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WANDERER2  作者: 北乃銀杏
赤の帝国編
1/15

敵勢力圏からの脱出。その1

漆黒の空間に星々のキラメキが散りばめられていた。


時の経過をあざ笑うかのような、広大という言葉では表現しえない空間。


その中の一つの恒星系――


そろそろ終焉を迎えんと大きく肥大化した恒星のたもとに、その光を反射し無数に輝く二つの粒の集合体が、その相対距離を縮めてゆく。



示し合わせたように正確に、互いに引き合うようであった。



粒の集合体は生き物のように形を変えながら、その距離を詰めていく。



刹那、どちらともなく青白く光る光の束をそれぞれに放ち始めた。


その粒の集合体のあちらこちらで短く光る閃光が、ランダムに点滅し始めた。





☆☆ ☆☆ ☆☆



ドーム型の広い空間の正面には巨大なモニターとサブモニターが多数並んで配置されていた。


その空間には様々なオペレーターたちが多事多端にうごめいている。


巨大なモニターには、敵と味方の位置関係を示す画像と敵艦隊の映像が映し出されていた。



その様子を見下ろすように配置された「司令室」に俺はいる。



「よし、このまま前衛部隊を後方に下がらせよ。後方の部隊と入れ替えつつ陣の再編に入る。」



艦隊はよく訓練されており、指示通り動き始めた。



「閣下。敵の攻勢を誘う結果になりませんか?」


参謀のカミ大佐は不安そうに訊いた。


「頃合いだよ。敵の方もこの機に一時引いて陣形を立て直すさ。」


「その通りですよ、カミさん。もし敵が攻勢を仕掛けて来てもこの陣容なら寧ろ敵を包囲する好機ともなりますからね。」


俺の言葉に補足を入れる様に、同じく参謀のトイバタ大佐が発言した。



カミ大佐は体格のいい偉丈夫で、攻勢時の戦略構想は素晴らしいが、守勢の戦略構想はいまいち苦手の様で攻撃こそ最大の防御を地で行く人物であった。


トイバタ大佐はスラッと背が高く、常に冷静且つ洞察力に長けた人物で、年齢的にも後任であったため、カミ大佐にはいつも敬語で接していた。




読み通りに敵の艦隊も後退を開始した。



「それにしても、今回の文明圏の敵は今までに無いくらい動きに秩序があり、手強いな。ナグモ元帥の苦労が身に染みて分かった気がするよ。」


「閣下。この数世紀の会戦の記録を拝見させていただいて、私なりに思った事は、今までの文明圏は科学が発達して装備も強力でありましたが、国としてまとまり過ぎていて外敵と呼ばれる存在に疎く実戦経験の乏しさが目立ったように思われます。」


「ほう。面白そうな話だね。トイバタ大佐、今回の敵は今迄の敵とは違うと言うのだね?」


「はい。閣下がまだ一般居住区におられた時から我々は戦ってきたのですが、今回の敵は非常に広大な支配領域を有している模様なのです。それ故に内部にも外部にも敵は豊富にあったでしょうから、戦術面においても戦略面においても円熟味すら感じ得ます。」


「なるほどね。君たちが優秀なのは、そんな相手と戦いながら生き残ってきたからこそだね。そちらの方も納得したよ。」



俺はこの艦隊を率いてからというもの、彼らとの会話が日課になり、その時間を好んだ。

くだけた話の類は未だないのだが、なかなかに興味深く参考になる話が多く勉強になった。


この俺には、18年と言うブランクがあるからだ。



俺はイズミ フユキ。

以前はイヤ フユキと名乗っていた。



俺には特殊な能力があり、世代間宇宙船である我らが母艦「おのころ」にて、かつて起こったクーデターにより自身を別のエリアに転生させた経緯がある。


そのせいもあって、クーデターを鎮圧させるまでの18年間は、この宇宙防衛軍との接触は無く、まさに浦島太郎のような状態であったのだ。



そしてこの度の出征は、先に遠征を行って窮地に立たされている味方の艦隊の救出を含めた作戦の一環であった。



「カミ大佐。我が艦隊の現在位置とナグモ艦隊の現在位置をこちらのモニターに出してもらえないかい?」


「はっ!」


カミ大佐は短い返事の後、手際よく各種データを入力してモニターに情報を送り表示させた。



「こちらが我々の現在いる星系で、こちらから約5光年離れたエリアにナグモ艦隊が最後に発信した宙域があります。」


カミ大佐は丁寧に補足を入れながら説明した。



「それにしても、ナグモ元帥はかなり奥まで入り込んだものだね…トイバタ大佐、これは君的にはどう思う?」


「はい。奥に入り込んでいると申しましても、敵の本拠地のあるであろう位置とは方向が違います。もしかすると、敵の補給基地か中継基地的なものを発見されたか…」


「あるいは誘い出されたか…か?」


「はい。この十数年戦い続けてきましたので、相手方もこちらの言語等を研究して色々な策を講じてきているのではないかと。事実、こちらも相手方の情報の多くを鹵獲した敵艦より入手いたしました。」



「ふむ…なるほど、手強い訳だな。」




自分の艦隊も敵勢力圏の奥深くにまで踏み込んでいる事もあって、もたもたしていると、あちらこちらから敵が溢れだして、たちまち包囲されてしまうのではないかと俺は脳裏に一抹の不安をいつも抱えていた。




こちらの犠牲をいかに減らし、効率的に戦うか…それも出来るだけ迅速にだ。



焦りは命取りになるので禁物だ。



――なんにせよ無事に生きて帰れるように祈っておこう。




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