敵勢力圏からの脱出。その7
「閣下。今度は3艦隊同時に相手しなきゃならないかもですね。」
「うん。どうやらそのようだ。相手も自分たちの戦法の愚かさに気付いたのかもしれないね。もっとも、今までの行動は、総司令官らしき先ほどの男の命令だったのかもしれないがね。」
「3艦隊が連携してくるとなると少々厄介ではありますな。数の上では我々の倍ほどになりますからな。」
予想接触時間はおよそ20分後との報告に、俺は艦隊の陣形の見直しを始めていた。
参謀達と協議しながら矢継ぎ早に指示を出しているとオペレーターが緊急報告の通信を捉えた。
「閣下!大変です!我々の母艦に向かって敵の艦隊が進軍しているとの報告が入りました!」
報告によると、母艦の索敵網が敵の大規模艦隊を捕捉したとのことであった。
その数は5万隻を超えるもので、数日中には追いつかれてしまう恐れがあるとのことであった。
「遂に敵もなりふり構ってられなくなってきたか…」
「そのようでありますな。どうなさいますか?この戦場を放棄いたしますか?」
「いや。それは出来ない。トイバタ大佐、ここから母艦までは最短でどのくらいの日数がかかる?」
「はっ!どれだけ急いだとしましても1週間はかかってしまうものと思われます。」
「ふむ。俺たちは、まず目の前の敵を倒した後、ナグモ、タカハシの両艦隊を加えてから帰還することにする。」
「閣下。それでは母艦がやられてしまうことになりかねませんぞ!」
「…俺に考えがあるんだ。本当は使いたくない一手ではあるのだが。この戦闘の後に母艦に通信を試みる。」
☆☆ ☆☆ ☆☆
「閣下。敵が我が射程に入るまで、およそ1光秒であります…ん、なんだ?」
「どうしたのだ?」
「はっ!敵の艦隊数が増えているのです!3艦隊の後方に2艦隊新たに出現しました!」
オペレーターが悲鳴のように叫んだ。
俺はギクリとした。
もし敵の新手の艦隊だとすれば、被害を最小限に抑えつつ撤退をしなければならない。
「…閣下。少しお待ちください。」
モニターを食い入るように見つめていたトイバタ大佐が口を開いた。
「敵の増援にしては、それぞれレーダーの反応が小さくありませんか?あれでは精々2000隻前後ずつでありましょう。それに出現ポイントが…」
「ふむ。もしそうであるのなら、こちらに勝機があるかもしれんな。」
陣形をさらに変更して、前線の盾艦部隊を左・中・右と3つに分け、それぞれ構えさせて、その後方にそれぞれ部隊を配置させた。
そして間もなく、敵の左右の艦隊の後方で戦闘が始まったのであった。
背後を襲われる形となった敵艦隊は、おおいに乱れた。
敵右翼の後背には、ナグモ艦隊の残存艦隊、敵左翼後背にはタカハシ分艦隊が、それぞれ攻撃を開始していた。
「よし。あれはナグモ、タカハシ両艦隊だ。俺たちは前進して敵中央の艦隊を三方から挟撃する。前線部隊に伝達せよ。」
敵中央艦隊も「コ」の字に再編成された盾艦の防壁に三方向から挟まれる形となり、あっけなく崩れ始めたのであった。
約三時間半に及ぶ戦闘にて、敵は6割以上の損失を出し、戦線を離脱し始めた。
☆☆ ☆☆ ☆☆
10時間後―
破損艦の応急処置と負傷者の収容、そして大破艦の通信設備の破壊を終えた俺の艦隊は、同時に合流し陣の再編成を終えた。
そして、ナグモ元帥とタカハシ中将を旗艦に招いていた。
「ナグモ閣下。ご無事で何よりであります。」
「イズミ提督、救援感謝いたします。私が不甲斐ないばかりに申し訳ありません。」
「いえ。勝負は時の運ですよ。それより…閣下の方が階級が上でありますので、どうかへりくだらないように願います。」
「ああ…そうでありましたな。以後気を付けることにしますかな。ただ、これからの行動はイズミ提督の指揮に委ねます。」
「拝命いたします。ところで、タカハシ中将。君はどうやって敵の後背に現れることが出来たんだい?」
「その事なんだが、フユに命じられた敵の要塞を攻略した後に、新たなワープ可能宙域を発見したのさ…あ、であります。」
艦隊編成を行っている合間に、ナグモ、タカハシ両提督に母艦の危機を伝えた。
「急ぎ帰還して応戦せねばなりませんな。果たして残留艦隊のみで、我々が戻るまで持ちこたえられますかな?」
「その事なのですが…元帥閣下。俺に一つ心当たりがあるのです。」
「イズミ提督には何か妙案がおありなのですな?」
「はい。――ただ、もろ刃の剣になりはしないかとの懸念もあるのですが…」
「なっ、フユ!…あ、いえ…閣下!まさかとは思いますが…ヤツを起用するおつもりでありますか!?」
「タカハシ中将。今日は珍しく勘がいいな。そう、宇宙軍によって幽閉されているスサを…秋山を使うつもりだ。」
「イズミ提督。もろ刃の剣である前に彼は承知しますかな?」
「その点は心配ないと思います。彼は根っからの戦闘マニアであります。戦いの場を提供してあげると水を得た魚の如く飛びつくでしょう。」
「我々を裏切るとの可能性は…どうだろう?」
「そこは、俺も考えたのですが…仮に彼が裏切ることがあったとしても、兵士たちが付き従わないでしょう。彼の手腕だけを借りるのです。もっとも、その働きに応じて官位を授け今後の戦闘に役だってもらう事も視野に入れております。」
一同、釈然としない様子であったが、他に取るべき手段も無さそうなので、この方針に賛同の意を表した。
「アキヤマとの通信交渉は、総司令本部を通して移動中に行うことにする。」
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