プロローグ
プロローグ
全国約4000校が目指す夢の舞台、甲子園。
その中でも特に甲子園出場が難しい激戦区大阪。
「ほーら、早くしないと大阪桐生の試合始まるよ!」
「そんなこと言われても私、興味ないし…」
「いいから!さっさといくよ!」
照りつけるような真夏の日差しの中、二人の女子中学生が足早に球場に向けて歩いていく。
今日は大阪大会ベスト16の試合の中でも屈指の好カード、大阪桐生vs佐久良ヶ丘の試合である。
「ふー…なんとか間に合ったね春香」
黒髪ロングの女の子が息を切らしながらスタンドの席に座った。
「よかったよかった!桐生の選手を近くでみたいからもうちょっと前にいこうよ夏希」
「えー、もう動けないよ…ってわわ!?」
茶髪のボブヘアの春香と呼ばれた女の子が黒髪ロングの夏希の腕を無理矢理引っ張り三塁側のベンチ、大阪桐生のほぼ真上の席まで移動した。
「今日も桐生余裕で勝つよ!なんせ前回は羅生徒に勝ったからね!」
熱弁する春香の話にふーんと興味なさげの夏希。
羅生徒高校は大阪の強豪校で毎年大阪大会で優勝争いをしている高校。
甲子園でも数々の成績を残している。
一方の大阪桐生高校も強豪校。ほぼ毎年春か夏、どちらか甲子園出場するほどの高校だ。
対戦チームの佐久良ヶ丘高校は中堅。
ベスト16までにはよく顔を出すが甲子園出場はここ十数年、できていない。
「あ、整列したね!もうすぐ始まるよ!」
両チームの選手が審判の礼!の声と共にあいさつをする。
先行は大阪桐生。
投球練習が終わり審判のプレイ!と言う声が球場に響き渡ったのち、試合開始のサイレンがなる。
佐久良ヶ丘の投手が大きく振りかぶって1球目を投げる。
140キロ前半のストレートがキャッチャーのミットに吸い込まればシーンと心地の良い音を響かせる。
ストライクのコール。
「は、はやい…!」
春香が佐久良ヶ丘の投手の球に驚きを隠せない様子。
「どうしたの?」
「佐久良ヶ丘のピッチャー…とてもいい球投げてる…!」
「確かに速かったね」
「佐久良ヶ丘にあんな投手いたなんて…」
佐久良ヶ丘高校投手、彼の名は神崎。
––ストライク!バッターアウト!スリーアウトチェンジ!
「三者連続三振…!」
「神崎君…だっけ?すごいね」
「凄いけど……、桐生ならきっと勝ってくれる!」
そして試合は0–0のまま9回表へ。
「あー!惜しい!あとヒット一本で1点入ってたのにぃ!」
「夏希…、あんたさっきから佐久良ヶ丘応援してるけど桐生応援してよ!」
「ご、ごめん…、でも神崎くん…カッコいいなって思って」
「…確かにイケメンだけど…」
「イケメンとかじゃなくて…頑張ってる姿がカッコいいなって…」
「……まぁ私は夏希が野球に興味持ってくれたら嬉しいからそれでもいいけど。一緒に野球見に行けるしね!」
「うん!高校野球見に来てよかったよ!どっちが勝ってもまた一緒に観に行こう!」
二人は笑顔で顔を見合わせる。
––6番ショート水沢くん
打席には大阪桐生の一年生、水沢が左打席に入る。
今日は3打数3安打と好調のバッターだ。
神崎がキャッチャーのサインに頷きワインドアップで第1球目を投げる。
–––ストライク!
アウトコースギリギリにストレートが決まる。
だがそのストレートも序盤のような球威はもうない。
神崎は少し疲れた表情を見せながら第二球を投げる。
(ッ!?甘い…!)
–––カキーン!
水沢のフルスイングがジャストミート。
打球はセンターに弾丸ライナーで飛んでいった。
打った瞬間ホームランとわかるその打球は電光掲示板に突き刺さった。
夏希は立ち上がり「あぁ…」と落胆の表情を見せた。
その後はランナーを背負いながらもそれ以上得点を許すことはなかった。
そして9回裏ツーアウト、ランナーなし。佐久良ヶ丘の攻撃。
––7番ピッチャー神崎くん。
神崎が右打席に入りバットを構える。
(神崎くん…頑張って…!)
夏希は祈るように手を組みながら神崎のほうを見ている。
神崎はこの試合3打数0安打。
だが佐久良ヶ丘高校のベンチは誰1人諦めていない。
大阪桐生のピッチャーが振りかぶって1球目を投げる。
––ストライクッ!
キャッチャーからの返球を受け取り第2球目。
––ボール!
そして第3球目。
(甘い!)
––カキーン!
「やった!」
夏希が立ち上がったのも束の間、ピッチャー返しのセンターに抜けそうな打球だったがショート水沢がボールに飛びついてキャッチ。
そして素早く立ち上がりファーストに素晴らしい送球を披露した。
––アウトッ!ゲームセット!
「あぁ…」
夏希は席に崩れ落ちるかのように座った。
「夏希、そんなに落ち込まんでもいいで。桐生相手に凄い試合だよ!」
春香がポンと夏希の肩を叩く。
うん、そうだね、と夏希。
悔しがる佐久良ヶ丘ナインに勝ててホッとした様子の大阪桐生ナイン。
サイレンがなり大阪桐生vs佐久良ヶ丘の試合は大阪桐生の勝利で幕が閉じた。
夏希と春香が地元まで戻って帰路についていた。
今日の試合のここが凄かったあれが凄かったと二人で歩きながら語っていた。
そして夏希の家が近づきじゃあまた一緒に観に行こうね、と春香。
夏希が手にグッと力を込め、
「私、佐久良ヶ丘高校野球部のマネージャーになる!」と言った。
春香は突拍子な夏希の発言に驚いた顔をする。
「ええ!?そりゃあんた…進路決めてなかったけどそんなことで決めていいの!?」
「うん!正直野球のことはあまり知らないけれど、必死に覚えて神崎くんの…そばで野球を応援したいなっ……て」
夏希が少し頬を赤くして俯く。
「うん…まぁそれはいいと思うんだけど佐久良ヶ丘高校偏差値高いけどいけるの?」
「うっ…勉強も頑張る……!」
「まぁがんばんな!あんたの恋応援してあげる!」
春香がバシバシと夏希の背中を叩く。
ここから佐久良ヶ丘高校野球部の甲子園を目指す物語が始まる。