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WANDERER2  作者: 北乃銀杏
赤の帝国編
2/15

敵勢力圏からの脱出。その2

ひと時の静寂が破れ、再び陣形を整え終えた両陣営の艦隊が動き出した。



「よし、様子見はおしまいだ。これからは積極攻勢に出るぞ。」



この近くの宙域に敵の増援・伏兵が居ない事を確信した俺は、勝負を急ぐことにした。



お互いの艦の性能的には、火力の上ではほぼ互角の様であり、側方への展開力はこちらが少し勝っているようであった。


何より現在展開している兵力は、こちらの方が3割ほど多いのである。


現時点で敵の他の艦隊が居ないとはいえ、いつどこにワープアウトしてくるかわからない状況である。




こちら側のもう一つのアドバンテージは、最近開発され運用を開始した「指向性電波」を使った通信手段であろうか。


これにより敵に悟られることなく情報のやり取りが可能になっているのである。



もっとも、今回の会戦で破壊された味方の艦から情報が漏れてしまうかもしれないが…




鶴翼の形に展開した艦隊の右翼と中央の間にわざと僅かな艦列の乱れを作って見せた。



「敵としてもこの兵力差に四苦八苦している事だろう。時間をかけた消耗戦では分が悪いだろうから、何かしらの隙を狙っているはずさ。そこに殊更に隙を見せたらどうなるか…相手の性格を見ることも出来るね。」


「のってくるでしょうか?」


「ふむ。トイバタ大佐、君ならのってこないだろうね。なら、君ならどうする?」


「そうですな…のったふりして、そこに攻撃を集中させて反転撤退でしょうかね。」


「そう。それが俺たちにとっても上策なのさ。戦わずして勝つのさ。」


「閣下。小官といたしましては、いささか回りくどい作戦のようにも思えますが…戦力差を生かして間断なく攻め続けますれば、こちらの損害少なく相手を殲滅できると考えますが。」


「カミ大佐の発言はもっともだね。確かにその方法が本当は一番いいのかもしてない。でも、この会戦の後に帰還するだけの任務であれば、それもいいと思うのだが…これからどれだけ連戦を強いられるか分からない状況だからね。出来るだけ温存していきたいんだ。窮鼠猫を噛むで相手に徹底抗戦に出られても面倒になるしね。」


二人の参謀は、なるほどとうなずき正面のモニターに向き直った。



「ただし、敵の司令官の性格よりも…民族的な矜持が絡むと、ちょっと厄介なことになるかもね。」





そうしている間にも両艦隊の相対距離は縮まってきていた。


「閣下。敵は密集隊形になりつつ我が右翼方向に進路を変えてまいりました。間もなく射程に入ります。」


「よし…射程に入り次第、敵の攻撃にさらされるであろう部隊にシールドを強化させ備えさせよ。右翼艦隊には作戦通りに行動するように連絡をしてくれ。」





敵の射線が右翼と中央の境目に集中してきた。


シールドを最大にして耐え凌いではいるが、中には敵の圧倒的な出力に撃ち負かされ大破する艦も出始めた。


敵はそこに雪崩れ込む形で殺到し始めた。


中央と右翼の艦隊は、敵と接する部隊のシールドを強化させ、他の部隊はそれらを盾に180度の転舵を開始した。


同時に左翼艦隊は、反時計回りに進路をとり始めた。



敵が突破を果たし、こちらの陣を抜けたのを確認した既に反転を終えた部隊は、そのまま追撃する形となった。


盾役を果たした部隊は、そのまま時計回りに進路をとり前進を開始した。



尻に火が付いた状態の敵艦隊は、全速力でこの宙域の脱出を図っているように見える。



「どうやら、一番好ましい結果で終われそうだな。」



俺はきっちり一時間で追撃を止めさせた。


全速力で離脱を試みている相手に攻撃を加えながら追いすがるのは、なかなか困難であったのもあったが。



とはいえ、敵の脱落艦を次々と破壊して4割近い損害を与えることに成功していた。



「隊を三つに分けての包囲作戦は、不発に終わりましたね。」


「あれは単なる保険さ。今目の前にある状況こそが最大の目的なのだから。」




俺は艦隊を整え元の戦場の宙域に戻り、破損艦から生存者を救出し、通信装置に爆薬を仕掛け破壊して回らせた。



その後、その宙域を離脱しワープ可能な地点まで移動した。



ナグモ艦隊が潜伏しているであろう宙域までには、少なくとも3回のワープが必要であることが判明した。



俺は念のため、この辺りに無人索敵機をばら撒くように指示を出した。




初戦はまずまずの結果に終わったが、この先に何が待ち受けているか分からない状況である事には変わりがなかった。



今回の会戦の様子を敵本国に逐一報告されていたことが、傍受した敵の通信にて判明していた。




――我が艦隊の規模も進路も知られてしまっている。


――我が母艦の位置についても割り出されるのにそう時間はかからないだろうし、急がねばならんな。




「そう言えば、敵の艦艇は全て鮮やかな朱色だったね。」


「はい、そうなんです。単なる視覚的効果を狙っているのかもしれませんね。或いは目視での識別の為か。」


「その為、我々は便宜上敵を赤の艦隊と呼称しております。更に敵国家を赤の帝国とも呼ぶようになりました。」



「なるほどね。これからもいろいろ教えてくれよ。」




無限に広がる暗黒の空間に吸い込まれていくかのように、艦隊は漆黒の中に消えていった。

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