやご)さんから聞いてると思うけど、全日本執事協会は、全国から有能な執事、メイドなどのお手伝いさん関係のお仕事の人を定例旅行に連れていくわ。つまり……わかるわね?」

「……いやわかんねえよ。何を伝えたいのかすらわからん。」


そんなドヤ顔で言われても、こちらとしては苦笑いくらいしかできんわ。


「はぁ!?今のでわかんないの!?信じらんない!!つまり、うちのお手伝いさんたちは、みんな有能だから、みーんな旅行に行っちゃうわけ」


執事協会なにしてくれてんだよ。みんないなくなったら誰がこの|お嬢様(ダメ女)のお世話すんだよ。


「……てか、去年とかはお前はどうしてたんだよ。誰もいないんじゃ、なにもできなくないか?」

「去年までは、あなたのお父様がお手伝いに来てくれたわよ。旅行期間なのに、親切な方ね」


……どうか親父だけ呼ばれていなかったとかじゃありませんように。


まぁだいたいの状況は理解出来た。したくはなかったが、できた。わかったところで、これからが不安でしょうがないのだが。


「ふぅ……ごちそうさまでした。さて、じゃあ今日のミーティングを始めましょうか」

「ん?ミーティング?」

部活とかならよく聞く言葉だが、この家でのそれはまるで想像もつかない。まあ入ってないけど。


「この家じゃ、1日のスケジュールを朝のうちに確認するの。今日は初めてだから、私が読み上げていくわ」


……ものすごく嫌な予感がする。


「今日は、まず9時からピアノのレッスンが入ってるわ。その後10時からお茶のお稽古、11時からネイティブスピーカーの先生との英語のお勉強よ。12時からは、お昼も兼ねてテーブルマナー講座、午後1時から乗馬、2時からはヴァイオリンのお稽古、3時から5時は専属スポーツトレーナー監修のトレーニングよ。」


機関銃のように話されたスケジュールは、この上なくお嬢様感満載の内容だった。


「それと、それぞれの間の時間のうちに、あなたは掃除洗濯家事等々、やっといてね」


……言葉すら出ないわ。キツすぎんだろ……。


「……よし、全部暗記したわね?それじゃ……」

弥生の手が、その紙を破くようにゆっくり捻られていく。


「え!?いや待て待て待て!!はぁ!?暗記だと!?無理に決まってんだろ!!」

「はぁ!?そっちこそ何言ってんの!?いちいち予定をメモ見ながら確認する執事がどこにいるのよ!」


さらに強く捻られる手。一種の恐怖が芽生えた。


「わかった!5分!!5分時間をくれ!!」

全力で懇願してしまった。なんなら「すいません、なんでもしますから!」とか言いそうな勢い。まぁなんでもするお仕事なんだけどね。あはは。つまんね。


「まったくしょうがないわね……5分よ?」

そう言うとポイッとそのメモ用紙を投げてきた。先ほど破られかけたせいで、少しばかり文字が読めないところもある。

ちくしょおぉぉ……なんで今年は残らなかったんだ親父…!


軽く親父に恨みを込めながら、俺はこの日の予定を、頭に叩き込む。えぇと、9時からピアノのレッスン、と……。


……9時からピアノ?


「……お嬢様、今、何時何分でございましょうか……?」


焦りのあまり、完璧すぎる敬語がでてしまった。


嫌な予感Part2。


「今?えーと……8時50分ね」


…………。


言った後で、弥生の顔からも、血の気が退いていた。


「うぁぁぁ!!あと10分でピアノの先生来ちゃうじゃないのよ!急いで!急ぎなさい!!」

「言われなくてもわかってるわ!ほら、食器よこせって!」

「あっ!まだご飯途中なのにぃ!」

「とっといてやるから、腹減ったら食べればいいだろ!」


……俺の思ってた、執事とお嬢様の会話じゃない……。こんな生活が、約一ヶ月間続くのか……。

はぁ……こんな生活、慣れやしない……。

この度は、「平凡学生執事と高飛車お嬢様の関係の間に青春なんてありゃしない。」を読んでいただき、誠にありがとうございます。作者の、瑞梨(みずなし) 擦女(するめ)ともうします。

初投稿作品となります。正直なところ、投稿するのにかなり緊張しています。自分の作品が、どんな評価をされていくのか、楽しみであり、怖くもあります。どんな評価でも受け入れます。是非皆さん、よろしくお願いします。

さて、この作品はいかがでしたでしょうか?今後この2人が、一つ屋根の下(ドデカイ豪邸の)でどんな関係になっていくのか。書きながら楽しく考えさせられます。どんな展開にしていこうか、思春期テンションに任せない程度に頑張ります。

それでは皆さん、二日目でまた会いましよう。


瑞梨 擦女

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