資源採掘隊発進。
母艦「おのころ」からおびただしい数の艦船が発進し、それぞれの宙域で集結・整列していった。
総数9000隻にものぼる大艦隊は、中央に輸送艦隊、工作艦隊、補給艦隊を配置し、戦艦隊は3つに分かれそれを囲むように前衛にタカハシ艦隊、左後方にカミ艦隊、右後方にトイバタ艦隊が布陣した。
戦闘艦艇にはそれぞれ10機の無人偵察艇が配備されており、10000機を一組とした5つの偵察網が交代制で艦隊のあらゆる方角をカバーする目の役割を担っていた。
更に今回の航行中に無線誘導での操艦の実験も兼ねて行われる予定である。
母艦の方では連日、拿捕した艦艇のコンピューター情報の解析により、敵勢力圏の地図情報や言語解読が試みられている。あらかたの解析は終わっているのだが、文字と発音の解析が未だ不十分であったため、敵の通信の傍受は出来ても内容把握が心もとない状況であった。
それらの解析がなされた暁には、俺たちは更に安全な航海を続けて行くことが可能となるはずである。
集結を終えた艦隊は順次発進していった。
その様子をモニター越しに見つめながら、俺はアキヤマを呼びだした。
☆☆ ☆☆ ☆☆
呼び出しに応じたアキヤマが大きなファイルを携え部屋に入ってきた。
「お呼びでしょうか。閣下。」
うやうやしく敬礼をしながらアキヤマが言った。
「俺の方から言わなくても何事か既に理解しているのだろう?」
俺ははにかみながらアキヤマを席に促した。
「閣下は当分ご多忙の身でありますからな。代わりに私に留守部隊の指揮をとらせようと言うことですな?で、防衛についての艦隊スケジュールを作成してもってこいと仰るのでしょう?」
「そこまで分かっているなら・・・そのこれ見よがしな大きなファイルがそれなんだな?」
――まったく食えないやつだよ。
ファイルには哨戒網についての記述が数パターン、細かく記されていた。
それに付け加えて、無線誘導での操艦の実験をアキヤマ独自にも行いたい旨の記述もあり、様々なパターンの条件を想定しての演習方法についても書かれてあった。
「お前・・・これいつの間に制作していたんだ?いや、なんとなくわかるが・・・」
こんなの一日二日では到底まとめきれるものではない。
いや、こいつならやってしまいそうではあるが・・・
「このファイルは今日中に目を通させてもらう。その後に返事をさせてもらうよ。」
「はっ!よろしくお願いいたします。」
アキヤマは敬礼をして席を立った。
「アキヤマ。本当はもっとファイルあるのだろう?いろんな分野に渡ってのものが。」
立ち去ろうとしたアキヤマの背中に向かって問いかけた。
その問いかけにアキヤマは肩をすくめて振り返った。
「各省庁の担当者等に会いたい時は遠慮なく俺に言ってくれ。俺たちの国の為になるようなことなら何でも協力するぞ。」
「その折には閣下を頼らせていただきます。」
アキヤマはニヤリと笑って会釈をしながら退室していった。
それを見届けた後、俺は再びファイルに目を移した。
いろいろな状況下における索敵方法など、実にすばらしい内容であった。
「これは・・・俺、もう隠居してもいいよね?」
苦笑いしつつつぶやいた。
無線誘導での操艦の実験方法についても、俺が想定していた内容はもちろん全て網羅されており、それの応用や全く別の角度の視点からのアイデアも盛り込まれていた。
無線誘導での操艦の実験は遠征艦隊の方でも行われるのであるが、目的のある作戦行動中なので出来うる実験に限度があるのだ。もちろんそのデータも有効的に利用させてもらうのだが、元々こちらの方でも実験を行う予定だったのではあるのだが。
ふうっとため息をついたところで秘書の士官が部屋に入ってきた。
「閣下。間もなく各国の総理との会議の時間となります。そちらのほうの準備をお願いいたします。」
秘書の士官は極めて淡々と事務的に言った。
――こいつはこいつで優秀なんだが、今一つ面白みに欠けるな。
――もっとフランクに来てくれた方が俺的にはやりやすいのだが。
「分かった。準備は出来ている。」
宇宙空間を映し出している外郭モニターの映像を一瞥しながら軽いため息をついた。
身分が高くなるにつれて権限が増す一方で、自由が制限されてしまう。皮肉なものだな。
戦場であろうとあの自由の空間に飛び出していけたら、さぞ気が楽であろうな。
と、不謹慎な考えもチラッと脳裏を横切った。
――苦笑いしか出てこない。