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アニメの世界じゃなんとやら  作者: 終匠 竜
アニメ:闇と光の世界地図 編
51/52

第51話「エンディングは目の前に。でも、それは……?」


俺の体が薄ぼんやりと光り始め、白い胞子のようなものが浮かび上がり始める。


状況についていけない俺を置いて、次々と目の前にいた存在の姿が消失していく。


守護神・ガーディア。安楽さん。桜田。そして、弄月と三鷹。



体の感覚が遠ざかり始めている俺の前に残ったのは、目を見開くライとマリ、そして、俯くアズだけだった。


「あぁ、これ。日本に帰るってことなのか」


確かに目的は達成した。

ならば、帰ると言うことになってもおかしくはあるまい。


「……そ、そんな! クレァさん! 帰っちゃうんですか?」

「う、うん。まぁな。あ、あぁ。大丈夫大丈夫。すぐに戻ってくるって」


悲しそうにするマリに一瞬わけがわからず動揺してしまった。

またいつでもこっちに戻ってこれる。

だから俺的には『打ち上げくらいしたかったなぁ』くらいの感想しかなかった。



そんな簡単に考えていた俺に、アズがニッコリとした顔を作って言葉を投げかけて来た。


「おめでとうございます、マスター。神を超えしあなたこそ、至上のお方です」

「あ、あぁ、ありがと」


なんだ。

なにか、おかしい。

アズの様子が、どうゆうことだ。なんだ、なんなんだ?


「目的達成により、マスターは日本へと強制送還されます。送還にあたり、この世界で起こったこと全ての記憶の剥奪が行われます」

「………………え?」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ど、どうゆうことだよ……記憶の、剥奪? え?」

「…………」


ニッコリとした仮面が我慢の限界に押しつぶされたのか、ついにアズの顔がくしゃりと泣きそうな顔になる。


「……すみません……すみません、マスター。私は、マスターに、隠していたことがありました……」


そのアズの言葉に息がつまる。

何かを言いたい筈なのに、何をどうすれば言葉が出るのかわからない。


「……以前、私が、時間等は気にしないでいいと言ったことはお覚えでしょうか?」

「も、勿論……」


だからこそ、この世界で俺は何ヶ月と生活したのだ。

それの何がおかしいのだろう。


「時間を気にしなくていい理由は、今、日本の時間はマスターがこの世界に来た時間(とき)から停止しているからです」


時間停止? そうだったのか。あ、あるよね。ス○ンド的な。


「マスターが日本のご自分の場所に戻るとき、世界の時は逆転し、その時から今ここまでのすべての記憶が、巻き戻され零に帰ります」



絶望というのは、まさしくこのような感情を言うのだろう。

頭の中が真っ白だ。記憶が、無くなる?

今日までの、大切な、すべての記憶が?


「なん、で…………なんで言ってくれなかったんだよ……アズ!!」

「何度も、何度も言おうと思いました。でも、もしそれを言ってしまわれたら、『貴方はきっとこの世界にずっといようとするでしょう』」

「当たり前だろうがっ!!!」

「だからです」


記憶がなくなるなんてことがあるんだとしたら、この世界にずっといようと思って何が悪い!!!


「あっちじゃ俺は何もないんだよ! あんなクソみたいな世界で生きてたってなんもないんだよ! だからこの世界に来たかったんだ! 何もない、何も持たない、何もくれない、俺にとってあそこは、孤独と否定と悲しみしかない世界なんだぞ!!」

「それでも貴方が生きる世界ですッッ!!!!!!!!」


気づけば涙を流していた。

俺の痛みを言葉にして無理やりに叩きつけた。


返答は、俺以上に感情が込められた言葉だった。


アズを見れば、アズも同様にぽろぽろと涙を流し続けていた。

プルプル震える手を裾を握りしめることで必死に抑え、嗚咽を漏らすのを唇を噛んで堪えていた。


「……あ、アズ」

「貴方が生を受け、貴方という存在が生きた世界です!! 帰らなくてどうするんですか!!!!」


でも、でも、俺は……


「最初は、嫌われればいいって簡単に考えてました。どんなに仲良くなっても、私のことを嫌いになればマスターがちゃんと帰れるって。

でも、無理でした。マスターが私に笑いかけてくれるたびにその思いは揺れ動き続けて。嫌われたくありませんでした。

おかしいですよね。…………だって私……システムなのに…………マスターを最大限サポートする……システムなのに…………自分のことを優先しちゃったんです。マスターが傷つくことを、知らぬふりして承知して、それでも、……我が身可愛さに……」

「俺が、お前を嫌いになんて、なるわけないだろ」

「何度記憶のことを教えてしまおうかと思ったことか。何度、マスターとずっと一緒にいられるならって……ずっとずっと悩んで悩んで、もう言っちゃおうかな、なんて思ってました。昨日のお布団のなかで、言おうと決意してたりなんかもしてました……」

「…………なんで、言わなかったんだよ」

「マスターのせいですよ?」


震えるアズの声が戯けたようにすこし軽くなる。


「マスターが、止まりたくないって、もう逃げないって、本心に嘘はつきたくないなんて、言うから。私考えちゃったんです。

私のしていることは止まることじゃないのか。逃げではないのか。本心は、どうなのか。

逃げない、後悔しない選択。マスターを自らの我儘で縛り付けることなんかじゃないって。

マスターは、帰るべきなんです。そう、思ったんです」


アズが俺のことを思ってくれていることはよくわかったよ。

でも、消えちまうんだぞ…………お前はそれでも、いいのかよ……


「でも、ずっと一緒にいたいって思いも本心です! だから、それからも逃げません! なぜ二択を迫られて、どちらか一つしか選べないのでしょう! 私は欲張りです、二つとも諦めない!絶対に思い出してもらいますから!」

「はぁ?」

「私はマスターのために作られた、マスターのためだけの存在。きっと、いえ、絶対に、貴方を離しません! 貴方の元に行きます! 絶対に、なんとしてでも!」


わかる。アズは自分で自分の言葉を信じきれていない。

どうすると言うんだ。俺の願いから生まれたお前は、俺の記憶が消えたらどうなるかわからないんだぞ。


「それでも、私は……私達は! 貴方の元へ参ります!!!」


ライとマリがうなづく。


「向こうに戻ったら、返事。聞かせてくださいね」




アズの作り笑顔が、こんなにも胸に突き刺さったことはない。


頼む。


笑ってくれ。


お前には、笑っていて欲しいんだ。


お前の手を握って、笑顔にしてやりたい。


でも、俺の体はもうない。


だから、せめて、今できることで、なんとか、


「…………………………………………ったい、だ」

「……え?」

「絶対にだ! 絶対に来いよ! 来なかったら、ゆる、ゆ、許さない!! 許さないからなぁぁあ!!!」


バカ野郎。

相手を笑顔にさせたいのに、自分が泣いて、どうすんだ。


励ましたかった。

それでも結果がこれか。

俺の全力だったんだがなぁ。



もうほとんど体の感覚が無い。視界もほとんど白に塗りつぶされている。

もうあまり、声が聞こえない。声が出たかもわからない。

通じた、だろうか……



「はい………………はいっ!!! 仰せのままに! マスターッ!!!」

「任せろ……友よッ!」

「はい! 私、わた、わたしっ、もっ、ぜったい! ぜっ、ぜったいの、ぜったいの、ぜったいです! だから、またもう一度ッ!!!!」


三人の声が、何故だか鮮明に響いた。



「さよ…………ならじゃ…………ない……ぞ…………また、……また、絶対に


お前……たち…………と、で………………出会う。…………なんと、して……でも………俺の


ち、……ちっぽけな力を…………振り絞って……ぜっ…………た……い………………


忘……………………………………れ………………な…………………………………―――――――――」



バシュンッッッ!!!!!



ザザーーーーー、ザッ…………ザ、ザッ…………ザーーーーザザザーーーー……ザッッッ


ブツンッ!!!!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「うわぁ!!!」


叫び、体が起き上がろうとし、その勢いのせいでソファから崩れ落ちる。


「いっつつつぅ……」


頭を抑え目を瞑り。

まぶたの奥に、ポニーテールの女の子の影がぼんやりと映ったような気がして……


ブチリッと音がなり、電源が落とされたテレビのように真っ暗になる。


ゆっくりと目を開けて……散らかった自分の部屋を見渡す。




「あれ? 俺………………」






































「なにしてたんだっけ?」






ついに、忘れてしまった主人公。


今までの人生の中で、最も輝いていた時間(とき)を奪われた彼はいったい……


次回、最終話ですッ!!!


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