第46話「さらば故郷よ。俺は道の先を行く」
大変長らくお待たせいたしました。
申し訳ない。
これから終匠 竜のブーストがかかります!
更新速度をバリバリにしていきますので、どうぞよろしく!
「……ありがとう、美里。もう、大丈夫だ」
「何があったのかわからないんだけど、よかったわセット」
「その名前はよしてくれ。今の俺は加賀瑠璃 倭歌砂、いや、我が友から貰った名、ライだ」
「…………そう、ライ。なら状況を説明してくれないかしら? お友達の彼も紹介してね」
「あぁ」
もういいよね!
もう中に入ってもいいよね!
今現在この建物の中には俺たち以外起きてる人間はいない。
通信のその他諸々も潰しておいた。
あまりにいたたまれなかったからその場から離れ、隠れながら全員を眠らせるべく建物の中を移動し続けていた。
誰にもバレなかったと思う。
もう三周はした! いい加減中に入りたい!
あぁぁぁ、いや、でも!
「ス、スターよ。い、いるかー?」
「お、おーう。い、いるいるー」
芝居がかった棒読みの二人の会話だが。
断じてふざけているわけじゃない。ふざけているわけではないのだ。
大事なことだから二回言った。
お互いに意味もない緊張をしてしまっているだけだ。
俺の返答がいかに現代人っこの馬鹿さ加減を表す口調であっても、大真面目である。
「ナカニハイッテモイイデスカネー」
「イイニキマッテイルトモー。ハイッテオイデー」
かくかくかくかく・きびきびきびと行進して美里さんの前に立つ。
ここからは緊張すら叩き潰さねばならない。
真面目な顔で座る美里さんを見下ろす俺の視線に、ニッコリとした優しい笑みを浮かべる美里さん。
「初めまして。未来からやってきたスーパーエージェント。時には名探偵。時には大怪盗。ラパンザサーン、ばっちゃんの名にかけて真実はいつも二つでお馴染み。神超越計画総取締役、スターと呼ばれて幾数年、今鶴 虎終お呼びとあらば俺参上」
「………………………………………………………………………………は?」
混ざった。色々と。
◇◆◇
「―――――― と、いうことでして」
「にわかに信じられないことですが……セット……ライが今の仕事に行っている間に、わたしが殺されると?」
「……俺のせいで未来が変わっていなければ」
本来ならば俺に眠らされることはなかった科学者諸君。
これで完全に未来は変わっただろう。
変えるつもりはなかったのだが、そこに美里さんが関わっているのなら話は別だ。
美里さんは事前に殺されるのを前々から防ぐか、間に合わなくてもライの能力で生き返らせる手はずだったが。
生き返らせるという案は、時を巻き戻した後ということが関係してなんらかのラグが発生してしまうんじゃないかという結論が出て最終手段ということになった。『時空』の能力について詳しく聞いてから三鷹と詳しく話し合って決まったことだ。
俺からすると。ライにたとえ生き返らせることができるのだとしても、もう一度大切な人を失う苦しみを叩きつけるのは個人的に嫌だったというのもある。
「そして。ライを兵器に覚醒させると?」
「はい」
美里さんの目が少し釣り上がる。
「神殺しの兵器に覚醒させて、貴方はライをどうするつもりなんですか?」
「俺の計画を手伝っていただきたいのです。ですが、それが必ずしも利用ではないとは言い切れません。どうか、お許しをいただけないでしょうか」
なんかこれ、プロポーズした相手の実家に挨拶しにきたみたいなシチュだな。
「待てスター。俺が覚醒すると言ったのはあくまで俺自身が決めたことだ。もしお前が頭を下げるなら、俺も下げねばなるまい」
俺にならい腰を九十度に曲げてのお辞儀をする。
俺よりシャッキリしているように見えるのは俺の気のせいだろうか。
「…………神殺しは、禁忌です」
「別にこ、殺すわけじゃないんです! ただ戦ってねじ伏せられれば」
「さっきも説明しただろう。相変わらず抜けているんだな美里」
「セット! じゃなかった、ライ! 貴方だって変わらないじゃない! 抜けてなんかいませんっ!?」
わからなくはないんだ。
自分の息子が、世界に禁忌を犯そうとしていたら。
そりゃ止めるだろうさ。
「それに神を倒すなんて……言われてもあまりピンときませんね」
「そのためにライの力が必要なんです。どうか」
「頼む」
「うーーん。セッ、ライのお友達だから信用してるけど……」
「あのぉ……言いづらいならセットでいいのでは?」
「「そういうわけにはいかない(よ)!!」」
さ、さいですか……
「と、いうわけだ美里。血くれ」
「えぇ……」
「吸血鬼の血って直接飲んで大丈夫なんですかね? 蒸発したりしません?」
「どこの知識それ……特に何もないと……思う……試したことないけど」
「いやいや。世紀の神殺し兵器の覚醒アイテムですよ? 絶対なんかあるでしょ」
なんかなかったら逆に怒る。
「頼む。美里。俺を、俺を人間に戻してくれたたった一人の友の役に、立ちたいんだ」
「ライ…………」
ライの奴……泣かせるじゃねぇかこの野郎。
ライの真剣さが伝わったのか、美里さんが諦めたように首を縦に振った。
「わかったわ……。ねぇ、スター君。いえ、今鶴君って呼んだ方がいいのかな?」
「どちらでも。好きなようにお呼びください」
「…………私に依存して他の人と仲良くなることがなかったライが、初めてお友達だという人。ありがとう。とても嬉しいわ。あと、さっきは悪い態度をとってごめんなさい」
「気にしないでください。当然のことですから」
「貴方さえ良ければ、ずっとライのお友達でいてください。じゃあライ? 準備はいいかしら?」
徐に指を齧った美里さんは、俺が取り出したグラスに一滴の血を垂らす。
「勿論だ」
「では、コレを。吸血鬼の血液を取り込み、強靭な肉体と精神をその身に宿しなさい」
ぐっとグラスを傾けたライが、充血した目を見開き、仁王立ちのまま咆哮を上げ、身体中に走る激痛を倒れる事なく堪える姿をしかと見届けた。
◇◆◇
「「「えぇぇぇぇぇぇええ!!」」」
「たははっ」
「僕たちぃ、今到着したばかりなんですけどぉ……」
「もう解決しちゃったんですか!」
「ま、まぁね」
今到着したのか。ちょっとした距離なのにだいぶ時間差が出るんだな。
だいぶいかれてた奴らがいたし。三鷹め、だいぶギリギリに時間設定しやがったな。
「ライさんが見当たりませんけどぉ?」
「あいつなら今頃、城を壊滅させてお姫様を攫ってきてるだろうな」
「なんとなく察しです。マスター」
最近なんかあまり元気がなかったというか、話すことが少なかったアズからいきなり通信が入ってこんな山奥に来いと言われるとは思わなかったよ。
携帯やスマホみたいな高性能なものじゃないんだけどな。よく見つけられたもんだ。
「私の使い魔としての能力がありますからねぇ。でもなんかもう終わっているみたいでしたし。急に出て行ったら失礼かと思いまして」
「そっか。ありがとうな」
「いえ…………いえ」
その時、アズの表情がほんの少し暗くなったように見えたのは、気のせいだろうか。
「あぁ、ライさんが帰って……なんですかぁ、そのおっきな荷物ぅ」
「こら三鷹。美里さんだ。ちゃんと挨拶しろ」
「あ、これはどうもぉ。……まさか記憶を残すおつもりで?」
「まぁな」
「どうなっても知りませんよぉ……」
「大丈夫、だと思う。ダメなら神様倒した後お願いするよ」
「脅迫の間違いではぁ?」
うるさいなぁ。
ほら、早く帰ろうぜ。
要件は済んだ。長居は無用。
「あ、あの。私は一体何を」
「ライが見送ってほしいそうです。本当なら未来に連れて行きたいそうなんですが……」
「待てスター。そこからは俺が自分で言わねばならないと思う。美里。会えて良かった。本心を言うならば、もっと貴方と一緒にいたい。だが、この世界は、この時代は貴方の生きる時代であり、俺が生きる世界じゃない。逆もまた然り。だから、この世界の俺を、幸せにしてやってくれ。任務が終わった時には、もうこの都市が崩壊していることに気がつくだろう。この世界の俺が帰ってきたら、スターがくれた荷物と、この世界の俺の力でここから東にある街に行くんだ。あ、それと名前はライに変更しておくことを忘れないでくれよ。俺はリセットマンではない。ライだ。ただし、この世界の俺が、美里がつけてくれたセットという名を気に入っているというのなら、無理にすることもない。頼んだぞ。
行ってくる…………か、……………………母さん………………どうか、お幸せに」
ライの最後の言葉に遂に限界を超えたのか、ポロポロと涙を流す美里さんが
「はい。行ってらっしゃい、ライ」
ニッコリと、満開の笑顔を作った。
こちらに手を振り続ける美里さんを尻目に、タイムマシーンは飛び出して行った。
次元の穴が完全に閉じた後、何事もないようにあぐらをかき腕を前で組んでいる下を向いているライに近づく。
側から見ると寝ているようにしか見えないが。
俺はゆっくりと、なまはげみたいな伸び方をした白髪の頭に手を乗っける。
「悪い。俺の方が年下だし。こうゆうの、プライド傷つけるかもしれない。でも」
何も言わないライに向かって言葉を続ける。
「お前は自分の正しいって思うことをしたんだろ? こうあって欲しいと思うことをしたんだろう? ならいつまでもうじうじすんな。胸を張れ。誰だってできることじゃない。それに、きっとまた、会えるさ。な?」
ぽたり……ぽたりと、タイムマシーンを濡らす水が笑顔で俯いているライの目から次々とこぼれた。
これで、ライさんの光の使徒編は終了です。
エデン行くことになって〜、三鷹と戦って〜、未来に行って〜、ここまでがライの過去と今を振り返るそんなお話でした。
次の更新は、おそらく明日です!




