最終話「ただいま。大切なものはここにある」
「なにしてたんだっけ?」
ズキズキと痛む頭を抑えながら部屋を観察し。
ふと、机の上に目が行き、そこにDVDが置かれているのが目に入った。
「あ! そういや『ついさっき』よーっやっと手に入ったんだっけっかなぁ〜、テッレビテレビィ〜〜」
なんだろ。なんかおかしい。
なんか落ち着かないと言うか、変な、感じが……
「あ、あれ?」
黒い鏡のようなテレビの表面に、涙を流している俺の顔が映った。
「お、おっかしいな……って……あれ?」
拭っても拭っても次から次へと溢れ出す。
「な、なんだよコレ。は、はははっ。か、感動するには、ちょい、は、早いって言うか……はっ……はは……」
笑おうとしても、笑えない。
「………うっ……くっ……な、……なんだよぉ……何なんだよぉ……コレッ」
嗚咽を隠そうとしても次々漏れる。声がかすれる。
悲しい。ただ悲しい
ワケがわからない。なにが悲しいのか。どう悲しいのか何故悲しいのか。
わからない。わからないことがより胸に謎の傷をつける。
「うっ……うあぁぁ……」
わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない!!!!
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
こんなのは嫌だ頼む頼む頼むやめてくれ嫌だ助けて
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッ!!!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!!」
我慢が限界を超えた。
喉が避けようが構わない。
発狂しそうな胸の痛みを、どす黒いヘドロのような何かと一緒にぶちまけたい!!!
誰にも聞かれたくない!
自分の弱さを誰かに見せることが何故だかものすごく怖い!!
妹の俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。
そんなものに構っている余裕はない。
早く一人になりたかった。
早く一人になって、自分の痛みを、弱さとともに全て吐き出したかったのだ。
誰もいない裏道を通って、ガンガンする頭を必死で抑えて
昔、すごく小さい頃、友達と一緒に来ることを願った、俺だけの秘密基地。
それ以降、ここに友達が来たことは一度もない。
俺だけの場所だ。
今はそのことに、感謝している。
喜びや幸せの感情など、不思議なくらい微塵も存在しないが。
「ぐっ…………うっ………………うっ、うっ、うっ」
堪えていた嗚咽が再び漏れ始める。
ここなら、誰もいない。
俺しかいない。
それを求めたはずなのに、弱さを実感させられたかのように心は黒い靄に包まれたままだ。
もう、我慢、しなくていい
「うっ……ううっ……あぁぁぁ………………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっっっっっっっ!!!!!!
うぁぁああああああああ!!!! ッッッうわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ…………うっ……
うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
目元を抑え、今まで感じたことのない何かに潰されそうになるように小さくなっていつまでも……いつまでも吠え続けた…………
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…………」
……わけわかんねぇ……でも
もう、どうでもいい。
いくら吐き出してもいくら泣いてもいくら叫んでも終わらない悲しみに、疲れてしまった。
もう、夕方か……
そろそろみんないなくなる頃だろう。
どこか遠くから聞こえて来る音が、次第に小さくなって行く。
そろそろ帰らないと、桜の奴がうるさいだろうな。
でも、動く気力がないんだ。
今、いったい何時だろうか。
辺りはもう暗い。ぼやーとした街灯の明かりが影を作る。
「なにしてるの」
それからただぼんやりと座り続けていると、ふと目の前から声がかけられる。
もう夜中、いや、夜中もそろそろすぎるだろうか。
そんな夜中に、高い、おそらく女の子の声がかけられるということに驚いた。
しかし顔には出ない。
どうでもいいからだ。こんな時間だろうが、幽霊だろうが、なんだろうが。
もう、なんだって。
「泣いてるの」
暗いのによくわかるな、この子。
「なんで泣いてるの」
「…………なんで、なんだろうな……」
わからねぇよ。さっぱりなんだな、これが。
「知りたい?」
「…………」
どうでもいいよ。
「そう、でも私は知って欲しいから、勝手に無理矢理教えますね?」
そういった彼女は俺の目の前に一つの封筒を差し出した。
強引に突き出されたもんだから、つい受け取ってしまう。
それに神経が向いていた時、不意打ち気味にすぐ耳元で彼女の声が聞こえた。
「マスター」
ガバリと自分でも信じられない勢いで顔が上がった。
俺の目の前には、何もないコンクリートの地面が広がっているだけだった。
そういえば、俺はずっと俯いたままで彼女の顔を一度も見ていない。
一体、今のは……
渡された封筒を開ける。
封筒の中には、真っ白なカードが入っていた。
白く。ただ空虚に光を反射している。
「はっ……なんだよ……コレ」
カードにしては硬いし少し厚いな。
板? いや、プレートか?
まぁ、なんでもいいけどさ。
特に何を考えるわけでもなく。
手の中にある真っ白なカードをひっくり返したり回したりする。
「…………?」
封筒が逆さになった時、何かがすり抜けるようにパラリと地に落ちた。
それは一枚の紙のようなものだった。
「…………まだ入ってたのか。……今度はなんだ……?」
紙を拾って、表に返した時、半開きだった目が次第に見開かれていく。
「…………俺? 笑ってる……」
それは知らない人達と、知らない場所で、肩を組んだり身を寄せ合って、皆一様に笑っている写真だった。
「…………………………あ……………………」
夜の暗さが徐々に消え去り、朝日が昇り光を届ける、
枯れ果ててたはずの涙が一粒、写真に落ちた。
「あ……あぁっ……あっ………あっ……あぁああっ……あ」
どんどんどんどん涙が落ちて落ちて落ち続ける。
嗚咽ももう隠さない。
目尻が下がり、口角が上がる。
涙は滝のように頬を伝い、カードに触れた。
カードの色が白から、瞬時に白銀に輝き朝日を反射させる真紅へと塗り替わる。
「…………ッ!!!」
カードと写真を握りしめて、走った。
涙なんか放っておけ。
笑顔だからなんだ。
そんなことを考えるスペースなんてない。
全てが記憶の渦を超スピードで、しかし鮮明かつ正確に読み捌いていく。
思い出した。
『NEW LIFE 、STARTぉぉぉ!!』
思い出した。
『俺の名前は『加賀瑠璃 倭歌砂』! 来やがれ! 赤にふさわしい色に染めてやろう!!』
『お隣さん♡『フロンティア フェスティバル』勝ってくらぁ。行くぜ加賀瑠璃!狙うは『紫』レベル10『病原菌』だ!』
『『奥義』・『超重圧弾』!』
思い出した。
『あ、あの。その……。私『ローレシア・マリン』、とも、申します。15歳です。その……ひっ人見知りで、あまり…………運動とか、得意じゃ無いです……。うぅ…………。マ、『マリ』と呼んでください……』
『俺は弱いとか強いとかの概念じゃなく、『バグ』ってんのさ』
『マリさんが退室するのであれば、考えてもいいですよ』
『とっても美味しいです。ありがとうございます。マスター♡』
『私をネタ扱いしないでください。マスター』
そうだっ、そうだっ!!
『なぁ、光の使徒様』
『成る程ぉ。またその話ですかぁ。ならいつも通りきてくださいよぉ。お相手致しますよぉ。そういう話はぁ。僕と一時間以上戦えたらにしてくださいねぇ』
『その名前はよしてくれ。今の俺は加賀瑠璃 倭歌砂、いや、我が友から貰った名、ライだ』
『初めまして。未来からやってきたスーパーエージェント。時には名探偵。時には大怪盗。ラパンザサーン、ばっちゃんの名にかけて真実はいつも二つでお馴染み。神超越計画総取締役、スターと呼ばれて幾数年、今鶴 虎終お呼びとあらば俺参上』
『どうなっても知りませんよぉ……』
『抜刀・両脇差! 『奥義』・『神速一刀』!』
『『溜めれば高まるこの力・我は未だ天井を知らず』『造刀』『奥義』・『龍斬』!!!!』
『かたじけない。『溜めれば高まるこの力・我は未だ天井を知らず』『造刀』『奥義』・『神斬』』
『『『友情之一撃』ォォォォォォオオオオ!!!!!!!!!!』』
大切な、俺が生きてきた中で一番楽しくて嬉しさに満ち溢れた大切な時間。
取り戻した。思い出した! 満たされる!
忘れたくないと心から願った。俺の物語!
『『『指切りげんまん 嘘ついたら針千本飲ーます』』』
『『『指切った』』』
右手の中指に光の結晶が生まれ、サァァァア……と紅く輝く指輪が戻ってくる。
『向こうに戻ったら、返事。聞かせてくださいね』
あぁ! あぁ! 勿論! 勿論だとも!!
早く! できるだけ、一秒でも、一瞬でも、早くっ!!!!
「…………ッ……はぁっ……はぁっ……」
あともう少しで家に到着するという道に入って
家の前に茶色髪の、黄色の大きなリボンが特徴的な少女の後ろ姿が見えた。
その隣や前には、長い白髪の青年と、銀色でウェーブのかかったふわふわとした印象の少女の後ろ姿が。
あいつらが。確かに俺の前にいる。
それが消えてしまわないように。
祈りながら、確かめるように。
一歩。また、一歩と足を踏み出す。
ふと茶色髪の女の子、『アズ』がこちらを振り返り。
その満面の笑顔で両手を広げながら
「お帰りなさい」
両手を広げながらその満面の笑顔で言ってくれた。
その事に、夢じゃなかったんだと、大切なものは確かに、ここにあるのだと心から思ったのだ。
そうだ。これは終わりなんかじゃない。
これからもこいつらとの。アニメと俺の物語は、きっとまだまだ続いていく。
なぁ、皆んな。次は何処に行こうか。
楽しいことがいっぱいあるぞ。俺が保証する。
俺やアズだけじゃなくて、他のアニメのキャラクターが他のアニメにお邪魔するとか、なんそれって感じだけど。
なぁに大丈夫。アニメなんだから。
『アニメの世界じゃなんとやら』だ。
裏道の影から、光のさす家へと足を踏み出して
満面の笑顔で答えた。
「ただいま」
【完】
『アニメの世界じゃなんとやら』無事完結です。
皆様、今までありがとうございました。
処女作で至らぬ点が多い、いや、もはや至らぬ点しかなかったようなこの作品。修正が入り続けたこの作品ですが。
ひとえに完結させることができたのも、読んでくれる皆様がいてくれたおかげです。
今まで本当にありがとうございました。
この作品。書いていて作者自身、とても楽しかったです。
もし何か機会があったら、番外的なものを書くかもしれませんね。
最後に、最終話までお付き合いしてくださった読者の皆様、ポイントをつけてくださった方に
心からの、感謝を。
【終匠 竜】




